『インターハイは……オレのこと、応援しててくれねえかな』 『もし、海南とあたったとしても……神じゃなくて、オレを……』 まさか、仙道があんなことを言うとは――とは帰宅するなり何か言いたげにしていた紳一など目に入らないまま自室に籠もって考えていた。 いつも、「海南が相手なら仕方ない」と冗談めいて言っていた仙道だというのに。いやしかし、それは付き合う前の話とはいえ――、しかもなぜ、神? あの瞬間に色んな想いが胸に飛来した。が、答えなど一つしかなかった。もちろんだと返事をする前に、さらに仙道は言った。 『その代わり、オレは諸星さん以上に……日本一に絶対なってみせる』 ――瞬間、なぜ仙道が夏でキャリアを終えようとしているのか。なぜ、あれほどまでに根を詰めて練習に明け暮れているのか悟った。 陵南に特待生として進学した責任、諸星に託されたこと。そしておそらく、自分の――大ちゃん以上の選手になる人だ――という想いに添うため。全てをひっくるめて背負ってやり遂げようとしているのだ、と理解した。 普段から考えていることを見せないから、分からなかった。仙道がそこまでの覚悟で夏に臨もうとしていたこと。そして、きっと自分が海南の制服を着ていることさえ、仙道の負担になっていたことも。 頷く以外の選択肢があるわけがない。だって、いつだって自分もそうしたかったのだから。 ――仙道くんだけを見てる。そう言ったら、仙道は心底安堵したようにホッと息を吐いていた。 7月に入ればインターハイ全ての出場校が揃い、組み合わせ抽選会が行われてトーナメントが出来上がってくる。 田岡はトーナメント表を受け取るとすぐにその日の午後の部活開始前に部員達を集めて、みなにインターハイでの組み合わせを見せた。 おお、とみな食い入るように見入る。 「ウチは……、勝ち上がれば最初にあたる強豪は大阪代表か」 「豊玉だな……、二年前には翔陽に勝ってるとはいえ、去年は湘北に負けた。去年は準優勝でのインターハイ出場だったが、今年は大阪王者を奪還したんだろ、彦一?」 「ええ。ばっちりデータ取ってきましたから対策はぬかりないですわ」 「海南は逆側か……。やっぱいいよな、シードってのは」 口々に言い合う部員の声を聞きながら、仙道も組み合わせをジッと見ていた。海南が反対側だろうが、いつ強豪とあたろうが、そんなことはどうでもいいのだ。どうせ最後まで行くつもりなら、いずれはどの強豪ともやり合うことになる。遅いか早いかの違いでしかない。――そう、インターハイでの目標がはっきりした。今まで口に出すのが憚られていたが、もう迷いもなく、ためらっている場合でもない。 手を打ち鳴らして部員の注意を集め、仙道は音頭を取る。 「一戦一戦、じっくり戦っていけばぜったいに勝てる。このトーナメント、ぜったい最後まで勝ち上がろう。そしてウチがナンバーワン――全国制覇だ。みんな、気合い入れていこう!」 「――仙道……!」 「キャプテン……」 すると、部員たちは驚いたように息を呑んだ。無理もない。「ナンバーワン」という言葉に驚いたのではない。仙道がこう宣言することに驚いたのだろう。そうして間を置いて、全員が拳を握りしめる。 「――そうだ! オレたちは勝ち上がるんだ!」 「せやせや! ウチはいままでインターハイに出られへんかったのがおかしいくらいなんや、ぜったい勝ち上がったるで!」 「やってやるぜ!!」 それぞれが力強く言い放ち、様子を見守っていた田岡も驚きつつも強く頷いた。 今年はいける、と思う。なにより部長の仙道が、あの気まぐれな仙道が張り切っているのだ。仙道さえやる気を出せば、他の部員も仙道に付いていこうと十二分に力を発揮できるという好循環が生まれる。行けるぞ――と頷きつつも田岡はトーナメントに目を落とす。 勝ち上がるには、やはり対策がいる。インターハイまであと一ヶ月。