+ トッキュー!!感想 +



第九巻
□第九巻。
「派遣と言うても一年で帰ってくる予定や。隊長がトッキューを辞めるわけやあらへんのやから大したことないやろ」
嶋さんはそう言うも、やっぱり二人は意気消沈気味で……。
メグルは投げやり気味にドカッとベンチに横になり、兵悟も自身がレスキューのためにトッキューに来た気持ちは変わらないけど寂しい、と。
気持ちが沈めば、肉体の疲労という現実はより重くのし掛かってくるものです。兵悟もようやく雨に濡れて冷えた身体を自覚したらしく、定時連絡の時間が来ても動けない状態になってしまいました。
一方、真田は無事羽田に着きました。
高嶺さんも寝ていた所に呼び出されたらしく、寝癖ついたままの出勤です。可哀想に……。
行軍はどうなった? と真田に訊かれて高嶺さんは全員疲労がたまってヤバ目な状態らしきことを伝えます。
「行き着けば、そこにあるのは、ガンダーラ?」
調布手前にいるタカミツはかなり弱気になっているようです。大羽はもう俳句でも川柳でもなく辛さを羅列するだけで……。行軍開始から12時間以上が経過、食事も睡眠もとらずに歩くのはこれからが一番キツイですよね、とは高嶺さんですが……一人空腹じゃないヤツがいるけどな!! メグルは普通に食事を取ったということで、その辺はかなり他のみんなより楽だというか。
iPodの充電も切れたし、なんでこんなこと……と思いつつも兵悟に負けるのは嫌なのでそろそろ出発の意志を見せるメグル。どうでもいいけど私のmp3プレイヤーは丸一日くらいは余裕で充電持つんですが……iPodってそんなにすぐ切れるものなのか?
送り出す嶋さんは、笑顔でメグルを励まします。
「羽田まであと27キロ! 頑張って行ってこい!」
しかしメグルはまたしてもまるっと無視。嶋さんは握っていた拳を青筋立てて震わせるしかないわけで……本当に軍曹お疲れっす……。
黒岩さんはここから20キロが一番キツイぞー、と忠告。そのラスト20キロこそが真のトッキュー行軍であり、本当の自分に会えるのだ、と。

八巻の最後で「真田はもうネイビーシールズ行って現実知れYO!」みたいなこと書きましたけど、この行軍のような訓練生のどん底を暴き出すような訓練はトッキューに限らずよくやります。極限状態でこそ現れるその人の本性を見極めて、更なる選抜を行うためです。
真田の場合、シールズの地獄訓練に何とかついていけたとしても……メグルは絶対無理だと思います。例え基礎力はあっても「もう無理!やめる!」って言うでしょうネ。

まあ、例のごとくメグルは「100キロ程度歩いたところで分かる人間性になんの価値が?」みたいにやさぐれモードです。
土砂降りの中ずぶ濡れで歩いてたゆえにお巡りさんに声かけられたら、お巡りさんにガン垂れて絡んでました。
公僕のくせに……とか思うメグルはしょっちゅう国民の税金だ血税だなんだ言ってますが、それを言うなら税金で消防学校行ってせっかく一人前にしてやったのに速攻で辞めて、こんどはまた国民の皆さまの税金で保校通って潜水士にしてトッキューまで行かせてもらってんのにこんなところでやさぐれる。今後も何か気にくわないことがあればすぐに辞めようとする。そんなお前が一番税金の無駄遣いだろ、と思わずにはいられない。この研修でお前を一人前にするためには当然もの凄い額の税金が投入されてるって分かってんのケ? 訓練のためにヘリ飛ばすのにいくらかかってるか知ってるか?
口先ばっかのガキ、しかも一応保安官でありながらなにを偉そうに。
おまけにそのお巡りさんに「羽田行くなら道間違えてるよ」と教えられる始末だし……。真面目に考えれば考えるほどメグルは無理だ……まだ高校生くらいなら救いもあったが……。
しかも「1キロ手前で曲がる予定やったのに、1キロ無駄になった」とは……2キロ無駄になったんだろ……ついに算数までできなくなったか……。
そして世の中腐ってやがるZEモードになっちゃたメグルさん。いるよね、こういう中学生とか高校生って。
メグルは兵悟の動向を気にしてましたが、兵悟はまだまだ狛江市役所前から動けない状態でした。さすがに心配になった嶋さんは「寝たら死ぬで! しっかりせえ! お前をここで死なすわけにはいかん!」と兵悟を叩き起こしながらリタイアしろと言うんですが……そんなとき、なにを思ったか兵悟は嶋さんの手をしっかりと握りしめました。
「あったか……チャージ……!!」
現地調達物資ゆえに嶋さんの肌の温もり(笑)もOKなんですよね? なんて言われれば嶋さんも肯定するしかないわけで……鳥肌立てながらも付き合う嶋さんマジお疲れっす!
