8月の第一週、金曜日。
 ”あとベッキンガム宮殿”と呼ばれる跡部邸では敷地内に設置されフェンスに囲まれた、ハードコート・グラスコートの計3面を利用して「テニス親睦会」なるものが跡部時代の樺地を除いた全レギュラー、跡部・芥川・忍足・向日・宍戸・鳳・日吉、により行われていた。

「一球入魂ッ!」

 鳳は得意のグラスコートで、いまも球威の衰えていないスカッドサーブを披露して相手をしていた日吉に睨まれるも、笑ってやりすごして久々のメンバーでテニスできる楽しさを噛みしめていた。
 そうして午前中に存分に汗を流し、ランチブレイク後に再び汗を流してティータイム時となる頃にはコートから引き上げ、各自、無数にあると思しきバスルームを使用させてもらって着がえて応接室にて向かい合った。
「お前ら、だいぶ腕ナマってんじゃねぇの、アーン?」
「跡部かて、人のこと言えんやろ」
「そうだぜ。つーか部活時代の能力維持してんの、テニス特待で上にあがったジローくらいだっつーの」
 跡部の物言いに皆やや疲れた顔つきで肩を竦ませ、忍足と宍戸がすかさずそう突っ込んで、相も変わらずな様子に鳳は小さく笑みを零した。
 彼らにしてもまた、こうして昔なじみと一同に会するのは久々の事らしい。なぜなら跡部は言わずもがな英国在住であるし、忍足は医学部を外部受験。向日は幼なじみである芥川や宍戸とは頻繁に会っているらしいものの、向日自体は工学部進学のためにやはり外部受験を選んでいて状況はそれぞれだからだ。
 それ以外は相も変わらずの氷帝であるが――、芥川は大学進学にはあまり興味がなかったらしく、高等部卒業後は実家のクリーニング屋を継げばいい程度に考えており、たまたま大学部のテニス部から誘いがあって進学と相成ったということだった。
 とはいえ、同じ大学と言えど、テニス部というコミュニティに皆が所属しているわけでもなければ通うキャンパスも違うわけで。彼らもまた集ったメンツに懐かしそうに笑みを漏らしていた。
「そうだ跡部さん、聞きそびれていたんですけど、樺地はどうしてるんです?」
 鳳が唯一この場にいない樺地の事を過ぎらせて跡部へ目線を送れば「アーン?」と跡部はティーカップを手にとって視線を鳳へ向けた。
「アイツはイギリスだ。生憎と俺様たちの大学はテメーの大学と違って一年の半分も休んじゃいねぇからな」
「そんな……まあ、確かにスケジュール上は年の半分は休みですけど。あ、でも、そうか。確かバッキンガムって4学期制でしたっけ……」
 鳳は苦笑いを浮かべつつ、ふと思い出して呟いた。バッキンガム大学は私立ゆえに、オックスブリッジとも他の大学とも違う独自のシステムを持つのだ。
 ああ、と跡部が頷き、鳳はハッとした。
「あ……じゃあ、跡部さんってもう……」
「ああ、俺様はお前らと違い、一足先にBAを取得した」
 ハァ? と宍戸始め他のメンバーは訳がわからないという顔つきを浮かべ、鳳は「そうか」と納得した。バッキンガム大学は4学期制、かつ各学期間の休みを短くすることで学士を2年で取得できるようなカリキュラムとなっているのだ。確か入学も年に複数回可能で選ぶことができるため、跡部が何月から通っていたかは分からないが、既に学士を取得したということは総合で8学期きっちり通って卒業したということだろう。そして、跡部を追っていった樺地は今はまだ学期中だと思えば今日の欠席も納得できた。
 とはいえ、鳳自身は得心がいっても他のメンツはそうはいかなかったのだろう。解せない顔つきをしている宍戸他に軽く説明すれば、ますますみな解せないという顔を浮かべた。
「大学って4年じゃねえの?」
