+ トッキュー!!感想 +



第十三巻
□十三巻。
兵悟の回想からです。
兵悟の保校時代。補欠入学でみんなより十日ほど遅れて保校のある京都は舞鶴にやってきた兵悟はハイテンション。
「うちのねーちゃんの旦那が海自で舞鶴いたらしいんですけどね!」
って小さい吹き出しで書かれた兵悟の台詞が笑いと哀れを誘う。
そう、舞鶴って言ったら海保じゃなく自衛隊。佐世保っていったらもちろん海保じゃなく自衛隊。呉なんて海保どころじゃなく自衛隊一色で(略)
まあ、でも、仕方ないよネ☆
この回想編ですが、番外編でやるなら分かるんですけど以前も言いましたけどメグルが意識不明で緊迫した雰囲気の中で脳天気に長々と回想を挟まれても困ります。私、最初に読んだ時は過去じゃなくリアル(メグル達)の状況が気になるわゆっくり読んでる時間ないわでこの回想はすっ飛ばしました。
改めて読んでみると、別に面白くないわけではないんですけど、やっぱり構成がなーと微妙に感じます。保校のプロモですか? みたいな内容ですしね。
ちなみに、ズラッと制服教官がいましたが……保校の幹部には保校卒特修科出が多かったりします。校長とかもね。つまり閑職扱いで(略)

兵悟は大学に進学するお金がなくて、そして海でレスキューしてご飯食べたい、って夢から保校を目指したそうです、が。
それなら最初から保校じゃなく保大目指せばいいんじゃね? と思ったり思わなかったり。潜水士にしたって、保大出が「俺、潜水士になりたいんスけど」って言えば優遇されるべ。
まあ、彼らはエリート様々扱いだから、一生雑用したいってのなら保大を勧めはしないが。
でもねー、昨今海保に限らず「レスキューしたいんなら帰ってくれ」って言われる可能性ってかなり高いと思うんですよ。だって保安官の仕事はレスキューではないから。レスキューはおまけに近い。彼らの仕事は雑用湾岸警備なわけで、特に兵悟の所属する七管なんて領海侵犯してくるふてえ野郎ども追いかけ回すのが仕事ですからね。
この漫画は、海保本来の業務をけっこう無視してるよなーと思います。

ということで、近藤教官と水泳勝負をしながら回想を終えた兵悟は「常に前へ進め!」という言葉を思い出して気持ちを新たにします。
この回想、実にコミックスの三分の一強の長さです。