兵悟は漂流していた時に比べたらこの状況はまだマシだそうです。まあ陸に足ついてるし人もいるしね。
「ほんまに大丈夫か? 死ぬぞ!?」
心配げな嶋さんに兵悟は笑って絶対生きて羽田に行くと言い残し、再び走り出すのでした。
兵悟の強み……それは絶対に生きて戻るという強烈なイメージができることなのかもしれない、と感じる嶋さん。
さてさて、そんな強みなんて持っていないメグルさんは……「使ったらリタイア決定」という一万円を持ってコンビニでドカッと食料を買い込んでいました。
「なんかもう、どーでんよか。こっちからやめてやるったい!!」
思いっきり肉まんを握りしめ……、最初からこんなこと無駄だって思ってた、真田さんもいなくなるんだったら、と肉まんに口を付けようとした瞬間――。
手元から何者かに肉まんが奪われてしまいます。
「誰や!? ッ……星野……君……?」
そう、そこにはなんと星野君がいたのでした。
「なにしに来たとか? トッキュー辞めたやつがおるところやなかろーもん」
相変わらずな物言いのメグルをスルーして星野君はメグルから奪った肉まんを一気食い。
「わーー! オイのプラチナポークマン! オイの唐揚げちゃんウルトラレッド! オイの――」
無言でメグルの買ったものをかっ食らう星野君にメグルは噛み付く噛み付く。
「オイがリタイアするとでも思って笑いに来たとか? トッキュー辞めた当てつけか? オイば恨んどるとやろーもん」
よりにもよって一番会いたくないヤツになんで……とメグル。被害妄想激しいなオイ。
星野君はそんな罵倒を一頻り聞いて、普通の話をします。
「雨、凄いね。こんな早い時間じゃ最初飛ばしてきたでしょ? 巡視船の先輩が前に行軍やってて応援に来たことあったからみんなの応援したくて、この辺通るかなーって思ってさ」
そんな話を耳に入れつつ、もうどうせ金も使ったしさっさと帰るばい、というメグルを引き留め、星野君は何かを手渡しました。
「コレ、ごちそーさん。――こんな所で腐ってたらもったいないよ、行きなよ、みんなメグルを待ってる」
そう、メグルが使った一万円を渡して星野君は笑って行軍を続けるよう促したんですね。
「待っとるもんか」
「待ってるって!」
「知らん。もう疲れた、帰る」
「わーー! じゃあコレ、これケーサツに届けて、さっき拾ったんだ。俺はここでみんなを待ってるから」
ガキのような返事をするメグルに星野くんはほっとミカンを渡し、メグルは「重かけん中身は捨てていくばい」と可愛げのないことを言いつつも受け取って去っていくのでした。
星野君がもしこの行軍に参加してたら……いや、アンタはもうそこから動けん人やけんね、なんて相変わらずなことを思いつつ走り出すメグル。
「ははっ、かわんねーなーメグルは」
星野君は笑ってましたけど……こいつマジで変わんねーからな!!
こうして星野君の優しさに触れて、成長していくのかなーってまだこの頃は期待してたけど……マジで変わんねーメグルさんはマジぱねぇと思いますよ。
さて、羽田までは残り20キロです……。マジで星野君に感謝しろよメグル。一番キツイ時を支えてもらったんだから。
そしてそして、他のメンバーもあと20キロを目前にして色々精神的にガタが来ているようです。
なんでこんな所を歩いてるんだ、帰りてぇ……と道路に倒れ込んだタカミツは眼前に消防署を見つけ、トイレを借りようと中へ入っていきます。
すると消防署の人はタカミツの風体を見て「トッキューの人? 100キロ行軍今年も来たんだ、お疲れさまです!」と笑顔で迎えてくれました。
毎年のことだからもう慣れているらしく、タカミツを暖かい部屋へ招き入れてタオルを貸してくれ、お茶を差し出し「一人で大変だったでしょう?」と労ってくれました。もう人情にタカミツは号泣するしかないわけですよ。うん、もうタカミツは大丈夫だね!
一方の大羽。痛めた足を庇いながら歩いて更に痛めて……自分の限界を見極めるのも訓練だと、次に軍曹に会ったらリタイアを告げよう、と思っていたところでその軍曹の声が響いて来ました。
「なに下向いとんじゃ大羽ーーー!!」
「っ、軍曹……」
「もうやめる? 帰る? 帰る?」
「う……」
「そんな元気のないヤツは羽田に来んでいい! はよ帰れええ!」
あまりの言われようにボー然とする大羽。しかし、嶋さんはこうも言いました。
「あー、ちなみにタカミツはさっき狛江市役所のチェックポイントをヘタレ気味に出発したで、10キロ先や」
その言葉に、思ったより離されてはいなかった……と大羽。まだ追いつける、と思ってしまったんでしょうね。このままじゃ終われん!と一気に奮起した大羽は痛みを堪えて走り出しました。
「大羽ーーー、がんばれーーい!」
そんな大羽を見て、嶋さんは嬉しそうに応援するのでした。
いや、ほんとね、大羽と嶋さんは良いですね。大羽だけが他人の情に触れずに「軍曹の多大なる愛叱咤」を受けてのみ100キロ行軍完走ですよ(笑)