自分のこれまでの監督人生をかけてでも一分の後悔もないように準備をしてインターハイに臨まねば。 仙道も、田岡も、また部員達もはっきりと目標をインターハイに切り替えて、陵南は今まで以上のチームワークを見せつつあった。 仙道達からは少し遅れて、牧家では紳一の購入してきた「週刊バスケットボール」の記事が広げられ、も紳一も特集に載っているインターハイのトーナメント表を食い入るように見ていた。 「ほう……、神奈川同士は決勝まであたらないようだな」 「陵南は大阪・愛知代表のブロックか……。ウチって本当にトーナメントだけには恵まれてるよね、毎回」 「そう言うな。去年の湘北に比べりゃどこもマシだ。ウチも福岡代表やら山王やらとあたる」 「今年の山王って強いの? どうもそうは思えないんだけど……」 言いつつつ二人でパラパラと各校の紹介を見やると、陵南の評価にはBランクが付けられていた。 「んー……"天才・仙道彰率いるよくまとまったチーム。DF力あり。何回戦まで勝ち上がれるか注目だ"だって。……海南は?」 「Aだな。"神奈川の王者。攻守共に隙がなく、今年こそ全国制覇の期待がかかっている。キャプテン・神の美しいスリーは必見"。……ま、当然だな」 誇らしげに微笑みながら紳一はページを捲った。するとインターハイ特集の神奈川の部分に載っていた仙道の大きな写真が視界に飛び込んできて、一瞬顔を引きつらせる。 「"天才・仙道彰、いよいよインターハイへ!"だ……?」 そこには一面を使い、今まで全国を望まれながらも不遇だったことや仙道の天才ぶりが事細かに記事にしてあり、のぞき込んだもさすがに苦笑いを浮かべた。 「前から思ってたけど……この編集部、仙道くん贔屓な記者がいるよね、ぜったい」 「お前のようなか?」 紳一の突っ込みに眉を曲げつつ、それにしても、と思う。 「こんなにちょくちょく記事に書かれてたら、インターハイでチェック厳しくなりそうで、かえって大変なんじゃ……」 「まあ国体も出てるし、アイツが手こずりそうな相手は元からアイツをチェックしてるだろうから関係ないんじゃねえか? にしても……清々しいほど陵南推しだな」 「先週は海南だったじゃない」 「アレにしてもやたら仙道絡めてたじゃねえか。神のインタビューでも仙道仙道と……」 「お兄ちゃんの時も藤真さんとのライバル対決を煽られてたし……雑誌には必要なんじゃない? その手の煽りって」 言い返して紳一を黙させ、は再び記事に目を落とした。 先週の記事は海南優勝特集で、その中に神のインタビューも載っていたのだが、フォーカスされていたのは「神にとっての仙道」というものであり……思い出しては渋い顔をした。 おそらくあの記事に嘘はないだろう。実際、神と仙道は仲がいいし、彼は仙道を好いている。逆もまたしかりだったはず、だが。 ――もし海南とあたっても、神じゃなくてオレを応援して欲しい。 なぜあそこで神の名前が出たのだろう? キャプテンだからか? むろん、神率いる海南に二度と負けたくないという気持ちは分かるが……。 決勝でクラッチシュート決めたからかな、と思い直しては再び雑誌に目を落とした。 ――名古屋。 インターハイ開始まで、あと約3週間となったある日の日曜。愛知の大学に進学した三井は、たまの休日を利用して名古屋まで出向いていた。 三井にしてもまた寮生活を送っていたが、深体大の諸星と違って軍隊じみたものではなく、ある程度の自由は満喫できている。 「歓迎・高校総体……か」 とこぞのビルに下げられた垂れ幕を見て、三井は今年のインターハイ会場が名古屋であったことを思い出し、チッと舌打ちをした。 「あのバカヤローどもが。陵南・海南にやられやがって……。やっぱこのオレがいないとこうも弱体化するってか」 ブツブツ呟いて、後輩の顔を浮かべつつ地団駄を踏む。