「2年って短大だろ? 学士とれんのか?」
 宍戸や向日からそんな声が飛び、当然のごとく「バーカ」と跡部の呆れたような声が飛んで鳳は肩を竦めた。
「あ、でも、跡部さん、修士以降には進まれないんですか?」
「ま、マスターからオックスフォードに変えるつもりだったんだが気が変わってな。マスターまではバッキンガムに残る予定だ」
 一年で済むしな、と跡部が続け「え」と鳳は瞬きをした。
「オックスフォードも一年で取れると思いますよ、その、修士というか、修士プラスアルファみたいな学位ですけど……」
 修士”まで”はバッキンガムに残るということは、それ以後はオックスフォードに行くということで。それなら最初からオックスフォードでいいのでは、と含ませると「フ」と跡部が息を吐いた。
「俺様があと一年いりゃ、ちょうど樺地の卒業時と一緒じゃねぇか。アーン?」
 なぜか不敵に彼はそう言い下し、鳳はハッとする。――そうか、樺地と同時期に卒業したいのか。と跡部なりの気遣いを感じて自然と頬が緩んでいると、これまた不敵な笑みが鳳の斜め前から漏れた。
「跡部さん、成人してなお樺地がいないと何もできないんですか? いい加減、樺地離れしたらどうです」
「なにナマ言ってやがんだ、日吉」
 日吉だ。相も変わらず、と鳳はせっかく緩めていた頬を引きつらせた。するとふとポケットに入れていた携帯が震えた気がして、無意識にポケットに手をやり「しまった」と顔をしかめた。
 ついクセで入れてしまっていたが、この携帯はイギリス用。もちろん日本では使えないし、震えるはずないのに、と勝手にバツの悪い顔を浮かべていると「お」と隣にいた向日がこちらを覗き込んできた。
「ソレ、あっちの携帯か?」
「え……あ、そうです。使えないんですけど、ついクセで持ってきてしまって」
 肩を竦めるも、向日は見慣れない携帯が珍しいのか「貸してみそ」と手を差し出してきたため、鳳は他意なく差し出した。
 すると向日は物珍しげに折り畳み式の、鳳にとっては何の変哲もない携帯を様々な角度から眺め、おもむろにパカッと折り畳みを開いて目を丸めたかと思うと、ニヤッ、と笑って画面を対面側の席に向けた。
「見ろよ、コレ! 鳳のヤツ、彼女とのツーショット待ち受けにしてんぞ!」
 笑い混じりに言われて鳳は「え」と慌てたものの、ちょうど向日の対面にいた芥川は眠そうな目で「んあ?」と画面を見、次いで一気に覚醒したように「あ!」と目を丸めた。
ちゃんだ! ねえねえ、これちゃんでしょ!?」
 その声に向日はキョトンとし、再び画面を自身に向けてまじまじと目線を待ち受けに落としている。
「あー……そういや鳳とさんって付き合ってんだっけか」
 向日はとはそう接点がないためにパッと見、待ち受け画面の女性がとは気づかなかったのだろう。
 鳳はその向日の更に隣で横目ながらもしきりに画面を気にしている様子の宍戸も目に留めて、少しだけ肩を揺らした。
「はい。今年のバレンタインの夜にロンドン・アイに乗った時に撮ってもらったものなんですよ」
「へえ……。なんや、ロマンチックやな」
 すればなぜか忍足が食いついてきて、鳳はなお微笑んだ。
「ええ。あの日は俺の誕生日でもありましたし……、2人でとても楽しく過ごしました」
ちゃんキレイになってるC〜! そっかー、鳳と付き合ってんだねー」
 おそらくこの場にいる全てが自分とが交際している事は知っているはずだが、別に覚えておく必要もないために記憶から抜け出てしまっていたのだろう。芥川は記憶を探るかのように鳳を見ながら言ったかと思えば、今度は身を乗り出して無邪気にこんな事を言い放った。

