ジャンプボールは愛和が勝ち、相手ジャンパー・森重のパワーに花形はおののいて館内はどよめいた。まずは愛知ボールだ。

「4番! 4番オッケー!」

 ボールを取った諸星に仙道が付いた。神奈川のディフェンスはゴール下重視のゾーン。だが、チームの柱の諸星には仙道をぶつけるという作戦だ。

「仙道が諸星にマンツーだ!」
「神奈川のエースはやっぱアイツってわけか! おもしれえ!」

 む、と唇をとがらせて諸星は仙道を見据えた。観客の反応を見るに、どうやら自分と仙道のマッチアップは今日の見所の一つらしい。
 とはいえ、この試合は仙道に勝つのが第一目的でもない。目的を見失ってはキャプテンどころか選手失格である。そう、最優先は愛知の勝利。

「さあ一本! 一本行くぞお前ら!」

 言って諸星はドリブルしながら、フイッ、と6番――ポイントガードにボールを渡す。神奈川はボックス&ワンで仙道を自分に付けているのだ。外も含めて、自分の攻撃は徹底的に封じてくる作戦だろう。

 ――チッ、けっこうディフェンスいいなコイツ。

 スカした顔しやがって、と諸星は仙道の動きを見て内心悪態を吐いた。なかなか振り切らせてもらえない。
 ゴール下の森重はローポストを取れないよう、高砂・花形の二人がかりでうまいこと守っている。パワーは森重の方が上とみたが、花形の197センチの長身はやっかいなことには変わりない。しかも神や藤真も上手くチームの動きを見ていつでもフォローに入れる構えだ。パワーの相手に、柔でいなす作戦だろう。
 ならばこちらも、と諸星はポイントガードに目配せした。と同時に諸星自身も視線のフェイクとステップを駆使して左に振る。――と見せかけて右に抜ければ、ハッとしたように仙道が叫んだ。

「スイッチ!」

 おせーよ、と駆けだした諸星の両手に6番からパスが来て、諸星はキャッチとほぼ同時にボールを弾き飛ばしてフォワードのスクリーンでローポストに入った森重の元へ送った。
 1ステップ遅れて花形がブロックに入る、が、一歩間に合わず森重の放ったボールはリングを貫いた。

「おおお、先取点は愛知だぞ!」
「ナイスアシストッ、諸星!」

 ボールを拾った神がスローインして藤真にボールを渡すと、藤真は、ふ、と息を吐いてから指を立てた。
「こっちも一本返していくぞ!」
「おう!」
 とはいえ、神は当然警戒されているのかマンツーで相手のフォワード・7番がついている。身長差もほぼない。インサイドも長身かつ重量級の森重と、高砂より上背のある荻野が守っていてやはり厳しい。花形はシュートエリアが広いが――ここはやはりアウトサイドで行くのが無難だ。
 ちらりと仙道を見た藤真は、仙道も自身の考えを理解していると信じてそのままフロントコートに向かって突っ込んだ。
 仙道も走り、阻む諸星の動きを翻弄するようにハイポストを取る。と同時に藤真からパスを受け取って、諸星と向き合ったまま逆サイドにノールックでボールを投げ出した。視界の端に神がマークマンを振り切って一瞬フリーになったのが映ったからだ。
 そのまま神がスリーポイントを決めて3点を返せば、ワッ、と一進一退の攻防に会場が沸いた。

「すっげえアシスト! ノールックだったぞ」
「お見事、仙道! こっちも負けてねえぞ!」

 神奈川はそのままディフェンスに戻り、愛知に速攻を出させない。
 愛知は主にゴール下にボールを集めてインサイド勝負で行ったものの――。

「テクニカル・ファウル! 白・8番」

 花形にうまいことオフェンスファウルを取られた上に、ノーカウントのダンクをを思い切りぶちかましてリングに捕まり続け――さっそくのファウル2連発コンボをくらった森重を諸星はコメカミに青筋を立てて睨んだ。が、「いかんいかん」と首を振るう。自分が神奈川の選手だったとしても、森重にファウルを貰いに行くのは定石でありそうするだろう。相手のインサイトがクレバーなだけだ。

 ――あの一年坊主がッ、選抜では覚えてやがれよ!

