+ トッキュー!!感想 +



第八巻
□第八巻
ハーゲンダッツで午後のお茶タイムしばく恵子様と富岡さん、嶋さん達。
嶋さん甘いものもいけるんだなーとか、ちゃんと恵子様と普通に喋れるんだなーとか(当たり前だが)、改めて保大時代の「恵子ちゃんラブ☆」な嶋さんを思い出しつつ読んでみると、世知辛いなーとか色々思っちゃったりするわけです。
さて、鬼軍曹に遠泳を命じられて二時間近くたち……「軍曹も本気で言ったんやなか。オイはもう引き返すばい」とはメグルですが、どっちにしても遠いので取りあえず無人島まで泳いで休むことに。
無人島には船が着いていて……「ここって申請しなきゃ釣りできない場所だよね?」「どーでんよか。そがんとトッキューの仕事じゃなかなかばい」と軽く言い争いを始める兵悟とメグル。
……まあ、心情的に私は適当なのでメグル派だったりしますが、補足しておきますとただいまは勤務中であり海上保安官は「釣り禁止区画」で釣りをやっちゃう人間を取り締まるのも大事な通常業務なので……兵悟の意見が正しいっすね。のちに嶋さんが「個人的な感情で義務を放棄するな!」みたいなことを言う場面があるんですが……こういうとき嶋さんならどうするんだろうな? これが非番とかだったらまだ違うんですけど。
そんな中、ぎゃああああ、と男の悲鳴が響いて言い争いをパッと止め声のしたほうに急行する二人。
一人釣りに来ていた男性は岩場に水死体を発見して腰を抜かしていました。
取りあえず兵悟は死体を揚収しようとするも、運ぶためのものがないので釣りに来ていたおじさんにボートを借りようとするも当然断られるわけで。
「確かここは申請せんと釣りできん場所ですよね〜。申請漏れはなかと思いますけど、罰金でして〜」
と、どうでもいいとさっきまで言っていたメグルは調子よくそんな脅しをしておじさんから携帯を借りました。で、嶋さんに連絡を取る兵悟。
嶋さんは直ぐさま警救艇を出してもらえるようにする、と返事をし、メグルは内心「これで帰りは泳がんでよかばい」とほくそ笑むわけで。お前そんな下心しかないのかよ(笑)
兵悟は嶋さんから「俺らが行くまで無茶せんとじっとしとれ」と釘を刺されてしまいます。嶋さん兵悟の性格さすがに良く分かっとるわーなんて感心したんですが、そう言えば初対面の頃を思い出せば当然っすね。※初対面:佐世保で真田と張り合ってブラックアウト
しかし警救艇が来る前に海が荒れだしてしまって、兵悟は遺体が気になって岩場まで行ってしまいました。案の定水位が上がっていて、遺体はいつ流されるとも分からない状態。
遺体をちゃんと家族の元に返してあげるのもレスキューだ、と兵悟はかつて坂崎さんに教えられたことを思い出して……それより何より、兵悟は心のどこかでレスキューをしながら常に父親を捜しているんですよね。海に行ったまま帰らなかった父親を探したかったからこそ今の兵悟があるわけですから。
兵悟は遺体を流されない場所に移したいから手伝ってくれ、とメグルに頼みますがメグルは当然却下。荒れ出した海に入ってたかだか死体のために二次災害がおこるかもしれない危険をおかすいわれはない、と。
「アレが要救助者やったらオイも行く。ばってん、アレは死体ばい?」
「でも……連れて帰ってあげようよ! どんなに変わり果てた姿になったとしても待っている人がいるはずだよ!?」
「ノーサンキュー。そがん兵悟君の感傷に付き合って死ぬのはゴメンばい」
どれほど懇願してもメグルはやはり手伝ってはくれず、兵悟は遺体収容に一人で行くことに。
まあ、兵悟さんの命令無視はいつものことっす。ただ、メグルの言い方は相変わらず最悪だけどメグルの言い分も分かるし、兵悟の気持ちも分かるしってのが辛いですね。
死ぬ思いで遺体を引き揚げて戻ってきた兵悟を、メグルはすごく冷めた目線で眺めて「そがんもんのために命を張る兵悟君がオイにはわからんね」と。
