「いやー、凄かったなァ、諸星大……」
 ウィンターカップ観戦からの帰り道。陵南勢はしきりに諸星の奮闘ぶりを興奮覚めやらぬように力説していた。
 特にポジションの同じ越野は、試合後も人一倍フラッシュの渦にまみれていた諸星の姿が目に焼き付いて離れなかった。圧巻――。というのはこのことを言うのか。持ち前の高い技術から繰り出される外・中問わず点を量産していくそのプレイに憧れを抱くなというほうが無理だろう。
 もしも自分があのくらいできれば、と越野はチラリと仙道を見上げる。が、さすがにそれは望みすぎか、と思い直してフルフルと首を振るった。

 当の諸星は――、惜しくも優勝は逃したものの、ウィンターカップ準優勝という自身の高校での現役生活を自身最高の成績で終止符を打てたことにある程度の満足を覚えていた。
 そして――。インタビューをどうにかやり過ごして控え室に向かっていると、廊下には待っていたらしき紳一がいて自然と足を止めた。
 腰に手を当てた彼は笑顔で話しかけてくる。
「よう。惜しかったな」
「まーな」
「これでオレたちも引退、か。お前……これからどうすんだ?」
「ったく、どいつもこいつもその話ばっかかよ。オレは"愛知の星"だぜ? んなもん、決まって――」
「深体大に行け、諸星。なにを迷ってんだ?」
 ぐっ、と諸星は言われて口をへの字に曲げた。
 引退、ということはむろん今後のバスケット人生をどうするか考えなければならないということで、愛郷心の強い諸星としては地元の名門に進んで「愛知の星」でいることにこだわり、上京を拒んでいた。
 というのも、日本一の大学である東京の深体大から特待生でのスカウトを受けており、周囲からも強い説得を受けていたが、この時期になってもまだ「イエス」と言えないでいたのだ。
「オレはお前と違って愛知に誇りを持ってるからな。だいたい、うっかり上京したらもうテメーを裏切り者扱いできねーじゃねえか。つーか元から日本一とかつまんねえだろ。それにオレには愛知を日本一に導くという使命が……」
 ブツブツと首にかけていたタオルを握りしめながら呟いていると、紳一から盛大なため息が漏れてきた。
「お前の戦う相手は、日本一のシューティングガードとして、世界だ!」
「――!」
「だろ?」
 愛知とか東京とか、そんなこだわりは捨てて、より良い環境を選んでいけ。という紳一の言葉は、まさにその通りだ。環境の善し悪しは、ダイレクトに自身の成長にも成績にも影響してくる。
 ――仙道など良い例である。あれほどの選手でありながら、未だにインターハイに出られていないのだから。
 そうだ、日本一のプレイヤーになってくれ、という目標は勝手ながら仙道に譲った。これからのバスケット人生、やれるところまで突き進んで、1からスタートするのも悪くない。
 というか、たぶん最初から答えは決まってたんだろうな、と諸星は頷いて真っ直ぐ笑顔で紳一を見やった。
「なら、お前も深体大来いよ。愛知のスーパーガードコンビ復活だ!」
 そうだ、紳一と同じチームでまたやれれば。これ以上に心強いことはない、と拳を握りしめて紳一を見やると、紳一はキョトンとした表情を晒してから首を振るった。
「いや、そりゃ無理だ。オレは海南大にそのままあがるからな」
 瞬間、握りしめていた拳がブルブルと勝手に震えはじめ――歯ぎしりした諸星は眉を釣り上げて大声をあげた。