常に前へ進む、という結論を得て浮上した兵悟は真っ先に橘主任のもとを訪れます。T9スライダーの研究を進めたい、と。
橘主任は橘主任で、こっそりスライダーの改良を続けていました。当然ですね、研究者なら絶対そうするはずですから。
兵悟はそのスライダーを貸してくれるよう懇願し、「絶対に本番で使わないのなら」という約束で貸してもらって仕事の合間を縫って、みんなの目を盗んでT9スライダーの検証に励みます。なぜ事故が起こったのか、なぜメグルは降下を制御できなかったのか、ひたすらデータを集める日々です。
そんな折り――、基地長がスーツで神妙な顔つきをしたオッシーを伴って事務室に現れました。
「本日付けをもって、押尾はトッキューを辞めることとなった」
たぶん、オッシーがオレンジを着ていなかった時点でこう言われることはみんな分かってたんでしょうけど、長倉は必死に訴えます。
「あれは隊長の責任ではありません!」
でもオッシーは何も言うな、と。行けと言う判断そのものが間違いだった。その責任を取る、と。
涙目の長倉、歯を食いしばる嶋さんに塾長たち。みないたたまれない思いなのは同じでしょう。
オッシーがオレンジをデスクに残して去り、四隊の面々はロッカールームに籠もって泣き崩れ……、嶋さんは事務室で険しい表情。
兵悟は自分だけが頑張ってもどうしようもない無力さを感じるのでした。
メグルくん、早く目を覚ましてよ……、と祈りつつ病院へ行くと病院にはメグルの両親とお祖母ちゃんが来ていました。メグルは父親似であることが判明。
あのメグルの親にしては随分まともっぽいが、はて……? と思っていたら、祖母ちゃんがとんでもない人でした。
集中治療室にたばこをくわえたまま入る破天荒ぶり。
正直……、この場面だけは「まあ漫画だから」ということと祖母ちゃんのキャラで許せましたが、この漫画は度々こういった倫理的に首を捻る場面があるのが残念です。どこで感じたかはまた追々話すこととして今回はスルーします。
祖母ちゃんは兵悟を見るなり「あんた神林兵悟くんやね?」と言い当てました。なんでもメグルはしょっちゅう祖母ちゃんに電話をかけては「兵悟くんっていうムカつくヤツがおる」と愚痴三昧だったそうで……、だ、だめだアイツ……ガキすぎて末期症状だ……。
お祖母ちゃんによると、メグルは典型的な祖母ちゃんっ子だった模様。とは言え、いくらなんでも二十歳過ぎてまで愚痴電話かけまくるとかねーよ(笑) むしろトッキューに行くことになって「今までお世話になりました」的に自分の給料でなんか祖母ちゃんにプレゼント贈って感動させる場面だろ。未だに祖母ちゃんに甘えてるってどんだけー。祖母ちゃん的には手のかかる可愛い孫だろうが、その甘やかしがああいったアホガキを生み出してしまうわけですね。モンスターペアレンツ予備軍じゃねーか。
しかしメグルは下手に地元が近いのでメグルの話になると懐かしい気持ちになるのが複雑です。
メグルの大好物のブラックモンブランはマジで安くて美味しいし、当たりはずれのクジついてるのでよく「アタリもう一本!」で感動してたりしました。
昔メグルは「松露まんじゅう一気食い」とかやってたそうですが……、これは何かというと佐賀銘菓です。小さくてうっすいカステラ生地にあんこがたっぷり詰まった小さいお饅頭です。すごく美味しいです、が。一気食いすると胸焼けおこしそうです。おまけに高いので、もったいないっす。
佐賀に行った際にはぜひご賞味あれ。私は佐賀錦も好きです。