「ねえねえ鳳、じゃあさじゃあさ、もうちゃんとやっちゃった???」

 瞬間、ブーッ、と眼前の宍戸から紅茶を勢いよく顔に向かって吹きかけられた日吉はあまりの事に絶句するしかなかった。
「ちょ、なにするんですか宍戸さん」
 その宍戸は――、きっと相当な値段だろうティーカップを勢いよくソーサーに戻し、日吉の横にいた芥川の方を見据えた。
「な、な、なななな何言ってんだよ、てめえ!」
 すると芥川は本当に邪気なく言ったのか、きょとん、としており、その芥川の更に隣にいた忍足が助け船のように眼鏡を持ち上げながら言った。
「そうやで、ジロー。鳳ら、鳳が高等部の頃から付き合うとるんやで……」
 それは嗜めなのか否か。暗に、訊かずとも分かるだろうと含めた声に鳳が苦笑いを浮かべた気配が伝い、芥川はハッとしたように頭を掻いた。
「あー、そっか。そーだよね! 恥ずかCー! 鳳、メンゴメンゴ!」
「いえ……そんな」
 ――そんな、何だよ? と宍戸はうっすら自分の頭から血の気が引くのを感じた。対する向日はまだ携帯を弄っており、「お」と面白そうな声を漏らしている。
「キレーじゃん! どこだ、ここ?」
「あ、それはクロアチアです。俺、写真はあまり得意じゃなくて、風景の写真はほとんど彼女が撮ってくれたんですよ」
「へー、クロアチア! どこだ、そこ?」
「えっと……、アドリア海湾岸で、イタリアのちょうど対岸にあたる場所です」
「ふーん……。お、なんだ彼女の写真もあんじゃん!」
「ていうか……、なんやどれも隠し撮り風やないか?」
「あ、先輩、写真に撮られるのあまり好きじゃないみたいなので、なかなか撮らせてくれなくて……」
「それ、隠し撮り風やなく隠し撮りそのものちゃうんか……」
 えへへ、とはにかんだような声と忍足の突っ込みが聞こえ、無意識に彼らの方を見ていた宍戸はゴクリと喉を鳴らした。
 一応は携帯に残している写真はに了承はとっているらしく、そんな話をして盛り上がる彼らからも携帯からも目を背けられずに、宍戸は無意識に口元を拭った。
 向日がせわしなく画面を移動させてはいるものの、見えてくる写真は南国のビーチリゾートのような場所だ。たぶん、旅行にでも行ったのだろうが、と2人きりで? などとリアルに過ぎらせてしまい自身でもいやと言うほど動揺した。
 あの2人が昔から想い合っていて、いまは付き合っていることなど百も承知だが、「付き合っている」という文字の意味の先のことなど今まで一切考えたことなどなかったのだ。それに、まさか、「あの」鳳に限って結婚前に「そんなこと」するはずもないよな。つーか、そんな知識すら持ってるのかすら怪しい。などと無理やり自身を納得させて頷いてみる。
 けれども――、と、ふと、宍戸の脳裏に中等部の頃の忘れたいのに忘れられない光景が過ぎった。
『先輩こそ……。相変わらず、ですね』
『え……?』
『俺が気づいてないとでも思ってました?』
 鳳と2人で居残り特訓をしていた夜。がコートにドリンクを持ってきてくれて、鳳は鳳自身のサーブ練習で荒れた手を褒めるの手を取って、の筆だこで荒れた手を褒めた。そしてまるで口説くように指を絡めて聞いたこともないような甘い声で囁いて、自分には見せたこともない「男の顔」をする鳳と、頬を染めて受け入れるに酷く動揺して無理やりに横やりを入れたのだ。そう、オイルくさい、とに暴言を吐いたのもこの時だ。