 敵同士に戻るウィンターカップ予選の事を思い浮かべつつ諸星が睨む先では、コート上のキャプテンである藤真が冷静にテクニカルファウルによるフリースローをきっちり2本決めた。

 藤真は厳しいチェックにあっている仙道を無理には使わずに自分と神を攻撃の主体にし――対する愛知はインサイドを主体にしながらもチャンスがあれば諸星もオフェンスに使っていた。
 が、思うように得点が重ねられないのは、仙道がマンツーでついているせいだろう。
 仮にも「愛知の星」と呼ばれ、沢北のいない今は日本一のプレイヤーと呼び声の高い諸星が攻めあぐねている。
 スコアは外の得点を重ねる神奈川がリードを示し、早い段階で愛知はタイムアウトを取った。

「ナーイス仙道さん! ナイスディフェンスでっせーー!!」

 神奈川ベンチの頭上に彦一の声が振ってきて、ドリンクを手に仙道も見上げて笑みを返した。
 いいペースで来ている、と高頭も選手を誉める。
「花形・高砂、これでよく分かったがあの一年は必ずゴール下でファウルがかさんでくる。パワーはあっちが数段上なのは認めるしかないが、吹っ飛ばされてもめげるなよ!」
「はい!」
 しかしながら既にかなり疲弊している様子の二人を見て、は内心舌を巻いていた。あの一年生センターをゴールしたで相手するのは骨ということだ。
 それにしても――、と思う。あのドライブの鬼・諸星をあまり中に切れ込ませていない。自分自身、よく知っているが諸星を止めるのは見た目以上に神経と体力が削られるというのに、仙道も相当なものだ、と無意識に仙道を見やっていると、ドリンクから目線を外して仙道がこちらを向き、目があったのでハッとして口を動かす。
「ナ、ナイスディフェンス、仙道くん」
「……サンキュ」
「大ちゃんにこれまでほとんどドライブを許してないのは……、凄いよ。ね、お兄ちゃん」
「ああ。だが愛知はあくまで森重にボールを集めている。ヤツはまだ様子見だな。ノッてるときの諸星はこんなもんじゃない。油断すんなよ、仙道」
「――はい」
 仙道は返事をしながらドリンクボトルを、キュ、と握りしめた。諸星のポテンシャルが高いのはマッチアップをしているだけでよく伝ってくる。まだ本調子ではないのも百も承知だ。しかしながら、改めて――にとってだけでなく、あの紳一も、どうやら諸星を「最高の選手」だと思っているのだと仙道は感じた。

の前で、オレは負けるわけにはいかねえからな』

 試合開始直前、ボソッと、確かに諸星はそう言っていた。
 むろん、神奈川チームとて同じようには思っているだろう。合宿の時に神が、の前で気を抜けない、と言っていたように。自分だってむろん、負けるつもりは微塵もない。が――、彼のそれは自分たちとは比べものにならないほど重い気がした。果たして、自分はそれに打ち勝てるのだろうか?

 ふ、と息を吐いてチラリと仙道はを見やり、紳一はその仙道の微妙な表情の変化を敏感に感じ取っていた。

 仙道が、を気に入っているのは知っている。ただ、それがどこまで本気であるかは読めなかった。が――この様子では、割と本気だったのではないのか、と感じて腕組みをし、渋い表情を浮かべた。はいつでも仙道を最優先で応援してきた。海南との試合の時でさえ、が見ていたのは仙道だったはずだ。それは仙道も良く分かっているだろう。だが――さすがに今日は分が悪い、と紳一の目線は愛知のベンチに飛ぶ。いくらが仙道を諸星以上の逸材と期待しているとはいえ、にとって今の仙道が諸星以上の存在だとはとうてい思えない。
 それに――、と紳一の顔は渋みを増した。
 は、仙道を諸星以上の存在として期待している。おそらくは、自分が仙道のような選手であったなら、との想いを重ねて。仙道なら諸星に勝てる、と。
 だが、実のところは諸星が誰かに敗北することを望んでいるのか? 答えはとてもイエスだとは紳一には思えなかった。はまだ、三年前の晩夏の日から一歩も動けていない。諸星にバスケットを止めろと言われたことを、受け止めて、受け流すことで目をそらしただけで、受け入れてはいない。――と、そんな気がするのだ。
 少し、この試合の行く末が恐ろしい。と紳一は肩を落とす。諸星のへの思いもまた、あの晩夏の日から動いていない。それを仙道が超えられるとは――とても思えない。