すると兵悟はこの一言が珍しく許せなかったらしく「人をモノみたいに言うな」と。
「あ? なんや、もしかしてコレ(遺体)のこと? 死んだ人の気持ちに、とか、待ってる人がおるけん帰らせんば、とか、そがんと生きとる人間が勝手に思うとるだけばい」
こんな風に言っちゃったメグルについに兵悟はぶち切れて右ストレート一発。
「この人に謝れ!」
「なに一人で熱うなっとると?」
「はぁ?」
「自分のすること全てが正しかって思うとろう!?」
仕返しにメグルは兵悟の腹にキック。
そこからはもう「謝れ!」「嫌さ!」の取っ組み合いです。
嶋さん達が辿り着いた頃には、仏さんの他にも要救助者が二名増えていたのだった……。
嶋さんはボコボコになっていた二人についてあまり深くは追求せず(バレバレだしな)、その後も訓練は続けられました。
最後に恵子様がヒヨコ隊と訓練を共にして思ったことをこう締めます。
「何かをやろうとするときに、行ける、行けない、の判断は信頼がないとできません。私たちはトッキューを信頼しています。トッキューが行けると言ったら、大丈夫だ、と思います。私たちも皆さんに信頼されるようやっていこうと思います。皆さんもそんなトッキューになってください」
信頼関係……それならメグルとはバディは組めない、と思う兵悟。
メグルの言っている事を理解できても納得はできない様子です。メグルの言い分も正しいけど、人が生きていたことに対して尊敬がないのは寂しい、と。
そんなわだかまりを残したまま、リペ訓が終わっていよいよ基礎研修は終了です。
これから行うのは最後の訓練、通称「GW」。
一日目にレンジャー検定、二日目に潜水検定、三日目に体力検定、四日目以降に100キロ行軍。
100キロ行軍とは……羽田のトッキュー基地まで約100キロの道のりを所持金ゼロ、飲食の携行を禁止した状態で24時間以内に完走する地獄のロード、だそうです。
えっと、いまいち分からないがあれか、久留米から北九州まで歩くようなもんか。
ってええええええ!?
無理、普通に無理無理無理ぃぃ!! 久留米から福岡だって無理だ……一直線で結ばれてる西鉄線をずーっと線路沿いに歩いたとしてもせいぜい久留米-二日市辺りまでしか行ける気配が……と思ったけど二日市が見えれば案外「もうすぐ福岡」って思えるかも? う、うーん不可能ではなさそう。だけどもとてつもなく辛そうなことは分かりました。
これが三日間の体力検定のあとに行われるのですからそりゃ辛いでしょう。うーむ。
兵悟も考えただけで辛いようで官舎に帰って突っ伏しつつ久々にメールチェックをすると、ユリちゃんから大量にメールが届いていました。
着信履歴もあって「今すぐ電話下さい」って最新メールもあり……急に玄関のチャイムがなって「まさか!?」と飛び起きた兵悟ですが、ドアをあけると居たのは大羽とタカミツでした(笑)
焼肉食いにいこーぜ、と誘いにきた二人と一緒に出かける兵悟。
しかし――、兵悟の「まさか?」どおりユリちゃんはなんと横浜に来ていたのでした。
兵悟があまりに電話に出ないので一人でみなとみらいの観覧車に乗っていたユリちゃんは「孤独死しそう。いきなり会いに来て驚かせようなんて秘策が裏目にでてドン引きされてる!? 返事こないのに何度もメールする女ってウザイ!?」と涙目で独り言(笑)
女一人で観覧車なんて……と悲観しているとユリちゃんの目線の先には同じく一人で観覧車に乗りビールを飲む女性がいました。
「ありがとうございます都会の素敵女子☆ ユリもくじけず頑張ります!」
ユリちゃんに感謝されてるなんて露知らず、一人観覧車でビール飲んでたのはなんと恵子様でした。確か観覧車内は飲み食い禁止だったはずなんですが、そんなの関係ねぇ!っすか?(笑) 恵子様……確かご自宅は蒲田ですよね? わざわざ横浜でなにをしてるんだYO!