さて、場面変わってトッキュー基地。
オッシーが辞めて、長倉は急遽副隊長から臨時隊長に昇格しました。副隊長に昇格して数ヶ月、早すぎる出世です。しかも次の隊編成では正式に隊長ですから長倉の出世スピードはんぱねぇっす。
しかし長倉はロンリーです。
そんな長倉を、やっぱり心配してしまう我らが嶋本隊長です。
「大丈夫か? 四隊の副隊長としてこれから大変やろうけど……」
「隊長代理を引き受けた責任を果たします、俺、押尾隊長の分も頑張ります!!」
隊長になりたての嶋さんとしては、長倉の緊張とかは嫌と言うほど分かるんでしょうね。……どうでもいいが、長倉の方が年下だと思うと、嶋さんの童顔具合ってどんだけーと思わずにいられない。
あんま無理すんなよ、と声をかけていると基地には兵悟がやってきました。
「嶋本さん、これを見てください!」
と兵悟が嶋さんに手渡したのは今まで密かに実験を繰り返していたT9スライダーの検証データ。
現状ではT9スライダーに欠点や欠陥は見つからない。でももっと高さのある場所から降下してデータを集めないと正確に検証ができないから、その許可が欲しい、と嶋さんに頭をさげる兵悟です。
しかし――、横から聞いていた長倉は憤って兵悟の胸ぐらを掴みました。
「うっとうしいんだよ! お前の勝手な思いだけでトッキュー全員の足並みを乱してるってわからないのか!? ――こんなもん作ったから、押尾隊長はッ!」
そして兵悟からスライダーを奪い取って床に投げ捨てると、事務室を出ていきました。
まあ、これは長倉も自分が悪いって分かってると思います。そもそも兵悟に八つ当たりすんのは大間違いだし、八つ当たりすんならメグルにしろって話です。
「頑丈なもんやな……」
床に落ちた降下器を拾い上げて、考え込んだ嶋さんはおもむろに兵悟に言いました。
「明日、これを持って防災基地に来い。俺も検証に参加する。石井の降下事故原因をしっかり見極めたい」
兵悟は隊長にこう言ってもらえて感極まって「ありがとうございます!」と嶋さんの手を握りしめてましたが……速攻で振り払われてました(笑)
まー、好意的に解釈をすれば。嶋さんはなんだかんだで隊長会議の時に感情的になってたことを反省してたんじゃないかなーと思うわけですよ。あの場で一番冷静かつ一番正しい意見だったのは塾長の「プロジェクトに問題はないし、事故は石井の単なる自業自得」だったわけで。
「せやけど石井は俺の教え子やから」なんてトンチンカンにも程がある事を言ってしまった手前、今更「やっぱ副隊長の意見が正しかったと思う」なんて言えないだろうけど……、嶋さんとしてもプロジェクトを進めた方がいいって気持ちはあったんでしょうね。
そして翌日――、横浜の防災基地で降下実験を行って分かったことは。やっぱりT9スライダーは今までのカラビナや8環よりも全てにおいて上回っていて凄いということでした。
ならば何故メグルの事故は起きたのか?
突然の突風でバランスを崩したのか、それともメグル自身のスキルの問題なのか。
どちらにせよ可能な限り事故が起きた時と同じような再現現場で実験しないと検証にならない、という隊長に「俺がヘリからリペ降します!」と兵悟です。が、まあそんな許可がすぐ降りるくらいなら隊長だってこんな場所でコソコソ実験なんてしないわけですよ。
俺にはわからん石井だけが知ってる重大な秘密でも隠されとるんか? とスライダー片手に考え込む隊長は自身の携帯が鳴ってるのにも気づかない始末です。嶋さんて集中すると周りが目に入らなくなるタイプなんだな……。兵悟に指摘されて携帯を取ると、それは羽田からの呼び出しでした。