のちに嶋本組になっちゃった大羽を思いながら読み返すとほんと面白いです。嶋さんはほんと相手をよく見ていると思います。あの煽り方って絶対大羽相手じゃないとできないというか、タカミツはちょっと弱い所もあるからあまり叱咤すると悄気てしまうし、メグルだとやさぐれてしまうし。
嶋さんにとって、大羽は絡みやすいというか話しやすいというか、ソリの合う相手だったんだろうなーと。
このあと、嶋さん達は狛江市役所に先回りして大羽を待つんでしょうから……辿り着いた大羽になんて声をかけるのかな? なんて想像してみるのもまた楽しいですね。
えー、一方羽田です。
仮眠を取っていた真田が目覚めると「隊長、カレーできてますけど食べますか?」と高嶺さん。うう、優しいなぁ……高嶺さんカレー作ってたんだ……兵悟達のためにだよね……。ああ、しかもゆで卵剥いてるよ高嶺さん……!  なんという素晴らしい気配り。
さてさて、午前四時です。全員多摩川沿いにいるとのこと。……私も、日野の多摩川沿い歩いたことありますけど、日野から羽田なんて、想像すらできないっす。ほんと大変ですね。
タカミツがコンビニでお湯をもらって土手で休みつつ身体を暖めていると、なにやら人影が近付いてきました。こんな朝っぱらからジョギングか? と振り返るとそこにいたのは――。
「あと少し、オレンジ色まで、あと少し」
「うわあああくんなあああ!!!」
タカミツを捕らえて追いかけてくる大羽でした(笑) いやー、これは地味に怖いわ(笑)
大羽たちを追っていた嶋さんは大羽の追い上げにビックリです。
嶋さんによれば大羽は狛江市役所チェックポイントで背負っていた荷物を全部捨てて行ったそうで……。
準備器材の大切さを知ってストレスを排除しながら作業効率をあげる大羽。現地調達で足りないモノを補いながら自身の体力を信じやり過ごすタカミツ。――どっちもトッキューにとって大切なことや。その大事さ、死にかけんとなかなかわからんからな、よう身体で覚えとけよ。と微笑む嶋本教官です。
W軍曹の贔屓の二人、嶋さんは前者の大羽を評価し、黒岩隊長は後者のタカミツを可愛がっているというのが何とも面白い所です。お前ら、自分と似たタイプが好きってナルシストかい?みたいな(笑)
ちなみに星野くんは缶コーヒー持って大羽とタカミツに声をかけてましたが、二人は気づいていなかったようで……追いかけて缶コーヒー渡せたと思いたい。徹夜で同期の行軍に付き合うなんて星野君はほんといい人すぎる。車か自転車か分からないけど、絶対大変ですよ。
さて一方の兵悟とメグルは田園調布にいました。
兵悟は地図を落としてしまって環八がどっちか分からなくなっている様子。迷っていると倒れ込んでいる死体っぽいのを発見し……慌てて駆け寄るとなんとメグルでした(笑)
兵悟はメグルに会えて嬉しかったのか「じゃあ一緒に行こう!」と笑顔で誘うんですがメグルさんなのでまるっと無視です。いつものごとくiPodで自分の世界に入ってるんですが、お前充電切れてるだろ、というツッコミは神視点だからできること。
いつもなに聴いてんの? って訊くも兵悟君にはわからんばい、って返されて、なんでいっつもウォークマンして人の話きかないのさー、そんなに良い物なの? と言うと「どがん風景でもこうして見ると映画みたいに見える。キツい時でもこうすれば意味のあることに思える」とメグル。
なんかいい話みたいな演出ですがメグル……お前が聴いてるのベリーズ工房とかだろ? と思うと……ごめん、ドン引きっす。
なんだかんだで一緒に先へ向かう二人。兵悟はまだ本当の自分には会えていないらしく、ちょっとした傾斜や僅かな段差でも腹立たしく思ってしまう、と。
あと五キロくらいで蒲田というところまで来て……。
「兵悟くんもう終わりね?」
「いやいやメグルくんこそまだ休みたいんじゃないの?」
例によって意地の張り合い始めた二人は体力の限界だというのに走っちゃいます。ほんとOBAKASANだねぇと思いつつ、青春っすね。
早朝の東京……東京といえど人通りはほぼなくて、静かな中……「本当の自分って……」と考えつつ必死に前だけを見ていると、不意に後方から何か近付いてくる気配がしました。
嶋さんらのハイエースか? と思って振り返るとなんと、追い上げてきた大羽とタカミツがそこにいたのでした。
嶋さんたちは蒲田に先回り。保安官な格好してるから「なに、事故?」と周りから警戒されているようで……、まあオレンジ見てトッキューて分かるマニアはそうゴロゴロいないだろうからな。分かった所でやっぱり「事件?」て思うだろうけど。
視線の先に四人揃って蒲田に現れたヒヨコ達が映り……「これから仲良う四人でゴールって感じっすかねえ」なんて嶋さんは呟くけども、奴らはそんなタマじゃねえよな(笑)