ユリちゃんはくじけず、横浜の防災基地まで行っちゃいました。自分でもストーカーの気があると自覚しているようです。
私もねー、わざわざ出向くことはなくても用事で近所に行った際に色んな基地を見てきましたけど、基本的にもれなく不審そうな目で見られるのは間違いないので……夜更けに入り口で座り込んで待つユリちゃんはなかなか勇者だと思います。
途方に暮れたユリちゃんが帰ろうとしていると「何かご用ですか?」との声が。
振り返るとそこにはサナダマンがいました。
「真田さん……!」
「ああ、神林の……」
二人は顔見知り。高嶺さんも「ああ、佐世保の……」とユリちゃんのことを覚えてました。
こんな所でなにをしてるんですか?と真田に問われたユリちゃんは口籠もっちゃいますが、その次に発した真田の言葉は恐らくユリちゃんの予想を遙かに超えていました。
「――妊娠か!?」
そう言えば前に会った時より太っているようだ、とさり気なく失礼なことを混ぜる真田に慌てて「違います違います!」と否定するユリちゃん。
「結婚して上京するとなると独身官舎を出て妻帯者用の官舎に移らんといかんな……」
ザ・天然真田の暴走は続き……さすがの高嶺さんもそんな真田の暴走は止められず……。
肝心の兵悟はというと、焼肉屋で黒岩・嶋本のW軍曹に捕まってかわいそうなことになっていました(笑)
ユリちゃんは真田に兵悟の住む官舎まで送ってもらうことになりました。
「イキナリこういう風に来られたら、男の人、嫌ですよね……」
「そうか?」
「……」
「……」
「ごめんなさいっ、やっぱり帰ります!」
「どうした? なにも言ってないぞ」
「いえ、もう言わずとも身の程知らずだと分かりますから! 意義ある撤退であります!!」
官舎の前でコントかますユリちゃんと真田。真田はユリちゃんのカート引いてあげちゃったりして、優しいね。
ちょうどそこへ兵悟たちが帰ってきて「あれ? 真田さんが女といる」「修羅場か!?」と色めき立つタカミツと大羽。
あれ、ユリちゃん? とユリちゃんに気づいた兵悟の先には真田相手に顔を赤らめて笑うユリちゃんがいて……。
ユリちゃんと兵悟久々の再会。大羽とタカミツは礼儀正しく挨拶なんかしちゃって面白いぞ(笑)
真田はユリちゃんと兵悟を無事会わせることができてお役ご免なので帰ろうとするんですが、ユリちゃんがちゃんぽんを作りに来たと知るや否やもの凄い遠くから「これからちゃんぽん作るのか!?」と反応して兵悟の部屋に来ることに。
兵悟以下大羽とタカミツは焼肉屋でW軍曹に死ぬほど食べさせられてもうなにも入らない状態なので、二人は帰っちゃいました。
真田は佐世保で食べた長崎チャンポンがすごく気に入っていたらしく、兵悟の部屋にユリちゃん・真田・兵悟という何ともシュールな光景が広がっています。
ユリちゃんは準備万端、中華鍋すら持参しており密かに兵悟のお姉さんに「お袋の味」まで習っちゃったりなんかしてて美味しいちゃんぽんを作り上げました。
感動してお代わりする真田。もうお腹いっぱいなのに無理して食べて撃沈する兵悟。
真田は食べるだけ食べてちゃっちゃと帰ろうとし、ユリちゃんも飛行機の時間があるから帰らなきゃ、と。しかし官舎から駅は遠いらしく「それじゃ間に合わない」と項垂れるユリちゃんに真田はまたも爆弾発言。
「泊まっていけばいい」
「え、ええ!? ダメでしょそんな」
「決まりはない、好きにすればいいぞ」
そう言い残して真田は去っていきました。
少子化対策……と思い巡らせる真田はやっぱり天然だと思います。
ユリちゃんは「別にタクシー飛ばせば間に合うし」なんて思いつつベランダに出て、自分追い込み漁と言いつつチケットキャンセルしちゃいました。
さてさて、急なお泊まり会になってどうする兵悟、どうなるユリちゃん!?