「この……裏切り者があああああ!!!」

 とはいえ、取りあえずの引退――、ウィンターカップ後、諸星は関東に留まって牧家にて年末を過ごすこととなった。

「まあまあ、大君が来てくれるなんて本当に久しぶり! あらあらこんなに素敵になっちゃって……。大学は東京なの? じゃあ、たまには遊びにこられるわね!」

 紳一の母は諸星を熱烈歓迎し、紳一とと諸星は、本当に久々に3人のゆったりとした時間を過ごす――はずだった。
「おい、。あいつは一体なにしてんだ?」
「あいつ……?」
「仙道だ、仙道」
「あ……、ああ……うん」
 諸星としては仙道が選抜に勝ち上がってこなかったことが不満であり、紳一と最後の試合が出来て満足でもあり、といった微妙な心境らしく――、はウィンターカップ終了の翌日、寒空の下を諸星を連れて湾岸散歩に出かけた。「普段の仙道彰」を事細かに説明するよりは見せた方が手っ取り早いからだ。たぶん、いるだろうな、と思っているとやはり防波堤のあたりにいたツンツン頭が目に付き諸星に目配せすると、ハッとしたらしき諸星は一目散にかけていく。
「仙道ッ、てめえなに釣りなんかやってやがんだ! 部活はどうした、部活は!」
「え――ッ、あ、も、諸星さん……!?」
「部活サボりとは良い度胸だな、ああッ!? 部長だろお前!? その腐りきった根性、このオレがたたき直してやるぜ、どこだ、陵南は! 連れてけッ!」
「え……ちょっと……」
 もしも陵南のキャプテンが諸星だったら。おそらく仙道はサボる暇すらなかっただろうな――とは連行される仙道を見送った。関わるとややこしいことになりかねないし、そもそも口を挟む暇すらなかった。
 見送って、やれやれ、と肩を落としてから冬の空をスッと見上げた。

 一方、その頃の陵南は――。
 今日は年の瀬ということもあり、自由参加となっていた。
 田岡も少しは顔を出すと言っていたが、大晦日を前にして大掃除に追われる予定らしく、来るかは未定だ。
 しかしながら、前日のウィンターカップ決勝戦の興奮が冷めやらない陵南レギュラーメンバーは気持ちが逸ってほぼ全員が体育館に集っていた。
「カッコ良かったよなー、諸星大! シューティングガードってかっけえんだよな! ジョーダンだってシューティングガードだしな!」
「……そうだな……」
 はしゃぐ越野に福田は意味ありげな視線を送り、途端、越野はムッとする。
「なんだよ、なにが言いたいんだ?」
 するとプイッと福田はそっぽを向いてしまい、チッ、と越野は舌打ちをした。――言われずとも分かる。「まさか自分を諸星、ましてやジョーダンと比べて言ってるんじゃないよな?」というある意味蔑みの目線だ。
 悪かったな、こんなシューティングガードで。と半ばやけくそでシュートを打っていると、体育館の扉が勢いよく開かれた。

「チワー!!」

 仙道の声――、と。知らない声が重なって、一斉にみなが扉の方を振り返った。
「仙道!?」
「なんだよ、来たのか珍しく」
 自主参加で、しかもこんな年の瀬に、いくらキャプテンと言えども仙道が来るとは思っていなかった部員達は一様に驚いた声をあげ――そして、仙道の隣で腰に手を当ててふんぞり返っている人物を見て、固まった。