信号が青に変わった途端に我先にと走り出した四人を見て「まだ勝負を諦めとらん!?」って驚くも、一般人の歩く速度にすら負けていて、「気合いだけか……」と呟きつつあと五キロだから頑張れ!と励まして自転車で伴走。
遮断機が下りそうになっても走る四人。あっぶねぇなあ止めてくれ……と思うも兵悟一人が電車に捕まり……、全く後ろを気にしないメグルと遮断機に捕まってしまった兵悟を心配する大羽とタカミツがらしくて良いですね。
兵悟は遮断機の前で自転車にぶつかられて倒れ、大羽は先の横断歩道が赤に変わる直前でダッシュし、タカミツはダッシュしきれず倒れ……みな思いはそれぞれです。
誰を抜いたとか、誰に抜かれたとかはもうどうでもいい。ただ自分を出し切ってゴールするんだ……とタカミツはそんな風に思える自分と出会えたようでした。
大羽は必死にメグルを追います。もう少しだから気持ちも軽いし足も痛くない。だけど……どれだけ頑張っても追いつけない。いっそ清々しいのぉ、と晴れやかな笑顔です。
一方のメグルは足元のレンガに腹を立てておりました(笑) 兵悟もいなくなったし大羽も大分離したし、つまらん、と。嶋さんに伴走されながら走るメグル。突き放したはずなのになかなか大羽が諦めてくれなくて……、嶋さんからこんなことを言われました。
「後ろから一人近付いてきたで! さっきからずっとすごい追い上げや!」
そこでハッとしたメグルは初めて自身の後ろについてきていたのが大羽ではなく兵悟だと気づき――。現れた兵悟の姿を見て、初めてメグルは笑顔を見せました。
「そう来んば……面白うなかぞ!?」
ラストスパートをかける二人。もう嶋さんもあまりの走りっぷりにビックリです。
あと数百メートル。基地で皆を待つ真田、佐藤専門官、高嶺さん、星野君たち。
嶋さんの自転車では追いつけず、嶋さんは着順の判定を真田に託し――。
タッチの差で、メグルの勝利でした。
「おめでとー! 100キロ無事完走すごいすごい!」
満面の笑みで拍手する星野君。
「この天候と真田のせいでダメかと思ったが……20時間以内は上出来だ」
サラッと厳しいツッコミを入れる佐藤専門官。
「お風呂沸いてるから入りなよ、行軍のために特別にカレーも作ってあるし食べるといいよ」
どこまでお母さんなんですかな高嶺さん。
でも、だけど……ここで一番の見所は、初めて「鬼軍曹」ではなく「嶋本進次」の心からの笑みを見せてくれた嶋さんでしょう!
「よー追い上げたな神林! 踏切で離された時はもうアカン思たぞ! まあ二人ともよーやった、完走おめでとう!」
くしゃくしゃな笑顔ってこういうの言うんだろうなー、本当に嬉しいんだろうなー嶋さん。
でも、兵悟は「うわあああ!!」と雄叫びをあげて……勝ちたかったのに、悔しい、と。
「まだ余裕がありそうだな? あと20キロくらい走ってきたらどうだ?」
とは真田ですが……うん、「冗談じゃなかです!」と言ったメグルに同意だよ……。
さてさて、大羽も戻ってきました。
これをやりきらないと見つけられない自分……見つけたのはどんな弱った時でも譲れない強さだった、と。
星野君とタッチを交わしてゴールした所が何とも感動的です。歳が近いからか仲良かったもんね。
……そう言えば星野君は「先輩が行軍してたから」って言ってたけど……それって数年は前のはずで……リアルで特救隊になれるまともな年数に照らし合わせて普通のコース歩んできたと考えると彼は若くても26、7歳くらいなのかな? 
ということはもうすぐ階級あがるんですね星野君。ただでさえ横浜勤務で給料良さげなのに。そりゃ気前よくお釣りも回収せずメグルに一万あげるってもんです。さすがエリートっす、マジぱねえっす!!
ていうか実は星野君、保大で嶋さんとは一緒だったんじゃね? と思うわけで……だってあの人浪人してるから真田より二学年下だし。保大みたいな狭い空間で将来潜水士になるような人材同士が互いを知らないって有り得ないんだけども……。まあいっか。星野君と大口は確実に互いを知ってる関係だろうけど、接点がなかったぜ……!(笑)
ということでビリはタカミツでした。
俺がビリか……と思いつつヒョコヒョコ歩くタカミツ。
「もーちょっだ頑張れ! さっき石井と神林はすごいデッドヒートやったぞー!」
「足、痛くて……」
「足痛いなら逆立ちしてけばいーじゃん!」
「んな無理っすよ……」
W軍曹に励まされつつも歩いているとちょうど出動していた隊が戻ってきました。
もうすぐオレンジの仲間入りだぞ、頑張れ、と出動隊にも励まされて感極まったタカミツは黒岩さんの提案通り逆立ちをやってみせてみんなを驚かせ……(笑)
人と交わる楽しさ、笑えることの幸せ、そしてみんなに支えられて生きているということをこの行軍で知ったのでした。
さてさてさて、無事に全員ゴールしたところで最後の一句です。大羽さんのをご紹介したいと思います。
「優しさと、カレーの匂いに、包まれたなら」