ラブコメ展開ですが、まあ兵悟なので特にどうということもありませんでしたけど(笑)
ユリちゃんは「私、佐世保を出ようと思うの」と兵悟に看護師になるために上京するつもりなのだということを伝えました。
私も兵悟君みたいに人に手を差し伸べられる人になりたい、と。
別に看護学校は東京でなくてもいいわけで、兵悟を追いかけるように上京することに対して兵悟がどう思うか不安だったユリちゃんですが、兵悟はそんなことを気にするはずもなく(笑)単純にユリちゃんが来ることを喜んでます。
そんな兵悟を見て、ユリちゃんはさっき真田と交わした会話を思い出すのでした……。
「勝手に兵悟君を追いかけてきてるだけなんて……やっぱり迷惑になりますよね」
「迷惑かどうかは私の判断では分からない。が、確実に言えることは……神林はそこまで深く考えてはいない」
「やっぱりですか!?」
「レスキューバカと友達でいるには覚悟がいるぞ? それでいいのか?」
試すような、見守るような笑顔で言われて「任せといてください!」と返事をしたユリちゃん。
兵悟は兵悟で、一応「なんで東京なんだろ?」と思いつつまあいっか、とスルーして二人で「真田さんカッコイイよねー!」「ねー!」と真田SUGEEE話題で盛り上がり夜が更けて行くのでした……。
そんな様子をこっそり出歯亀しにきた大羽・タカミツ・メグルは真冬のベランダからこそこそと「ありえない……、色んな意味で寒い」と呆れるのだった。
でも今回に関しては真田SUGEEEで盛り上がる二人がとても微笑ましかったですね。
ユリちゃんに笑いかける真田は格好良かったし、ユリちゃんといる真田は結構好き。ていうかあの笑顔で初めて真田格好いいと思っちゃったよ不覚にも。あんなに甘く笑えるなら真田がモテるって設定も納得、みたいな。ユリちゃんは兵悟が大好きだからこう思うとユリちゃんには悪いけど、真田との方がお似合いだと思います。
……これがもし嶋さんだったらどうなってたんだろう?
うーんうーん;;
「なんや、用ですか? あ、佐世保の……」
「あ、あの……(誰?)」
「(あれ、無反応?)……嶋本です。神林の教官や」
「あ、テレビで観ました!」
「ていうか佐世保で会うてるやん、忘れたんかいな!」
別の意味でコントになりそうな予感がプンプンします。
でも嶋さんもきっとユリちゃんを官舎に送っていくことでしょう。そもそも官舎に住んでるんだしね。そしてやっぱりユリちゃんに同じようなことを聞かれたら、真田と似たようなことを伝えると思います。
まあ嶋さんの場合、兵悟の部屋に上がり込んでちゃんぽんご馳走になるなんてKYなことはしないと思いますが(笑)
でも経緯は全く一緒でも、嶋本さんSUGEEE話題で盛り上がる気が全くしないのは何故なんだ……。あ、ユリちゃんと嶋さんの身長差は5センチはあるもんな……もちろん嶋さんのが小さい、と。これじゃ19歳の乙女にはカッコイイって言ってもらえないよね(涙)
そう思うと真田って結構長身です。ユリちゃん166センチもあるのにあの身長差から言って180くらいはあるぞ。そして真田と嶋さんの身長差は頭一つ分弱だから……やっぱ嶋さんは160センチあるかないかだな。ほんとちっせえなぁ。
まあ、あんないい男が身長まで高かったら完璧すぎて卒倒しちゃうから良いんですけどネ☆

さて、いよいよGWです。
嶋本教官も最後の仕上げということで熱も入ります。