とはいえ今年は病み上がりの桜木を含めて陵南・海南に対し分が悪いのは一目瞭然だったため、ハァ、と肩を落とした。 「名古屋総体、か……。あいつも来んのかね」 そうして、三井の脳裏にはふとの姿が浮かんだ。 誰も自分を知らない土地で、いちから始めるのもいいのでは? と、こっちに進学する前に言ってくれた。実際、良い部分も悪い部分も含めて誰も自分の過去を知らず――のびのびとバスケに打ち込めているのは確かだ。 加えて、三井の進んだ愛知学水は男子バスケもむろん強豪であったが、なんと言っても愛知といえば女子バスケット最強の地である。女子部はここ近年は圧倒的王者として君臨しており――その中にはやはりバスケ歴の長い女子も多数いて、たまに諸星や紳一の話になるとの話も出ることに三井は驚かされた。 諸星・紳一と同じチームでエースだったけれど、中学で誰も彼女を試合で見ていない。という話に「アイツは今もうめーぞ」と何気なく言えば女子部の監督までもが詳しく聞かせろと迫ってきて慌ててバックレたことなどを思い出して、一人苦笑いを浮かべた。 「エース、か……」 彼女の過去になにがあったのかは知らない。けれど、「また新しく始めるのもいいのでは」と自分に言った彼女は、きっとこの愛知でいろいろなことがあったのだろう。 不思議だな、と思う。自分も中学では神奈川のMVPにまで選ばれて、順風満帆だったバスケ人生をたった一度の怪我で挫折して、人の道に反して墜ちるところまで墜ちて消せない過ちを犯した。けれどもまたコートに戻ることを許されて、こうしてここでバスケを続けることが出来たのは、本当に恵まれていたと思う。 神奈川を離れて思ったのだ。怪我がなければ、自分はずっと栄光の道を歩いていたのでは? 後悔が大きいほどに、その青写真が消えずに悩んだこともあった。もしかしたら、諸星のように日本一の大学に呼ばれていたのかもしれない。もっと良い人生があったのかもしれない。そんな風に、虚しい想像を重ねた。 が、例え消し去りたい過去でも、それがなければ今の自分はここにはいない。いま、ここで充実した学生生活を送れている。――辿り着いたこの未来という今を、過去に戻って修正したいとは思わない、と。今の自分が、三井寿の全てだ。 「諸星のヤロウ……、そのうち"愛知の星"はこのオレの二つ名になっても知らねえぞ」 ははは、と笑いつつ三井は雑踏の中を再び歩き始めた。日差しが熱い。 今年の夏は、きっと暑くなるだろう――。名古屋の照りつけるような太陽を見据えて、そう思った。 その頃――、陵南のレギュラー・ベンチメンバーは緑風高校の体育館にいた。 「行きますよ、越野さんッ!」 「いかすかッ!」 コートの半分を使い、越野と克美が1on1を繰り広げており、反対側でもマイケルと仙道が睨み合いに精を出している。 その様子を見つめながら、田岡は満足げに頷いていた。 ――選手の力を伸ばすには、拮抗した相手と戦うことが一番の近道である。仙道の力が飛び抜けている陵南では、仙道を含めてみなに拮抗したせめぎ合いをさせてやれないことが唯一にして最大の弱点だった。 しかしインターハイを睨むにあたり、また、対戦するチームを想定してのフォーメーションなどを試すのにどうしても相手が必要だった田岡は、緑風に合同練習を申し込んだ。 3年は全員が選抜まで残るという緑風も練習相手を欲していたのは同じで、すぐに同意した両チームは週末は緑風で練習。夏休みに入ってからはインターハイ直前まで毎日合同練習するという運びになった。 なにせ江ノ電で一本、いや、もはや徒歩圏内という立地の良さも手伝い、選手にしても、陵南の他の部員を見なければならない田岡にしても全てにおいてありがたかった。 なにより主将のマイケルは仙道の相手として申し分なく、また克美や名高といった各選手の個々の力もレベルが高く、選手達を鍛えるにはもってこいだ。 