低気圧の影響で海難が頻発してて対応しきれないから、三隊も羽田に詰めてくれ、と。
羽田に二人してもどるとちょうど二隊が出動しているところでした。久々に大羽です。ていうか大羽の登場シーンていつもこうだよなー。南部隊長が「急げ、大羽!」て言いつつ頑張る大羽くん、みたいな。
そして二隊の出動を見送った所で海難通報が飛び込んできました。
場所は爆弾低気圧により大荒れになっている九州。の、対馬は浅茅湾。商船学校の訓練生を乗せた龍精丸が座礁。
海王丸座礁事件じゃねーか!!
漫画は緊迫したムードなのに、漫画に盛大に突っ込む羽目になってしまいました。これほど元ネタが分かりやすいというのはいかがなものなのか。事件の詳細は知らずとも、海王丸座礁事件があったということ自体はある程度歳いってる日本人なら誰でも知ってることなのに……。
とまあ、T9スライダー改めM2スライダーが出てきた段階でこの流れが読めすぎててかなり萎えていたにも関わらず、まんま来ちゃって気持ちをどうもっていったらいいのか分からない心境でした。
ただ、こういった元ネタがあるものを題材にするのが悪いとは思いません。今までの海難だって似たり寄ったりではありますし。ただ……これはあまりに有名すぎたということです。
えー、商船学校とは大浜高専のことで「まさか近藤教官……」と近藤教官の安否を案ずる兵悟。
隊長も100人を超える要救助者の数に頭を抱えております。本部はすぐさまこれを大規模海難と認定、三隊は重すぎる任務を背負って羽田を出発です。
ていうか「なんでこんな日に学生乗っけて船出した!?」と青筋立てて怒りまくってる塾長がやっぱり正解だと思います。三隊の神様は塾長です。
さーて久々にファルコンか……と思ったらガルちゃんだあああ!!!
うおおお、いつの間にガルフに変わったんだ!? わー、私はファルコンよりガルフ派なのは以前書いた通りなのでここでテンションがだだ上がりでした。
確か羽田のファルコンは2005年前後にガルフと役目交替したので、漫画もそれに合わせたんでしょうね。
ガルフはねー、本当に「カッコイイ、スマート」という言葉がぴったりの機体です。見た目の硬質さもさることながら、この機体は本当に静かというか、飛んでたら音ですぐに分かります。空気を切る音がシャープというか……「クーーーーン」という表現しがたい感じです。
しかしながらこれは自衛隊のガルフIVの話なので、海保のガルフVがどうなのかは残念なことに間近で飛んでるの見たことないので分かりませんが……まあ似たようなものでしょう(笑)でも、何度も格納庫にいるガルちゃん見ましたけど、ほんとカッコイイわーなんて見惚れてしまいます。
まあでも、名前的にと言うか漫画的にはガルフよりファルコンのほうが良いですよね。
「ファルコンから〜〜へ」とか「××、ファルコンへ転送する」とか響きがいいよね、ガルフより。
ただ、この漫画で残念なのはブルーイレブンが一度も飛ばなかったことですかね……。ビーチやサーブは飛んだのに、YS-11だけなかったのは寂しい。国産機なのに。奇しくもこの機体は今年後継機としてダッシュ8に替わってしまうので、もう見納めですね。つか既にダッシュ8は海保機として飛んでいたように思いますが、少し前に羽田でブルーイレブン見たので、私にとってはあれが見納めになったかもしれません。
ダッシュ8はなんというか、とても面白い外見してるので楽しみですけどね。