「俺たちの持っている知識・技術・体力、全てをさらけ出して少しでもお前らに多くのものを吸収してもらおうと努力した。――100キロ行軍がキッチリ終わるまで! お前らの実力しっかり見せつけてくれ、いいな?」
標準語に戻ってる所が「気合い入れてます!」って感じで素敵です教官。
でも、努力した、って言葉でハッとしたというか……そうだよね、教官だって大変だったよね、と改めて思った次第です。プラン立てて、どう指導しようかきっと毎日考え込んで……それこそきっと反省、訓練、反省の繰り返しですよね。しかも教官仕事に加えて彼は通常業務もこなしてるわけで……凄い大変な四ヶ月だったでしょうね。嶋本教官側から見た研修期間というのも見てみたかったなーなんて思います。
一日目はレンジャー検定。みんなが互いに声援を送る中、一人シラーっとしてるメグルを見て黒岩さんは「石井は変わらずあの調子か?」と。嶋さんはメグルにはもっとチームを引っ張っていって欲しかったけど、自分の力及ばずにメグルがなに考えてるかさえ分からなかった、と自省。能力は一番高いだけにもったいない、とね。
タカミツに関しては、一時期凄い痩せてビビリ癖もあるし心配してたけど、そういう短所を自認して気を付けていく能力が芽生えてきてホッとしている、と。
大羽は入隊時は細いヤツだったけど良い筋肉がついてきた、と黒岩隊長。
そしてこのヒヨコ隊をいつの間にか引っ張っていたのは兵悟だった、というのはW軍曹のみならず他の職員さんたちの中でも共通認識のようです。
そんな中、真田が検定の様子を見に顔を出しました。
なんだか意味深な話をしつつ、黒岩隊長は「おめでとう! おまえならきっとやれると思うぞ!」と更に意味深なことを。
しかし寂しくなるなー、という黒岩隊長や佐藤専門官の声を聞きつつ嶋さんは真田を見上げて……そうしてペコッと頭を下げました。
兵悟はそんな嶋さんを遠くから見て、「なんで嶋本さん、真田さんに頭さげてるんだ……?」と気にするんですが……それはあとのお楽しみってやつです(笑)
でも、今になってこの時の嶋さんの表情の意味を色々考えてしまいます。
寂しい、のもあるのかもしれないけど……また真田に先を行かれた、という何とも複雑な感情があるようで。真田と嶋さんの関係もまた複雑ですよね。

さて三日間の検定は無事終わりました。
全種目総合一位は石井、と嶋さんに言われて「えー?」とわざとらしくニヤリとするメグルが激しくキモ(略)
次点、兵悟。三位、タカミツ。そして最後は大羽。
大羽はもの凄く悔しくて情けないような表情をしてますが、嶋さんはさらに続けました。
「自己記録更新率は大羽・タカミツが同率一位や。入隊時は一番懸垂できんかった大羽が石井を抜いて一位とは驚きやな」
「ありがとうございます!」
良かった、今度は大羽嬉しそう。
兵悟の更新率も50パーセントを超え、よく頑張ったな、と嶋さんは誉めるんですがメグルに至っては更新率10パーセントちょっと。入隊時とあまり変わりはなく、もとの能力が高くても天狗気取りやったらすぐ追い抜かれるで、と忠告。
そうしていよいよ100キロ行軍です。
山梨県のJR大月駅から羽田の基地まで約100キロ、明日の昼十二時出発で二十四時間以内に完歩すること。その際のチェックポイントがあり、JR相模湖駅・立川市日野橋交差点・狛江市役所の三カ所を必ず通ること。ルートは自分で設計すること。以上。
ええええええ!!