えー、現在魔女の宅急便がマイブームらしい大羽さんは見事にインスパイアされた句を詠んでしまったのでした。目に映る全てのことはメッセージです。
大羽の句のせいで頭の中ユーミンですが、大羽が「譲れない強さ」とか言いながらゴールしてきた時は頭の中に「とまーらないー未来を目指してー、ゆずーれないー願いをー抱きしめてー」と流れ出しました。
そうして無事ゴールし終えてお風呂に入って食事もして、最後まで諦めないでよかった、と弛んだ顔で仮眠室で寝るヒヨコ達。
しかし、しかし影の立役者であるW軍曹はゲッソリとしているのでした。
「暢気な顔で寝やがって〜……こちとら一睡もしてねーのにYO!」
「ま、今年も無事事故もなくリタイアも出さず終われて良かったっすね……」
雨の中で歩いたせいで足がふやけて全治十日。戴帽式も延期。だからせいぜい夢の中でオレンジを着とけや、と寝ている四人の前にそっと嶋さんは彼ら用のオレンジ隊服を用意してあげました。
そうです、兵悟たちは今……羽田にいるのです。

さて、怪我も完治し、ついに戴帽式です。
当庁で最も厳しい訓練が必要な特殊救難隊、とか言われてますが……比べるモノじゃないって分かってるけどSSTのほうが(略)
ようやくトッキューとしてのスタートラインに立ち、敬礼をする四人。
しかし……なんじゃそのバラバラの敬礼はー! 角度合わせんかいッ! 貴様ら保安官歴はあるんだからやれるだろ? あ? と思わずにはいられない感じの敬礼でした……(笑)
W軍曹はキッチリ礼の角度合わせてんのに……しっかりしろよ全く……。
大羽はヒヨコ代表だったらしく謝辞を述べたらしいんですが、カミカミだったようで……(笑) 星野君いないから大羽が一番年上かつ階級も上なんでしょうね。
メグルは本部長から被せてもらったベレー帽を「カッコ悪いから」と自分で被り直したらしく……。ほんとにコイツは(略)
分かっていたけどベレー帽似合わないよなーと言うタカミツ達。うん、私もそう思うっつか似合うヤツいないと思いますYO。ある種ベレーは特殊部隊的なものの証だから諦めてくれ! 外国人だってギャグっぽくなってるから仕方ないんだよ!
ホントにオレンジというのは派手なんですよね……私も中学のジャージがオレンジそのもので、どこに行くにでも「あのジャージだけはどこの学校か分かる」と言わしめた伝説のジャージで、近くの中学が揃って阿蘇山に登ったときなんか頂上から下を見れば他の学校は自然に紛れてるのにオレンジだけは不自然に目につき一発で分かり……オレンジの強烈っぷりは知っているつもりです。
だからこそ、こういったレスキュー系の人達がオレンジの制服を選ぶというか、一発で分かるから、ということでオレンジを使うわけですね。
でも不思議なもので、慣れるとオレンジジャージじゃないと気が済まなくなるので……たぶん兵悟達もそのうち馴染むと思います。
さてさて、いよいよ隊配属です。当然真田隊というのは存在しないので愚痴るメグル。
「真田さんのおらんトッキューなんて星のない夜空、クリープの入っとらんコーヒーばい」
「よし石井、オレンジ今すぐ脱げ。沖の鳥島に異動させたる、日本の海は任せた」
私もそれに一票です嶋さん。でも日本の海は危なっかしくてメグル程度には任せらんないっす。
さてトッキューの隊はシャッフルした結果ドラフト会議を行って、隊長自らメンバーを選ぶのだとのこと。
ヒヨコの割り振りは一隊に一人。どの隊になるかは各自ミーティング場所を伝えるからそこで判明するので今は言わない、と嶋さん。
「自分を選んでくれた隊長に感謝してオレンジに相応しいトッキューになるんやぞ、ええな?」
それが、教官としての嶋さんの最後の教えでした。
教官、本当にお疲れさまでしたー!

いよいよ兵悟もトッキューの一員としてお仕事開始です。
兵悟は初日から当直隊だと嶋さんに告げられていたので、戴帽式の翌日から張り切って出勤です。
「今の神林って子じゃないの? 同じ隊だろ?」
「マジっすか? 車で乗りあって行くの言ってなかったんでしたっけ……あっ、俺やっと後輩ができるんだ! 先輩っすよ俺!」
そんな会話がバックで交わされているとは知らず、今日も兵悟は浜松町経由で無駄に遠い道のり出勤です。この頃になるとさすがに京急の乗り方を覚えたと信じたい。
誰と同じ隊なんだろう? 隊長は誰だろう? とはやる兵悟。
基地の前でそわそわしてると、一台の車が横付けされました。更にそわそわしてると降りてきたのはスキンヘッドのおじさん。
え、この人もトッキュー? なんて思ってると、そのおじさんはおもむろに玄関の方を向いて頭をさげました。
「隊長、おはようございます!!」
え、隊長? と兵悟が驚いていると後ろから聞こえてきたのは――。
「おはようございます」
こ、この声は……青ざめて震える兵悟の振り返った先にいたのは……。
「おはよう神林。第三隊隊長――嶋本進次です」
そう。嶋本教官改め、嶋本隊長なのでした。