 自分の全く知らない2人の姿を見た気がして、気まずいというよりは、記憶から消してしまいたかったのだ。――と宍戸は低く舌打ちをした。
「? 宍戸さん……?」
 対面から日吉の怪訝そうな声が聞こえてきたが、頭に入ってこない。
 鳳が待ち受けにしているの写真。鳳に肩を抱かれて微笑んでいる彼女は、まさにあの夜に見たような自分には向けられたこともない表情で。無意識のうちに顔が強ばっていくのが自分でもいやと言うほど分かった。
 裏腹に、向日たちはまだ写真やたちのことについて盛り上がっている。
「このビーチで昼寝したら超気持ちEーだろうねー!」
「なあなあ、さんのビキニ写真とかねぇの?」
「ありません」
「あっても見せんやろ、そんなん。なあ?」
 宍戸の耳に、また鳳が曖昧に頷いた様子が伝った。そしてなお、「けどさー」と芥川の明るい声が前方から流れてくる。
「鳳と付き合うのって、ちゃん大変そうだよねー!」
「え……?」
「せやな……寿葉から聞いたんやけど、鳳は中等部の頃からさん一筋で忘れられんと追いかけていったんやろ? なんやラブロマンスでええ話や思たけど、ま、相手が受け入れてへんかったらロマンスちゃうしな」
「そうだけどー、ほらほら、テニスの合宿で一緒に何度も風呂入ったから俺知ってんだよねー! 俺がちゃんだったらアレちょっと怖いCー!」
「って、そんな話かいな!」
「はははッ、侑士のは普通だからな!」
「やかましわ!」
 あくまで無邪気な芥川の声と向日の茶化しや忍足の突っ込みに混じって鳳の苦笑いが聞こえ、宍戸は視界がうっすら狭くなっていく感覚を覚えた。
「ちょ、宍戸さん……? 顔色悪いですよ、大丈夫ですか?」
 あの日吉から真剣に案じているような声が漏れてくるも、宍戸は返事すら叶わない。いや、でも。たぶん返事を濁しているということは、ノーということで、2人はまだ「深い間柄」とか「男女の関係」等々で形容されるような付き合いはしていないはずだ。きっとそうだ。旅行だって、ヨーロッパは友人と集団でバカンスに行くのが普通のはずだ。きっと2人きりではない、と結論付けようとしたところで「オイ」と跡部から不機嫌そうな声が飛んだ。
「お前らさっきからなに下品な話してやがんだ、アーン?」
 その声で流れが途切れ、ハッとして宍戸もどうにか拳を握りしめて声をあげる。
「そ、そうだぜ! 長太郎も困ってんじゃねえか、なあ?」
「え……は、はい。その……」
「ほらみろ。自重しろよお前ら、ったく!」
 そうして少し浮いてしまった腰を再びドカッとソファに沈ませ腕を組めば、何となく話題が終わって内心宍戸はホッと息を吐いた。
 元々、話を始めた芥川にしても他意があった訳ではないらしく、話題は跡部が口を挟んだ事でクロアチアの歴史の勉強会が始まってしまい、彼はさっそく眠気がぶり返したのか頭で船をこぎ始めた。 
 宍戸は相変わらずの芥川の切り替えの早さに呆れたものの、歴史好きかつ近い将来社会科の教師になるはずだというのに跡部の話す内容がサッパリ分からず、熱心に聞き入って頷いている鳳を見て「物好きだな」程度に思いつつ軽いあくびをした。
 その時――。