このコースなら全部行ったことあるけど、当然高速に乗ってたし……相模湖から日野ォ!? 甲州街道ぶらり旅ですか、土方歳三じゃねんだから……。
まあ、あの四人は上京したばっかで絶対に地理に疎いし、横浜とは正反対の方向で行ったこともないだろうから大変だな。
ってジブリオタがいたんだった……。大羽だけはジブリの森美術館目指して中央線乗ったことあるかもな……。
食料以外はなにを持っていっても良いそうです。公園の水等々現地で調達すれば飲食禁止ってわけでもないみたいです。もしものために一万円持たせてくれるんですが、使った時点でアウトとのこと。
とは言えリタイアしても別にオレンジがもらえないわけではなく、トッキュー隊員にはなれるそうで……「じゃあ何でこがん非効率的な訓練ばするとですか!?」と不満を言ったのはメグル。
実戦で鍛えればいいのに、今まで不満でなかったのか?というメグルに真田は「みんな疑問を抱きながらも歩き、けれどみんなゴールして"本当の自分に出会えた"と言う」ですと。
嶋さんは「絶対に俺がゴールさせたる! 死んでも脱落はさせん!」等々張り切って激励してるんですが、ヒヨコ達は真田や黒岩さんに「どのルートが一番いいっすか!?」と聞くのに夢中で誰も嶋さんの話なんか聞いてはおらず……、今日もかわいそうな軍曹なのでした。
いよいよ当日がやってきて、それぞれどう歩くか、どう一位を取るか虎視眈々と狙っているようです。
タカミツは歩いても走っても疲れるんんだから最初からトバして行く考え。逆に大羽は歩いて行こうという考え。――ちなみに大羽は「それはねーわ」というほどのフル装備(医薬品着替え等々)なんですが、この過度なほどの慎重ぶりが嶋さんは気に入ってるのかな、と思います。大羽ほどでないにしても嶋さんもこの手のタイプだから。
メグルは、このメンツなら本気だせばどうせオイの勝ち、と。
兵悟は何の思惑もなく「みんなでゴールしよう!」と。いいなあお前(笑)
行軍始める前に嶋さんはみんなをすかいらーくに連れて行って最後のご飯を食べさせるんですが……これまた全員の食べた内容がなんというか……全員スポーツしたことねーのか!?って感じで。
この中では慎重にすぐエネルギーになりそうなパスタだののみを選んだ兵悟の食べ方が正解ですね。走る前に唐揚げだのなんだのは有り得ない。
スタート前に嶋さんは「四時間ごとに渡したテレカで連絡を入れること。その際に必ず俳句か川柳を詠むことが決まりや! ――まず一句、テーマは旅立ち」と全員に句を詠ませました。
この句は特に面白くないので割愛。追いつめられてきてからの楽しい句はチョイスして紹介しようと思います。
でも、そう、旅立ちです。今日で本当に四人揃っての研修は最後。だから勝ちたい……と気持ちを新たにスタート!
飛び出したのはタカミツとメグル。
「走るのは愚行じゃ!」「う、うん」とそんな二人を見て焦りつつも歩くのは大羽と兵悟。
嶋さんはタカミツのあまりの飛ばしっぷりに驚くんですが、タカミツはさっそくコースから外れて南に激走。ま、まあ、頑張れよ。
嶋さんたちは皆の通る予測コースを先回りして常に警戒。当然走りのタカミツとメグルは大羽・兵悟よりも先に行くわけで……兵悟達は焦りつつも歩く方が正しいんだ!と信じて歩きです。
メグルは飛ばし続けて三時ちょうどに相模湖に着きました。
休んでいるとタカミツが追いついてきて「それじゃ行きます!」と先を急ごうとするんですが嶋さんに「ちったぁ仲間を労ったれや」と言われタカミツも「メグルーー、はえーなー、全然おいつかねー」と死にそうな顔で話しかけてきたんですが、メグルはまるっと無視。
完全シカトされて青筋立てる嶋さんが真面目に哀れでした。こういうヤツだって分かってるけど、うん、みたいなね。
変なか感動ドラマに巻き込まれるのはゴメンばい、一人の方が楽か、とはメグルさん。一人の方が楽だと思うことと、人を無視するのは違うと思うんだが……コイツのメンタリティはマジで小学生以下。
さて開始から四時間が経過して定時連絡の時間です。兵悟と大羽は揃って相模湖まであと五キロの地点。
「黄門さん、アンタほんとに、歩いたの!?」
「相模湖の、にごった水でも、飲みたいよー」
いちいち句を作って口頭で伝えるって恥ずかしいよなー……。
メグルは二人が相模湖についた時には更に10キロ先に行ってました。
「腹減った、うまかラーメン、うまかっちゃん」
よしメグル、よくやった! 福岡の宣伝ご苦労様です!