いやー、兵悟ほどじゃないにしても私もものっそ衝撃を受けました。トッキューを大人買いした時、どうしてもしなくちゃならないことがあって読む時間が取れず、でも買ったからには一気に読みたくてすごいスピードでバーッと読んじゃったんですよ。
だから嶋さんに関しては「あー真田の丁稚みたいな人ね」という今にして思うと大変失礼なことを思ったまま「あー教官なんだー。あ、あっぱ副隊長だった」という本当に適当な感じで読んだので「隊長です」といったこの場面見て、「えええ昇格させちゃって良いのー!? それ安直ちゃうん? この人が隊長で大丈夫なの?」なんてもう自分を殴ってやりたい事を思ったわけで……嶋本隊長、本当にごめんなさい。私が間違いでした。あなたほど隊長に相応しい人はいません。
ていうか……嶋さんは役職的には昇進だけど階級はどうなってるんだろう? 隊長は二等海上保安正だけど、保大出は普通に五年くらい勤務してれば二正になれるし……32くらいになってまだ三正だったらあまりに哀れ。更に海保は役所だし階級じゃなく役職重視だから、階級は既に横滑りで役職での昇格だと思いたいんだけども……。うーん。
ちなみにこの場面で初めて嶋さんの本名が判明しました。
おはよーございます、と現れたもう一人は高嶺さん。階段の上に立って高嶺さんや兵悟の目線をやっと追い越す嶋さんがちょっと哀れです。
「本日付で三隊隊長を仰せつかった。神林、お前は手放せん存在や。一年間よろしゅうたのむわー!」
俺は嶋本さんに選ばれたのか……? また、この人の下なのか……正直、ショックだ。あの笑顔の裏にはきっと何かあるんだ。とショックのあまりリアル劇画調になってしまった兵悟さん。
最初に読んだ時、嶋さんが兵悟を選んだことは兵悟好きとしては嬉しかったんですけど「お前は手放せん」とまで言うとは思っていなかったので……かなり引っかかってたんですよね。あれ、そんなに兵悟のこと評価してたっけ? みたいな。後々違ったんだと分かってショックやら「あ、やっぱり」やらで複雑でしたよ。
でもドラフトでヒヨコを選んだあとに「自分を選んでくれた隊長に〜」なんて言って聞かせたんだな、と思うとすごい面白いです。嶋さんのその時に心理やいかに? みたいな。
さて、さっきのスキンヘッドのおじさんはなんと副隊長でした。一ノ宮一陽さんというそうです。
隊長に嶋さん、副隊長に一ノ宮さん、隊員兵悟に高嶺さんということであとは二人です。兵悟がいそいそとロッカールームに入って挨拶をすると、既に来ていた二人がいました。
実はさっき車で乗り合いじゃなかったっけ? と言っていた二人なので当然微妙な空気が流れるも……パッと笑ってくれたのは若い方。
「ようこそ、三隊へ。俺は大口誠治郎。一年先輩だから。オオグチじゃなくオオクチね!」
一見明るい鹿児島育ちの青年です。もう一人は「佐々木小鉄です」と一言言ったまま行ってしまいました。大口によると小鉄の心の扉は永久凍土で閉ざされたままなのだそうです。……単に無口ってだけじゃんね。
さて、晴れて全員エプロンに整列。――これが、嶋本隊であります。
やーなんていうか、私この隊本当に好きなのでいつ見ても「嶋本隊整列」の場面はワクワクしますね。
嶋さんは高嶺さんと、兵悟は一ノ宮さんと、大口は小鉄とバディ組んで朝の体操です。
嶋さんはずーと不自然なほどに笑顔で「隊長になったのが嬉しいんだな」なんて思う兵悟ですが……何やら不穏な雰囲気。
そして当直交替前の容儀点検です。服装のチェック等々を副隊長がしていく緊張の瞬間でもあります。
ヨシ、と言われた小鉄はホッとしますが大口は二カ所指摘されて一回につき十回のペナルティである腕立てを始めました。
兵悟は「大丈夫だ」と思うも鬼のようにチェックされ……計十二カ所。ズボンまで脱がされて青ざめつつも百二十回の腕立てを始める兵悟。
そんな兵悟を見て「これは新人なら誰しも受ける通過儀礼やけど……明らかに回数を水増ししとったな、一ノ宮さん」と一ノ宮さんを見つめる嶋さんでした。
俺のシゴキなんかまだまだ可愛い方やぞ。新米隊長としてこんなやりづらい副隊長と組むとはな……笑わな潰されそうや、と今朝から嶋さんが笑顔だったのにはちゃんと理由があったわけで。
嶋さんにそこまで言わしめる一ノ宮さんのニックネームは「一ノ宮塾長」。ヒヨコ隊の先代の教官だったそうです。同じスキンヘッドだからと言って決して10人いればアメリカに勝てたであろうあのお方ではありません(笑) が、嶋さん・黒岩さんがハートマンぽくて軍曹と呼ばれているように自然と「なんか一ノ宮さん江田島塾長っぽくね?」ということで塾長呼びになったんだと思われます。
以後、私も通りがいいので一ノ宮さんのことは塾長と呼ばせてもらいます。
腕立て終わった兵悟のことを「大丈夫?」と気遣う高嶺さんは三隊のお母さんであります。