「チューッス! ちょっくらお邪魔させてもらうぜ!」

 そうして、みな、一様に目を擦った。
 仙道より低いといっても長身の肢体、やたら男前のその男は――紛れもない、昨日、代々木体育館で激闘を見せてくれた張本人。

「も、諸星大!?」
「愛知の星!?」
「も、諸星さん……、本物!?」

 全員の声が重なった。
 特に越野は目を剥いた。間違いない、愛和学院のキャプテン・諸星大だ。昨日、決勝戦で誰よりも活躍していた――。
 驚いていると、仙道と諸星は体育館に入ってきて、仙道は「偶然そこで会って」などと訳の分からない説明を繰り広げている。
 諸星はどこか訝しげに仙道を睨みあげてから、みなの方を向いて、ニ、と表情を笑みに変えた。
「ちょっくら見学させてもらうぜ!」
「え……」
「ほら、お前も練習混ざれ! サボってんじゃねえぞ!」
「う……は、はい」
 宣言した諸星は、ドン、と仙道の背中を押した。
 なんとなく、理由は分からないが苦笑いを浮かべる仙道の顔を見て「諸星が無理やり連れてきた」のだと悟った。
 ふー、とため息を吐いた仙道は手をたたいて「さ、やろうか」とみなを促し、取りあえずみな「なぜか愛知の星が見ている」というシチュエーションに緊張しながらも流し練習を開始した。
 そうして十分ほど経っただろうか? いったん波が途切れたところで、腕を組んで渋い顔をして見ていた諸星が、ニ、と笑ってコートに入ってきた。
「シューティングガードはどいつだ?」
 瞬間、ビクッと越野の身体が撓る。
「お、オレ……です、けど」
 おそるおそる手を挙げると、諸星は笑みを深くして腰に手を当てた。
「よっし、オレが練習見てやるよ!」
「え……!?」
「お前、名前は?」
「あ……、越野宏明です」
「越野、越野ね。オレは諸星大、よろしくな」
 そんなの、誰でも知ってる。というのに、わざわざ名乗ってくれる辺りに人の良さを感じた。が、次の瞬間に辺りがザワついた。
「取りあえず、勝負しようぜ。力試しだ」
 ――日本一のシューティングガード相手に、力試し。けれど、こんなチャンス滅多にないだろう。ゴクッ、と越野は喉を鳴らした。
 いくら日本一とは言っても、同じ高校生。同じポジションなのだ。やってやる! ――と意気込んだのは最初の数分だけであった。
 おそらく、諸星は自分の実力に落胆したのだろうとありありと分かった。いや、それどころか落胆さえ通り越したのか、ついには説教が始まってしまった。
「テメー、シューティングガードなめてんのか!? いいか、シューティングガードってのはだな――」
 3年生の引退前を彷彿とさせる。いや、こんな先輩は陵南にはいなかったぞ、と訳も分からず恐縮していると、諸星はついにこの場にいた仙道を除くレギュラー全員とマッチアップをして、なぜかプルプルと拳を震わせていた。
「なるほど……。なんで仙道がインターハイに出てこれねーか、ようやく合点がいったぜ……」
 小さく呟いて、彼はグワッと顔をあげ声を張った。
「お前ら! こんなんで全国制覇出来ると思ってんのか!? こんなんじゃインターハイ出場すら危ういだろーが、海南っつー宿敵もいんのによ!!」
「ぜ、……全国制覇……!?」
 彼はここを愛和学院と勘違いしているのではないか? インターハイに出場したことすらない陵南が、いきなり全国制覇? と戸惑っていると、おもむろに諸星は仙道の方を向いた。
「全国制覇だろ? お前の目標は!」