「失礼いたします」

 応接室の扉がノックされ開いたかと思えば、跡部家の使用人が複数入ってきて「ああ」と跡部もそちらを見やった。
 みな自然そちらの方を見、鳳も流れに従えば使用人数名が数本のシャンパンと人数分のグラスを携えてやってきたのが瞳に映った。
「シャンパンも付いてねぇようなアフタヌーンティーは、アフタヌーンティーとは言えねえからな」
 しかしながら跡部はそう言ったものの、鳳と日吉の前にはオレンジジュースが置かれ、鳳は苦笑いを漏らした。自身がここ日本ではまだ未成年だということを思い出したからだ。
 すると跡部は察したのか否か、シャンパンを持ち上げて鳳の方を見やった。
「ま、仕方ねぇからな。お前にはイギリスで最高のシャンパンを飲ませてやる。それまで我慢しな」
「あ……、ありがとうございます」
 その一言で鳳は、もしかして今後は跡部にイギリスで呼び出されることもあるのだろうか、とうっすら悟ったが、全員にシャンパンが行き渡って乾杯と相成ったことで思考はそれた。
「ウゲッ、まずッ!」
「アーン? 庶民の舌には難しい味だったか?」
 どうやらシャンパンが口に合わなかったらしい宍戸と跡部のやりとりを横目で見つつ、そうだ、と鳳は忍足の方を見やった。
「忍足さん、北園さんは元気ですか?」
「ん……? ああ、まあ、変わりないで」
 微かに忍足が頬を緩め、そっか、と鳳も笑った。彼女、北園寿葉は医学部進学のために外部受験をした忍足を追って、自らも同じ大学を受験し進学を決めた事は鳳も見知っているが、高等部卒業後はどうしているか知らず気にかかっていたのだ。
「俺、北園さんにはずいぶん励まされたんです」
「……。せやろな」
「忍足さんと上手くいっているなら、俺も嬉しいです」
 忍足は若干苦笑いのようなものを浮かべたが、鳳は気にせず笑みを零した。事実、脇目もふらず真っ直ぐに忍足を追いかけていた寿葉に励まされ、自分も遠く離れたを想っていても許されるような、そんな勇気を貰ったのだ。

『好きなら追いかけていけばいいべ』

 中等部の頃、高等部の受験に来ていた寿葉に会ってああ言われた時は、まだ英国への留学は決めてはいなかった。
 むろん寿葉がいなくとも、への気持ちが風化していたとしても、自分はおそらく進学は海外でしていた可能性が高い。けれども早期にしっかりと目標を決めることができたのは、自分なりにきちんと将来への道筋をしっかり持って、改めての住むフランスへ気持ちを伝えに行こうと決意が固まったからだ。
 偶然か運命か、進学の前にとブダペストで再会して、何とか付き合える運びになったのは幸いだったが。それでも、やはり寿葉のような、ある意味「仲間」がそばにいてくれたことは自分にとっては大きな支えだった。
「おい侑士、お前、夏の計画どうなってんだ? 大阪に帰んのか?」
「ああ、それがやな……大阪に帰るか北海道行くか揉めとる最中っちゅーか。ま、今んとこ北海道が優勢やな」
「チェッ、何だよ……大阪帰んなら付いて行こうかと思ってたってのに」
 隣の向日が頬を膨らませて、鳳は、ふ、と笑ってついこう言った。
「俺も明日、先輩のご自宅にご挨拶にうかがうつもりなんです」
 北海道に行く、という忍足の言葉を「寿葉の家に挨拶に行く」と勝手に変換したための言葉だったが、一瞬空気が固まり、鳳が「え」と瞬きした次に反応したのは斜め前にいた芥川だった。
「なになに、鳳、もうちゃんと結婚すんの!?」
 瞬間、その無邪気な声が引き金となったかは定かでないが、ブッ、と宍戸がシャンパンを吹いてさすがに宍戸の対面の日吉からは強い声が飛んだ。
「ちょっと、いい加減にしてくださいよ宍戸さん! ワザとですか!?」
「い、いや……その。お、おい、てめぇジロー! な、なにさっきからふざけたこと言ってやがんだ!?」
 芥川さんに責任転嫁しないでください、という日吉の声が飛ぶも、芥川はあくまでキョトンとしており、鳳もさすがに苦笑いを浮かべた。
「いえ……まだそれはちょっと……。交際の挨拶に行くだけです。その、まだお付き合いしていることをお話ししていませんでしたから」
 言い下すと、そうか、と優雅にシャンパンを飲んでいた跡部が話しに入ってきた。
「確か……、の父親はトリニティ・カレッジの出身らしいな、アーン?」
「みたいですね。俺も知らなかったんですけど……、共通の話題ができてホッとしています」
 言いつつ、鳳はにわかに緊張も覚えた。もしもの父に悪い印象を持たれてしまえば、交際はおろか大学生活にも影を落としかねない危険性があるのだ。が……あのの父親なのだから多分大丈夫だろう。と前向きに捉え、雑談を続けつつゆっくりとアフタヌーンティーを終えた所で今日の所は解散となった。



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