この一ヶ月はやることが多い。いくら陵南が強くても、無対策で勝ち上がれるほどインターハイは甘くない。相手を研究し、対策を立て、確実に勝つイメージを作るのだ。そうすることで選手達の自信もついてくる。なにせ全員がほぼ全国での経験はないのだ。その時点で、だいぶん海南に劣っているといっていい。 「よーし、次はオフェンス・フォーメーションのテストだ。スタメン全員コートに入れ!」 「はいッ!」 「緑風の諸君も、ウチの選手を潰すつもりでやって欲しい」 「はいッ!」 トーナメントを勝ち上がるための不安要素を全て潰す。トーナメントという性質上、ある程度はどの高校とあたるかは想定できているのだ。個々に対策を立てて、対応できれば勝率はグッと上がる。活き活きとしている選手達の顔を見て、田岡は強く頷いた。 そうしていよいよ夏休みも目前となり、インターハイも近づいてくる。 「相変わらずの定位置キープだ。凄いね、ちゃん」 期末試験の結果を廊下でが見上げていると、隣から神の声が聞こえた。見上げると常と変わらず穏やかな笑みを浮かべた神がいて、は肩を竦める。 「神くんは……」 言って探すとすぐに目に付き、ジトッと一覧を睨む。 「神くんこそ……、いつも50位以上だし、凄いな」 「あはは、主席には負けるよ」 「私は部活してないもん」 バスケをしていたころの自分の成績のタブーぶりを思い出せば、文武両道、という人間は他人種にしか思えず敗北感が拭えない。しかもあれだけ部活をしていてこの成績なら、引退したらどうなるのか。 「神くん、夏が終わったら引退するの? それとも冬まで続けて受験はパス?」 「んー……、バスケ止めるなら引退して受験に備えるかな。まだちょっと続けるか迷ってるんだ。さすがに、翔陽の花形さんみたいな芸当はオレには無理だしね。でも……どうして?」 「神くんが受験に備えるなら、神くんが一番のライバルになりそうだから。私、卒業まで主席守りたいし」 言えば、神はキョトンとしたのちに声をたてて笑った。 その笑みを見ながら思う。――あれから、神に会うたびに思っていることだが。なぜ仙道は「神じゃなくて」オレを応援して、などと言ったのだろう? 分からない。仙道より神を優先して応援したことなど、一度たりともないというのに。 「ま、でも、期末も終わったし今はバスケのことしか考えられないかな。夏休みに入ったらすぐ合宿だしね」 「どこか行くの?」 「いや、国体の時みたいに学校に泊まり込みで朝から晩まで練習」 そっか、と相づちをうっては窓の外を見上げた。 まっさらな青空だ。いよいよだ。いよいよ、仙道にとっても神にとっても最後の夏がやってくる。彼らがどこまでやれるのか――。自分はただ、見守るしかできないが。 頑張って、とギュッと手を握りしめる先では仙道の姿を浮かべた。 夏休みに入ればいよいよインターハイも近づき、陵南メンバーは緑風高校に通って練習漬けの日々を送っていた。 何度も顔を合わせるうちに緑風メンバーとも打ち解け、互いに充実した練習ができて良い状態にある。 「みなさん、お疲れさま。どうぞ飲んで」 少数精鋭で質の高い練習が出来ていることと、なにより裕福な私立校らしく――栄養ドリンクやゼリー類を適切に差し入れてくれることもチームとしてはありがたかった。 「サンキュー、恵理」 「いつもすんません、恵理さん。にしてもさすが理事長の娘さん、気前ええわ」 主将のマイケルがマネージャー――緑風高校理事長の娘、藤沢恵理にウインクを飛ばせば、彦一も張り切って礼を言った。 越野や植草もそれぞれドリンクを手にし、汗を拭っている。 「やっぱ、なんだかんだ女のマネージャーがいるっていいよな」 「そうだな、湘北とか二人もいるもんな……。しかもスゲー美人と超可愛い子……」 彼らがそんな話をする横で、マイケルは適度に冷えたドリンク式ゼリーを手で掴んでひょいと汗を拭っていた仙道に投げた。 