そんな三隊を見守って「一ノ宮が副隊長じゃ嶋本も気が抜けんな……」と呟くのはトッキュー基地の基地長でありました。佐藤専門官によれば嶋本隊に塾長をねじ込んだのは基地長らしく……食えないお人のようです(笑)
トッキューの基地には基地長の他に佐藤専門官と、トッキューOBである山田専門官と森管理係長しかいません。他は全部トッキュー隊員です。今は次長ポストもあったかと思いますが。
公務員ですから、清掃も裁縫もその他雑用も全部トッキューはトッキューで回すんですね。モノの発注も自分でするらしく……ボールペン一本買うのも許可降りないほどの海保ですから……大変なんだろうなーと思う次第です。
ちなみに隊員の役割も決まっていて、高嶺さんが救急、兵悟が潜水、小鉄が火気、大口がレンジャーだそう。
これがSSTになると、隊そのものが専門分野持ってたりします。一隊は爆薬処理、二隊は潜水制圧、みたいな。
しかし嶋本隊は……救命士の高嶺さん以外は別にシャッフルしてもよさそうな感じですね。
三隊は海難情報を受ければいつでも出動できるよう準備しておくわけで……塾長に嶋さんが準備を頼むと兵悟も手伝います。しかし役に立たない兵悟は「聞く前に俺のやること見て先に動けよぉ」と言われてしまうわけで……。
「ったく、シマはなに新人に教えてたんだかなー……つっかえねぇ」
とは塾長のお言葉でした。うーん、嶋さんは確かに緊張でしょうね……先輩を部下に持って。でも、私も嶋さんはちょっと甘いところがあると思うので、塾長の言い分はとても分かるし、塾長は三隊には必要な人です。
初日から兵悟はヤクルトジャンケンに負けて全員に奢る羽目になったり踏んだり蹴ったりです。
「ポリフェノールでもとったほうがいいよ」と高嶺さんの差し出したマーブルチョコを見て兵悟はパッと赤のチョコを取り、「やっぱり赤を取った……アドレナリン増量中だ」と高嶺さん。
けれどもどんなに張り切ったところでお呼びはかからず……嶋さん曰く「呼ばれまくる時もあれば一ヶ月以上お呼びがかからん時もある」そうな。
まあこういう特殊系の部隊はいざというときのためのものなので、基本は呼ばれない方が良いんですけどね。
どうでもいいですけど、「一ノ宮さんが起きてるんだから俺も寝るわけにはいかない!」と兵悟が頑張っちゃうのを見越して、自分の後ろ姿にそっくりな人形を置いて仮眠を取る塾長は真面目に鬼だと思いました。さ、流石や……嶋本教官なら絶対こんなことせえへんぞ(笑)
さて翌日……当直交替時間が迫ってきて交替隊である四隊が出勤してきました。
四隊隊長というと以前「うちはこの中から一人選ばなきゃならないのか……」とヒヨコの使えなさ具合に嘆いてた押尾隊長です。そのオッシーが選んだのはメグルだったらしく、メグルは出勤早々憔悴しきってる兵悟を見て「どげんしたとや? 出動したとか!?」と勘違い。
兵悟は同期のみんながどの隊に入ったか知らなかったらしくメグルに他の二人の動向を聞きました。
メグルによると大羽は希望通り二隊だそうです。タカミツは黒岩隊長の一隊。うーん、大羽を指名する二隊隊長を横目に唸っていただろう嶋さんを想像するとかなり面白いです。「どないしよう……真田隊長に神林を薦められはしたものの……やっぱ大羽がええんとちゃうやろか……」なんてきっと思ってたでしょうし。
さて、メグルと話しているといきなり海難通報が入ってきました。
三管から出動要請。場所は千葉県勝浦。三人が岩場に取り残されていて時化と満潮で身動きが取れなくなっているとのこと。そして要救助者はいずれも子供。
当直交替五分前の出来事なので、当然三隊に出動命令です。
「機体重量の制限に引っかかる。全員では行けん!」
そういうことで嶋さんは塾長と兵悟を選び、大口と小鉄、高嶺さんはお留守番ということに。
航空基地でピューマをスタンバらせていたのは恵子様のチームで「恵子タンとの初めての共同作業が奪われた……!」と項垂れるメグルに見送られてピューマ離陸。
既に現場では巡視船「おず」が警救艇を出したとのこと。おず、は星野君の乗る横浜保安部の船ですが……千葉海上保安部じゃ駄目だったんかなぁ。千葉なら嶋さんの後輩がいそうなのにね。
まあいいです、おずには星野君がいるので星野君好きとしてはむしろバッチコーイです。
そんなわけで警救艇を出したおずですが、岩礁地帯で流れも激しく近づけなかったそうです。
現場で兵悟達は要救助者を発見。断崖絶壁のそばで陸側からの救助も出来ず、ヘリが近づけば風圧で吹っ飛ばしてしまう畏れもあるので接近も出来ない。
「どうします? 嶋本隊長」
副隊長からせっつかれ、タジタジな嶋さん。頑張れ新米隊長初任務!
「一ノ宮さんは私が指示するまでヘリで待機! 神林、お前は俺とおずに降下する!」
インカム装着嶋さんのカッコよさハンパねぇっす。50分くらいしか空にいられない、という恵子様に30分で救助を完了させると嶋さん。
そして二人でおずに降下すると、やっぱり星野君が来たーー!!