「え……あ……いや、その」
「違うってのか!? ああッ!?」
 あの仙道すら困惑しているとは、もはや誰も言い返せないではないか。と、なお困惑している越野たちとは裏腹に、諸星は至って真剣な表情をしている。
「とにかく、キャプテンからしてこんな腑抜け野郎じゃ話にならねえ!」
 ――それは全員が同意する。
「オレは冗談で言ってんじゃねえぞ! 仙道率いる陵南が、全国制覇しねえでどこがするんだ!?」
「――!?」
「海南は夏、準優勝だ。オレの愛和も昨日、準優勝した。だがな、仙道はオレより海南の牧より、可能性があんだぞ! オメーらがやらずに誰がやんだよ!」
 ゴクッ、と全員が息を呑んだ。
 確かに、そうだ。陵南には、仙道がいる。仙道がいる――。だが、と逡巡していると、隣で興奮気味に彦一が拳を握りしめていた。
「そ、そうですよね! ウチかて、インターハイを勝ち上がれる力はあるはずや……!! ウチには仙道さんがおるんやし!」
 すると、その返事は気に障ったのだろうか? 微妙に諸星が眉を寄せたところでガラッとそばの扉が開いた。みなが一斉に扉の方を注視する。
「な、なんだ……?」
 視線の先には、いまこの状況が全く飲み込めずに困惑している田岡の姿があり――全員がハッとして頭を下げる。
「監督! チュース!」
 諸星もみなに倣い頭を下げ、面食らっている田岡のところに駆けていった。
「監督ですか!? お邪魔してます、愛和学院の諸星大といいます!」
「も、諸星……!? 愛知の、諸星君かね……!?」
「はい」
「お、おお……昨日はウィンターカップを見させてもらったぞ……。惜しかったが、良いプレイだった」
「ありがとうございます!」
「――で、なぜその愛知の星がここにいるんだ……?」
 田岡は状況についていけないまま、誰もが知りたかった疑問をぶつけ――諸星は説明した。
 呑気に釣りをしている仙道を捕まえて体育館につれてきたこと。
 仙道には並々ならぬ目をかけていて、陵南というチームをついでに見て行こうと思ったら予想外に弱点だらけだったこと。
 そもそも、キャプテンからして気合いが足りないことをあげ、このまま黙って見ていられないと訴え田岡に頭を下げた。
「自分、冬休みいっぱい神奈川に留まり、陵南を鍛え上げ直したいと思うのですが……監督!」
「え……いや、しかし……」
「このままだと陵南はインターハイ制覇はおろか、出場すら危ういかもしれませんよ、監督!」
「イ、インターハイ……制覇……!?」
「そうです、制覇です! 打倒・海南! 目指すは日本一!」
 瞬間、田岡の顔色が若干変わったことを越野は見逃さなかった。打倒・海南というフレーズが田岡の琴線に触れたのだろう。
「ま、まあ……。君のような優秀な選手が鍛えてくれるなら……我が陵南にとってはこれ以上ないプラスとはなるが……」
「ありがとうございます! じゃあ、決まりですね!」
 弾けるような笑みを見せた諸星は、くるりと越野たちの方を向いた。
「というわけだ。改めて、よろしく頼むぜ! お前ら、インターハイ制覇……する気はあんだろ?」
「――ッ!?」
「オレが冬休みの間、みっっっちり鍛えてやる! 次はぜってー、海南に勝てよ!」
 サラッと笑顔でとんでもないことばかり言う人だ。だが、なぜだろう? 力強い声と、一点の曇りもない笑顔はなぜか皆を惹きつけるものがあり。あの「愛知の星」ということも相まって、みな力強く返事を返した。