さてさて、三隊は対馬空港でスタンバっている福岡基地のヘリに乗り換えるそうです。と言うことはベル412やね……、私212派なんですけど……と思ったけど前巻でシーダック君見れたし、ピューマはもともと好きでもない上飽きていたのでバッチコーイ。(ちなみにベルのほうが好きというだけでピューマが嫌いなわけではもちろんなく、あれはあれで可愛く思ってます)
福岡航空基地は、福岡空港の国際線ターミナルの隣にあるんですけどこれがまたなかなか面白いんですよ。
空自・(ちょっとした空間)・海保・消防・警察。
みたいな感じで並んでるんですけど、いつも色々な機体がいるので面白いです。
最新の記憶では空自の基地にチヌークとT4がいて、駐機場から滑走路に移動する777の窓からチヌークをガン見しつつ、見切れた辺りで海保の基地を見たんですが。見事海保の412と消防のドーファン、警察のドーファンが並んでいました。ついでにANAの子会社のドーファンが滑走離陸している超カッコイイ場面にも遭遇して地味にドーファン祭りが起こっていました。
ドーファンと412、どっちが好き? と問われると考え込んでしまいます。ベルかアエロスパシアルだったら断然ベルなんですが。ドーファンは割と好きだし、412はベルの中では特別好きな方ではないし。ま、迷う!
でも消防と警察の塗装はイマイチ好きではないので、自然海保の機体を見てしまいますね。ただANA子会社のニッポンヘリの塗装は好き。要するに白と青が良いのかな?
そんなわけでやっぱり412で浅茅湾に向かう三隊です。が……着いた現場は思いの外荒れてるわ降下スペースはないわ障害物だらけだわで、「なんなんや……」と隊長も愕然です。
風も酷くて、横風に振られる412。
「嶋本隊長! 機体の安定が保てん、これ以上ここに留まるのは……!」
って今度こそ渋いオヤジパイロットきたわああああ!!!
はいはいはいはい、テンションあがってきましたよ! いやー、やっぱ機長はこうでないと! 恵子ちゃんも次は「嶋本隊長」って呼んでね?(笑)
目のいい兵悟はマストに二名取り残されているのを発見しました。
その様子を……なんと龍精丸の救助に来た「しらは」の坂崎さん達も見ていました。「どうする、トッキュー?」と。兵悟が乗っているのまでは当然知らないんですけど。
オッシーもメグルのいる病院のテレビでその様子を見て、「あの時と同じだ……バンちゃん」と思い巡らせるのでした。
横風が強く、機体を維持するのも困難な状況で。でも、マストに二名取り残されているとなれば事態は一刻を争います。
どうする? 嶋本隊長。
今、彼の背には目下二名の命はもとより乗船している100余名の命がのし掛かっています。この重圧を背負わなければならない隊長は、やっぱりキツイでしょう。
嶋本隊長は一言、言いました。
「神林、あの降下器とスタティックロープ、持ってきとるやろ?」
バレてしまったか……とは兵悟ですが、兵悟が密かにT9スライダーを持ってきていることを確信して隊長は言い放ちました。
「俺に貸せ!」
兵悟も大口も塾長も愕然状態です。
もしもあの船が沈没すれば死者109名。それとも目の前であの二人が振り落とされるのが先か? どっちにしても何も出来なかったら海保始まって以来の大惨事。――一個の人間として、トッキューの隊長としての覚悟がそこにありました。
「下にはトッキューが何とかしてくれると信じとる人たちが沢山おるんや! 何もせんでケツまくって帰れるか!? 俺で結果出せんかったら、あとは一ノ宮さんお願いします!!」
「了解!」
これぞ決死の覚悟。死者を出さないのがトッキューのポリシーかつ嶋本進次の信念でもあったはずですが、彼は今、例え死んでもやれる可能性にかけるという答えを出しました。ここでまた「了解!」って言っちゃう塾長が熱いですよね。任せられる副隊長がいるから隊長は前線に飛び込んでいける。なんか初めて塾長と嶋さんの信頼関係を見た気がします。
「石井がなんでこの降下器で事故ったか分かってないんですよ!? 今使うのは危険すぎます、反対ですっ!」
けっこー冷静だな大口(笑) 
大口はあれだね、嶋さんより人情に厚くない分、隊員として一人は欲しいタイプかもねやっぱり。
しかしながら嶋さんも本来は今の大口みたいな意見を言うタイプです。それが一か八かの可能性に賭ける気になったのは根底に散々T9スライダーを検証して自分なりに「この降下器に欠陥はないしめちゃめちゃ凄い」という結論を出したということがあると思います。そうじゃなければ「無謀」と判断して泣く泣く引くこと選んだでしょう。
嶋さんは隊長命令としてスライダーを渡すよう兵悟に言うんです、が、兵悟は「貸せません!」と拒否。
自分は降下器開発の時からずっと関わってきて、マニュアルを作るために何度も降下して、トッキューの中で一番降下器のことについて知っているのは自分だ、と。
「だから、俺が行きます!」
兵悟のその発言に「今のは正論だな……」と塾長。
「スキルより経験よりこの場で問われるのは新型への熟練度だ。隊長としての責任感で言ってるんだろうけどここはあんたじゃない、神林の出番だ」
塾長にそう突っ込まれてタジタジの隊長。でも、こういわれてゴネたりせず、判断が速いのが嶋本隊長の良いところです。
隊長は一言命じました。
「よし、行け」
と。
大口は反対していたようですが、多勢に無勢です(笑)
そしてちょうどその時――、集中治療室のメグルが目を覚ましました。
一方の兵悟達は見張り台の僅かなスペースに降下することを決定。
機長は降下タイミングをトッキューに託し、ホバ状態に入りました。するとヘリに通信が入り――、受け取った隊長はメグルからの伝言であることを兵悟に伝えます。
一ミリでもいいから梯子の幅を狭めろ、と。
要するに摩擦によってスピードを制御していたものが、降下距離が長ければ長いほど限りなくゼロに近くなって自由落下状態になるので、それを遅らせろ……ということです。が。
そんなの……降下器の抉れ具合見れば、すぐ分かったんじゃ……特に橘主任とか。とか思ってしまったことは秘密です。
「今日は何隊が来てんだ?」
船からヘリを見上げた坂崎さん達。まさに降下しようとしているのが兵悟だと分かってビックリです。
まさに全国生中継で国民が見守る中――兵悟は降下しました。
しかし上空から見守る嶋本隊長の目には迫り来る大波が映っており――。やばいですよねー、何がヤバイってヘリとロープで繋がってることですね。下手すれば墜落の危機です。
でも兵悟は「この位置ならいける」と果敢に降下して速攻で離脱。確保取れ、という指示もさっそく無視してマストに取り残された二人を救助しに走りました。
全国民が、隊長が息を呑み……そして隊長の目には、どうやったのか謎の行動力でスライダーにその辺のロープくっつけて二人を両手で確保してぶら下がる兵悟の姿が映りました。
ちょ……、どうやって処理したんだよ速すぎるだろ兵悟(笑)