「おじさんの、陸軍話が終わらない、そろそろ先に、行かせてよ」
タカミツは二キロ先でおじさんに水をもらったら陸軍話聞かされて足止めをくらってる様子です。気がちいせえから振り切れないんだな……哀れ。
大羽は大荷物抱えてるせいか足のマメが潰れちゃったらしく、ちょっと辛そう。
兵悟と大羽が大垂水峠に着いた頃には既に七時を回っていて辺りは真っ暗です。
互いに互いを励ましつつも、兵悟はメグルの事が気になり……、このままじゃ追い越せない、と熱い感情に支配されていると急に風のような人影が二人を追い越しました。
「お疲れさま」
なんとサナダマンでした。真田は飛び入りで100キロ行軍に参加させてもらったらしい。「(嶋から)聞いてないのか?」とは真田ですが、二人はなにも聞いてないのでびっくりです。
そうして走っていく真田を見て、兵悟はついに我慢の限界が来てしまいました。ウルウルお目目攻撃で大羽を見て「お、おまっ、まさか……」「ごめん大羽君!」やっぱり走り出してしまいました。
この峠は最初にして最大の難関。今走ったら自殺行為じゃぞ!?と兵悟の背に向かって叫びつつ「ワシはぜったい走らーん!!」と山に向かって自身の声をこだまさせる大羽ですが……大羽もやっぱりジッとしてられず「走ればええんじゃろ!」と結局兵悟と真田に付き合う羽目に。……あーあ(^^;
真田のペースに着いていったら当然死にそうになるわけで、転んだ拍子に「ダメだ立ち上がれない」と兵悟が唸っていたところでちょうど八時になって定時連絡の時間です。
羽田では真田が追いついたと聞いて「真田隊長ほどはた迷惑な人もいないよな……、巻き込まれたらゴール前に破滅だ」と。うん、私もそう思う。
そうしてついに真田達はタカミツに追いつきました。「冬でも脱水になるから水はのんどけ」とは真田ですが……取りあえず塩も持っていったほうが良いと思うZE。
再び走り始め、必死に真田に着いていく兵悟たちを見たら当然タカミツもちんたらしてられなくて、真田はタカミツまで巻き込むことに(笑)
兵悟は真田を追い越そうと飛ばしては真田に更に飛ばされる、という繰り返しで、もうタカミツ達はあまりのハイペースにあっぷあっぷ状態です。
その頃のメグルさんは……なんと八王子で食堂入ってました(笑) ジョギング中の人からお金もらったらしい。――お前はほんとに(略)
九時半に日野橋交差点についたメグルを見て「なんや石井の独走か」つまらん、と言った嶋さんですがその直後に「到着!」と飛び込んで来たのは真田以下の三人。
真田はともかく、当然兵悟・タカミツ・大羽は死にそうな状態です。それを見て、さすがの嶋さんも我慢ならなかったのでした。
「な、なにやっとんすかあ!? 隊長ッ」
「行軍に決まってるだろ」
「こんなペースで走らせてヒヨコ殺す気っすか!? ヒヨコの行軍の警戒兼ねて走ってくださいって言いましたよね!? ブッチ切りで走ったうえにヒヨコまで暴走させんといてください!!!」
嶋本進次、良く言った! もう嶋さんくらいしか真田に厳しくつっこめる人はいないよマジで……!
真田はみんなを走らせるつもりはなかった、とのことですが、黒岩さんは「さすがクラッシャー真田だ」と。
この場面はね、ほんと嶋さんは教え子可愛いんだなーと思える場面でしたね。
ていうかさー、真田さんよー、確かにあなたは隊長で嶋さんは副隊長ですが、これは三隊の任務ではなくて研修なんですから、この件に関しては立場は嶋さんが上っすよねー? その嶋さんに「ヒヨコの警戒」を兼ねるのなら行軍参加OKってしてもらったんでしょ? だったらそれ守らんばいかんとやなかですか? と私も激しく突っ込みたい。
嶋さんは改めてヒヨコ達に教えて聞かせます。
「この行軍で最も影響するのは調整力や。がむしゃらに走るんやなく自身の能力を把握した上で最善の選択ができること。100キロ行軍通してお前らが訓練するんはその力やぞ?」
うむ、嶋本教官お疲れっす。真田じゃこんな風には絶対言って聞かせられないよなー。嶋さんが教官に選ばれた理由がとてもよく分かります。
さて、10分休憩を終えて走り出す真田を「気ぃつけてくださいよ」と嶋さんが送り出すと真田を追ってメグルが飛び出してしまいました。すると当然兵悟も追うわけで……ちょっと焦る嶋さん。