「ほらほら、頑張れ!! よしッ、いいぞ!」

 軽く自主練習のはずが、一転――がっつり通常以上のスパルタ特訓となってしまった。と、仙道は肩を竦めつつも笑みを浮かべた。
 諸星大――、本当に不思議な人だ。急に陵南に現れ、みな困惑していたというのに、いざ練習が始まればすぐに陵南をまとめ上げてしまった。
 これが、引退したばかりとはいえ強豪校の主将の力なのか。諸星元来の明るさゆえか。
 よく動く。みなを見ているのに、誰より動いて、声をかけている。本当によく動く人だ。
「仙道! よそ見すんなッ!」
「すんませーん」
 軽く返せば、罵倒が倍の勢いで返ってきて仙道は苦笑いを浮かべた。
 ――この感じ、覚えがある。
 もしかしたら、は従兄の紳一ではなく、諸星の方に似ているのでは?
 などと考えつつ、夜が更けてくる頃にはみんな体育館にヘトヘトになって倒れ込んでいた。
 本来なら明日の大晦日も自主練習のはずだったが、当然のごとく朝から練習と変更になり――それでもみなは「頑張ろうぜ!」と励ます諸星の明るい声に頷いて帰っていった。
 仙道と諸星も、揃って海岸線を歩いた。
「お前、一人暮らしだっけ?」
 問われて、仙道は頷いた。そう言えば、諸星は冬休みの間ずっと神奈川に留まると言っていたが、どうするつもりなのか。
 訊いてみると、あー、と諸星は頭を掻いた。
「今から牧んちに帰ってお袋さんに頼まねえとな……。ダメだったら、お前んトコに置いてくれ、頼む!」
「え……、いや、まあ構いませんけど……。え、諸星さん、じゃあ牧さんの家に泊まってるんですか?」
「ああ。昨日からな」
 頷いた諸星に、仙道は立ち止まる。紳一の家といえば、イコールの家だ。いくら幼なじみと言えど、自分以外の男がと同じ屋根の下にいるとは……とつい考えてしまって黙り込むと、「ん?」と諸星は眉を寄せた。
「どうした……?」
 怪訝そうな顔をした諸星は、次いでハッとしたような表情に変えると、耐えきれないといった具合に笑いはじめた。
「おまッ……ひょっとして……ハハッ……ハハハハッ……ハハッ、ゲホッ、ゲホッ!! ハハハッ、ゲホッ!」
 笑いすぎてついには咳き込んでまで笑い続ける諸星を「なんなんだいったい」と見下ろしていると、ようやく笑いを収めた諸星は「わりぃわりぃ」となお漏れそうになっている笑いを耐えるようにして言った。
のこと心配してんだろ? けど、ありえねえぜ。オレにとっちゃ、アイツは……そうだな……ヒーローみてーなもんだし」
「ヒーロー?」
 思わず聞き返すと、ああ、と諸星は相づちを打った。どういう意味だ、と逡巡していると、数歩先を行っていた諸星がこちらを振り返る。
「けど、ま。確かにアイツ、見た目だけは可愛くなったよな。2年前に再会した時もけっこう驚いたもんだが、ここ最近、益々やたらと女っぽくなってやがる。変わるもんなんだな」
 そうしてそんなことを言うものだから、仙道はなおさら警戒した。そもそも、最近が可愛くなったのは他でもない、自分のせいだと自負しているというのに。
 ジッと睨んでいると、視線に気づいたのか諸星は肩を竦めて笑った。
「仙道……、お前、のことまだ良く分かってねえな。アイツは、エースなんだ。ヒーローなんだよ、オレたちにとっちゃ。昔から、何も変わっちゃいない」
「ヒーローって……」
「言っただろーが。アイツが、どんだけの選手だったと思ってんだ? お前にとっちゃ、ただの可愛い女の子かもしれんが、オレにとっちゃそうじゃねえんだって」
 伸びをしながら言われて、仙道は少しだけ唇を曲げた。のことをまだ良く分かっていない。などと他の男に言われるとは、あまりいい気はしない。だが、諸星になら言われても仕方がないような気がして複雑な心境になっていると、「そうだ」と諸星は思いついたようにこちらを向いた。
「お前、明日どうすんだ? 練習終わったら実家帰るのか?」
「え、いや……年越しはこっちでと思ってますけど」
「なら、お前も牧んち来いよ! 一人じゃつまんねーだろ?」
「え!? いや、ていうか……オレ、ちゃんと初詣行く約束してて――」
「じゃあちょうどいいじゃねえか! みんなで行こうぜ!」
「え……!?」
「お前も牧んち泊まりゃ一石二鳥だろ? オレ、相談してみっから! んじゃまた明日な!」
 そうして言うがはやいか、諸星は駆けだしてしまい――、仙道はあっけに取られたままその背を見送った。
 まいったな、と首に手を当てつつ思う。
 相変わらず騒がしい人だ、が、この冬は忙しくなりそうだ。


 そして、海南は――。

「牧さん……そして先輩方、今までお世話になりました。これからの海南も、先輩たちの活躍に恥じないよう、常勝の歴史を守り抜いてみせますので、どうか安心してください」
「おう。神、お前がいれば次の代も安心だ。陵南にも、湘北にも、負けんなよ」
「――はい!」

 海南は海南で年始を前に紳一たちは正式に部を引退し――、紳一は部長の座を神へと譲り渡した。
 これからは、神を中心に海南も新しい色へと変わっていく。

 仙道の、そして神の――最後の夏に向けての静かな幕開けだった――。


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