おずの船長も一緒に来て、嶋さんは船長に敬礼。
「ただいまより、救助指揮をお預かりいたします」
この瞬間よりこの現場は嶋本三隊の指揮下に入りました。やっべカッコイイ……。――おずクラスの船の船長ということは、階級は二等海上保安監です。言うなれば大佐です。その大佐率いる船を指揮下に収めようってんだからトッキューの隊長が保大卒またはそれに準じた士官(幹部)でなければならないのはこの場面だけでも分かると思います。
でも胸章見るにおず船長の階級は三等海上保安監だ……あれえ、これはちょっと……間違いでは……。大分違うけど、イージス艦の艦長を二佐がやるようなもんだよ……おかしい。
ちなみに兵悟が乗ってたしらはの船長は三監でしたが、これは合ってます。でもなぁ、兵悟の階級も坂崎さんの階級もかなり不可解だったし、その辺はあまり突っ込んじゃ駄目なのかな……うーむ。
ま、まあ気を取り直して嶋本隊長の指揮ですよ!
嶋本隊長の作戦は空からのピックアップ方法は高々度からのホイスト。でも吊り上げるためには事前に誰かが要救助者のそばまで行ってヘリからガイドロープをもらわなければならない。それが出来れば救助は完了だ、と。
おずの潜水士たちは、それが出来るなら俺らがやっている、と。でも警救艇が近付くのは無理だった、と。そこで嶋本隊長は一言。
「神林が行きます!」
星野君だけはギクッ、とし、他がどよめく中、隊長はくるりと兵悟の方を向いてこう指示。
「泳いで行け、神林」
潜水担当・神林兵悟。ずいぶん隊長に信頼されたものです。本来なら嶋さんが行けばいいところですが隊長ともなるとそういうわけにもいかないところが悲しい所っすね。まあ別に隊長が行っても良いんだけど、その場合は余程副隊長に信を置いてなければいけません。――そう言えば毎回前線に飛び込んでた真田っちはアレ何だったんだろうねほんと……一番最初の真田光臨場面は副隊長だった嶋さんが必要不可欠な場面だったんだから、隊長は自重で良かった。しかもボンベ背負って飛び込みだし。真田はヒラ隊員のほうが合ってるんじゃないかと思う次第です。
取りあえず嶋さんをおずに残し、救警艇で現場に近付く兵悟。
「兵悟、ここからどうする?」
兵悟に指示を請う星野君。そうです、隊長がいないんだから現場ではトッキューたる兵悟が指示を出さないといけません。……だから士官教育受けてないとこんな時に(略)
無線で現場の状況を兵悟は隊長に伝えます。岩礁のせいで近づけない、要救助者の足元まで潮が満ちている、でもこれ以上接近すれば船底をこする危険性がある、と。
状況を聞いた嶋さんは改めて作戦を説明しました。ヘリから高々度のつり上げを行うには要救助者の場所まで泳いで行ってホイストケーブルが風で動かないようガイドロープをヘリから張って動かないようにする必要がある、と。でもロープは要救助者のそばには危なっかしくて落とせない。故にお前の泳いでいく前に落とす、と。
嶋本隊長は最後に短くこう命令。
「拾っていけ、以上」
隊長……! 初出動の新人にそれって厳しくないっすか!? あなた自分の教え子をちょっと信頼しすぎやなかとですか!?
でも隊長として肝の据わった鮮やかな指揮に私ビックリですよ。カッコよかとです。
潮の流れは速く、かつて兵悟よりも泳げた星野君は心配しつつ「兵悟……もしかして今日の出動って……まさか」「うん、初出動!」そんな爆弾を落として颯爽と海に飛び込んだ兵悟を星野君は目を丸めて見送るのでした。
心配に反して兵悟はキツそうながらも泳いでます。ガイドロープが投下されるも風が強くて流されてしまいそう。しかし要救助者は目の前で……意地で兵悟がロープを掴んだところで高波が要救助者を襲います。
「流された――ッ!?」
慌てる星野君。しかし――しっかりと張られたロープを遠くから見た嶋さんは確信しました。
「食いとめとる!」
そこにはロープを口でくわえ、両脇に子供を抱えた兵悟の姿がありました。
以下、十巻へ。

しかしあっぶねえええ! あっぶねええよ隊長……! あの慎重な嶋本進次がなにこの作戦。
と思ったけど、失敗しても兵悟が死ぬ前には助けられる……って判断なの、か……?
いや、あの嶋さんが「行け」って言ったということは絶対に「やれる」って思ったということですよね。
まあとにかく、嶋さんのあまりの隊長っぷりに驚くしかない九巻でした。初めて読んだ時、既にこの初出動で「あ、隊長いいかも!」って考え改めましたもん。カッコイイ!!
きっと私はこの初出動で嶋さん=隊長に向いてない、と思っちゃってた認識を覆されて凄く嶋さんが好きになったんだと思います。
九巻はすごく面白いです!


□九巻私的ベスト台詞。
台詞ではないですが、兵悟の夢の中?でのモノローグ。
「俺たちは今、羽田にいる」
すごくジーンと来た言葉です。羽田=トッキュー基地。地獄の研修を終えて、ようやく辿り着いた目標の場所というのがもうね……。
次点で嶋さんの「自分を選んでくれた隊長に感謝してオレンジに相応しいトッキューになるんやぞ、ええな?」。
送り出す言葉、そして迎え入れる隊長として、隊員としての言葉だったと思います。別に「隊長たる俺に感謝しろ」って感情は全くなかったと思うんですけど(笑)でも、この台詞もほんとジーンと来ました。
ベスト台詞率の嶋さんと兵悟の高さにビックリだな……(笑)

 


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