「ワシも……!」と起き上がろうとするも足に激痛が走って起きれない大羽に嶋さん不安げ。
「大羽、足、痛めたか?」
「左くるぶしが……ずっと……」
「一番荷物重いんやから無理ないな、もう少し休んどけ」
言われて悔しげに「はい」と言いつつタカミツに先に行くよう大羽は促します。すぐに追いつくから、と。
嶋さんが本気で大羽を心配してる様子がもうね……、いつも厳しいのに土に膝着いて大羽の様子を覗き込んだりして、ああもう教官大好きだぜ! と思わずにはいられないけど……大羽もちゃんと従ったし、嶋さんのそういう所は理解してくれてると思いたい。
自分をタカミツが気にして尻込みするのを分かって先に行かせたりしてるし、大羽は本当にいい男っつーかやっぱりタイプ的に嶋さんに似てるんだろうな。
メグルたちですが、真田が前にいてはメグルだって絶対追いつこうと必死に走ります。
兵悟ももちろんそうで、でも辛くて、真田だって辛いはずなのに何故ここまでするんだろう? その先になにがあるんだろう? と哲学しながら走ってます。
深夜零時ちょっと前に真田は狛江市役所に着き……二人もちゃんと着いてきていて驚く嶋さん。そしてW軍曹はこそこそと「やっぱ、あの二人にあのことはまだ言わんほうがいいよな?」「ヤバイっすよ、目の前のニンジンなくして走れるほど馬力残ってませんよコイツら……」と。
「真田ももうちっと無理しねぇで走れよ……こんな時期に怪我でもされたら……」気遣う黒岩隊長に天然そしてKYな真田は「インドネシア派遣前に怪我するわけにはいきませんからね」と。
わーーー!!!とW軍曹は真田の声を掻き消そうとするんですが時既に遅し。
あーあ、しーらないっとと呟く黒岩さんの前で汗ダラダラな嶋さんはため息を一つ零して観念。
「えーと……、GW後に言うつもりだったが隠しとくことでもないし言っとこう」
インドネシアのマラッカ海峡はご存じの通り国際交通の要所であり、海賊の横行もあり、リアルで海保はあの辺に巡視船展開してますし事件が起こればSSTだって行きます。何故かっつーと日本の漁船がもっとも多くあの辺通るからです。
嶋さん曰くインドネシアの沿岸警備隊は力不足ゆえに今回トッキューをモデルとした組織が立ち上げられることになり、真田は初代指導官として招かれることになった、と。
「ちょっと待ってください、じゃあ三隊には真田さんがおらんくなるってことですか!?」
「そうだ」
「はあ〜〜〜〜? ちょっとそがんこと今更言われても……なんのために行軍をここまで……」
やはりメグルは意気消沈。
その時、羽田から電話が入って第三待機の隊まで出てしまったから非番だけども三隊は基地に詰めて欲しい、と言われ真田は基地に行くためにここでリタイア。
呆然とする二人……さて、どうなることやら。

「本当の自分を見つけられないままリタイア……やりきれんだろ?」
真田を送っていく佐藤専門官に言われた真田は「少しは見えました」と。
まだアイツらに負けられない自分を見つけた……ということでした。まあ、はた迷惑だけどネ。
飛び入り参加好きの真田さんにちょっと提案がありますよ。ヒヨコじゃなく、ネイビーシールズ辺りの訓練に参加すれば上には上がいるんだと悟るんじゃね? と思います。
トッキュー程度じゃ生温いぜHAHAHAな世界がそこには広がってますよ、と。

ということで次巻に続きます。


□八巻私的ベスト台詞。
「出た、九州男児の伝家の宝刀――"そがん怒らんでよかろーもん"」
官舎に泊まったユリちゃんが「なんでメール返してくれなかったの!?」等々問いつめると「……そ、そんなに怒らなくても」と呟いた兵悟に対してユリちゃんが思った一言。
これねー、ハッとしたんですけどホント言うんですよね。そう言えば父も「そげん怒らんでよかやん」等々言ってたな……なんて思い浮かべてしまいました。
あとメグルさんの口癖でもあります。
これさえなければ恐らく最初にして最後だろう真田の「レスキューバカと友達でいるには(略)」という台詞をセレクトしたんですけど……。

 


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