「壮絶な光景です……!」

その驚異的な映像は全国へリアルタイム配信です。
「吊り上げに時間かかりすぎばい」
病院でメグルは悪態つきながらも笑顔です。
「一人の命も失うことなく救助を完成させましょう!!」
「はい!!」
隊長の指示に力強く返事をする塾長、大口。そして次巻へ。
つか塾長も隊長も緊迫してるのに、既に笑顔でやり遂げた気満々の大口って一体……お前ほんといいよなー(笑)


□一三巻私的ベスト台詞。
「俺で結果出せんかったら、あとは一ノ宮さんお願いします!」
あえてこの台詞を抜き出しましたが、「俺に貸せ!」以降の隊長の台詞全部です。
これぞ漢……!! これは真面目に格好良すぎる。そして隊長の壮絶な覚悟を受け止める副隊長も格好良すぎる。そして舌の根も乾かないうちに意外にも兵悟の方がいけるかも? って思ったら速攻で「あんたの出番じゃねーよカッコつけんな!」って言っちゃえる塾長が素敵すぎる(笑)
いやー、ほんと、三隊は塾長で回ってますね。あと、嶋さんは聞き分けがいいっつーか瞬時にベストな判断が出来るのも良いところ。
正直俺の教え子発言で「コイツどうしよう」と思ったんですが、やっぱり隊長は隊長でした。
あれが「せやけど俺の教え子なんや……!」ってモノローグで葛藤しつつ「三隊の意見は今一ノ宮さんが言った通りです」とでも言えば完璧に格好良かったのに……と残念に思いつつも、その後の隊長を見る限りやっぱりあの場は冷静さを欠いてたんだなと分かったのでまあ納得。
まあ、仕方ないですよね、まだ一年目だしネ!
あとは死ぬ覚悟を決めたのは海難の規模もありますよね。黒岩隊や押尾隊の遭遇した海難の規模だったら、嶋本隊長はこのような判断はしなかったと思います。そういうギリギリ感がまた漢な感じを醸し出していて……やっぱ三隊いいよなーと思った次第です。
そして、隊長としてのし掛かる重圧は予想以上だと思います。
実際問題として、ここで嶋さんが「無理」と判断して引けばあとは自衛隊が何とかしてくれると思います。トッキューが引くということは、そういうことです。
けれども一秒を争うマスト上の二人は確実に死ぬし、後発の自衛隊が来るまで龍精丸が持つかは分からないし、100余名を見捨てたとしてマスコミ各方面からバッシングされることは関の山。家族は路頭に迷っちゃうかもしれません。悲しい公務員の宿命もまた背負ってる隊長です。
そしてそして、やはりプライドもあると思うんですよねー、無理だと思ったらいち早く「自衛隊さんお願いします」する勇気も大切だと思うんですけど屈辱だろうし、そんな諸々の葛藤を抱えつつ瞬時に判断しなきゃならないのが隊長ですから。
降下器開発に携わり、かつメグル事故後も検証を重ねてきた。目の前にいるのはあまりに大量すぎる要救助者しかも子供。そんな事情が重なっての「俺が行く!」という判断であり「よし、行け」と兵悟に託した判断だったんだろうなーと思うと、本当に嶋本隊長は熱い!

とは言え……私はやっぱり何で「自衛隊さんお願いします」しないの? と疑問です。長崎の知事は何をやってるんだ? わざわざ羽田からトッキュー呼ぶより近場の救難隊呼んだ方がよほど速いし正確だべ。
これは、どの災害にも言えることですけど、自衛隊の救難は今回の座礁事件だっていち早く情報入れて「いつ呼ばれてもいいように」って万全の状態で待機してるんですよね。
結果として嶋本隊が救助を無事終えたら「あー、よかった」で済むことなんですけど、彼らだって行きたい気持ちはあっても要請がないと行けないから「なぜもっと早く」「なぜ要請が来ない?」ってやきもきしちゃう部分は絶対ありますよね。
そう思うと……各基地めっちゃ海保と自衛隊でお隣さんってことが多いので、互いの出動をどう見守ってるのかなーと思うとシュールですよね。
海保が「無理でした」って帰ってきて「じゃあ行ってきます」ってお隣さんが出動していくこともあるわけで……うーむ;;
今回の海難、今だったら場数こなしまくってる第72航空隊呼ぶのかなー。やっぱ羽田は遠いZE。

 


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