「ほら、仙道クンも!」 仙道も反射的に受け取って笑みを見せる。 「サンキュ」 そのまま仙道はゼリーに口を付け、ふぅ、と息を吐いた。 「そういや、緑風ってあのマネージャーさんの意向でバスケ部創られたんだっけ?」 「うん。まあ、恵理の趣味みたいなもんかな。そのおかげでオレはアメリカでバスケやれたし、感謝してるけどね」 「ん……? けどお前ってあっち育ちじゃねえの?」 「半々ってところかな。けど、バスケって環境じゃやっぱりアメリカの方が優れてるし、大学はあっちに戻る予定だけどね」 親戚もいるし、とさらりとマイケルが続けて、へえ、と仙道は感心して頷いた。さすがアメリカ国籍も持っているだけあって簡単に言うものだ。 「君もどうだい? 仙道クンってポイントガードも出来るんだろう? だったらNBAだって夢じゃないぞ」 「んー……、オレはそこまでバスケ続ける気はねえし」 「ははは。無欲だねえ。仙道クンってクールだしあっち行けばガールフレンドの一人や二人あっという間にできちゃうよきっと」 「いや、……オレは一人で十分」 「わお、なに、仙道クン、ガールフレンドいるの? やっぱり?」 そんな話を繰り広げていると、そばから金切り声があがった。 「ちょっとマイケル! なに下品な話繰り広げてんのよ!」 ゲッ、とマイケルは慌てて声の主・恵理の方を向いてわざとらしく英語で謝る。そうして仙道に向けてウインクをしてきたものだから、仙道はおかしさに声を立てて笑った。 仙道クンには北米の生活が合ってる気がするなぁ、などというマイケルの話を聞きつつ、英語は割と得意だけどな、と考えながら仙道はもう一度汗を拭ってコートへと戻った。 アメリカでバスケ――。脳裏にマイケル・ジョーダンやらの著名なスタープレイヤーを浮かべて、ははは、と肩を竦める。これから数年経てば、体格的にあちらの選手に見劣りしなくなるだろうマイケルは既にNBAに目を付けられているという噂をきいた。彼にとっては英語は母国語。言葉の壁もないし、いずれはジョーダンのようなスターを目指すというのも自然のことかもしれない。 だが、いまは。そんな夢物語を思い描くより先にやることがある。自分は、自分のこのバスケ人生の全てをインターハイに賭けると決めた。そう、これは現実。遠くに描いていれば楽しいだけの憧れでも、夢物語でも何でもない、紛れもない現実なのだ。ここで「勝者」になれなければ、自分は一歩も先へは進めない。 一切の言い訳もできない。自分は、最高のチームメイトを得たのだから。――と、仙道は自分についてコートへ入ってくる4人のスタメンを見やった。 ミスが少なく、チームをよくコントロールしてくれるポイントガードの植草。短気だが、ガッツをもってチームに勢いを付ける越野。彼はシューティングガードとして、格段にシュートが上手くなった。そして粘り強いプレイでオフェンスの軸を担うフォワードの福田。ディフェンスは一流にはほど遠いとは言え、よく相手を見て対応を考え動きの反応も良くなってきている。それに陵南ゴール下を守る菅平。自分たち三年に追いつこうと努力し、リバウンドでもゴール下の守りでもきっちり働ける良いロールプレイヤーだ。 何より、自分たち「5人」でしか出来ないことがある。海南との決勝ではまだ未完成だった、陵南の切り札。 「よしッ、いいぞ福田ッ!」 ゲーム形式の練習を進めて見事にゴールを決めた福田に、コート外から田岡の声が飛んだ。 ヒュウ、とマイケルも感心したように口笛を鳴らし――仙道は、ふ、と息を吐いて自身のチームを見渡した。 「さ、つぎはディフェンスだ」 「おう!」 もうどこにも負けない。トップまで走り続けるのみ。 唯一絶対の意志を共有し合う仙道以下陵南ファイブはしっかり前を向いて強く頷きあった。 |