 ――ったく、中途半端に人の妹に手を出すからややこしいことになるんだ。

 ハァ、と紳一がため息をつく先で、審判がタイムアウトの終わりを告げ選手たちはコートへと戻っていく。
 スコアラーを務めている海南の生徒が高頭の方を向いた。
「前半残り5分で、すでに森重は2ファウルです」
「うむ。いいペースだな。ゴール下からヤツが消えれば、怖いのはもう諸星だけだ」
 ニヤリ、と高頭はほくそ笑む。
 森重は、おそらく数年後もバスケットを続けていれば日本を代表するようなセンターに成長するだろう。だがしかし、今はまだ身体能力だけのバケモノに過ぎない。パワーでは劣っても技術の勝る花形・高砂ならきっと上手くさばいてくれるだろう。
 あとは、仙道だ。対する諸星は愛知の柱。紳一のようなパワフルなリーダーシップは諸星にはない。が、諸星さえいればチームは負けないと思わせる部分はむしろ仙道の方に似ている。とはいえ仙道と諸星の最大の違いは「勢い」だ。例え100点の差があっても、諸星なら本気で「大丈夫!」とみなを励まし、そして周りも呼応してしまう。
 その天性の「明るさ」は驚異だぞ、仙道、と高頭が見据える先で二人はどちらも一進一退の攻防を繰り広げている。

「諸星さんっちゅーのは凄い選手や。あの天才・仙道さんとこんなに渡り合えるとは、ほんま、すごいシューティングガードやで……!」
「あれでもまだ力を抑えてるだろうな、諸星は。みてみろ、そう自分でボールを保持する場面は少ない」
「せ、せやかて仙道さんかてまだまだこんなものやあらへん! そうでっしゃろ監督!?」

 陵南勢も見守る中、コートではインサイドの攻防で花形と高砂が踏ん張っていた。
 与えられた仕事は森重にポジションを取られないこと。ダブルセンターという特殊な起用ではあるものの、上手くヘルプしあってリバウンドは二人がかりで、可能な限りは跳ばせない。とはいえ、相手は経験が少ないせいか単純なフェイクなど小手先の技術には引っかかってくれるものの――パワーの差が圧倒的であり、前半終了を前にして早くも二人の体力は既に終盤のように余裕のない状態となっていた。
 二人ともベンチに下がる。などとなれば、もはや一気にワンサイドゲーム。それだけは避けなければならない。せめて道連れにするつもりであたる――、と高砂はパスを受け取った森重にプレッシャーをかけたが、無理矢理に押し込まれて跳ねとばされる結果に終わった。
 観客が沸き、高砂は肩で息をする。圧巻のパワーだ。オフェンスチャージを貰いにいく暇さえなかった。
「大丈夫か? 高砂」
「おう」
「よけいなことは考えるな。ゴール下のディフェンスだけに専念するんだ。点はオレたちがとる」
「おう」
 藤真が高砂に声をかけ、高砂も頷いて立ち上がると走り始める。海南の選手は、みな体力には自信を持っている。自分もそうだというのに、こうまで消耗させられるとは。――末恐ろしいルーキーだ。

「また森重だあああ! とまらねええ!」

 ブロックにきた花形を吹っ飛ばしてのダンクシュートに会場は歓声をあげた。
 タイムアウトを取ったことで愛知はペースを持ち直し、神奈川はあっという間に逆転を許す結果となった。
 それでも――。インターハイで彼一人に50得点を許した静岡の常誠思えば、神奈川勢は食らいついて止めている方だ。
 とはいえ、神奈川ベンチもさすがに息を呑んでいた。
「監督……」
「我慢比べだな。高砂たちの巧さが勝るか、森重に押し負けるか……」
「だが、ウチは愛知に押されてるわけじゃねえ。あのデカブツと諸星のヤローのイン・アウト猛攻で勝つのが愛知の必勝パターンだが、今日の諸星は仙道からそれほど点を取れちゃいねえからな」
 三井が言い下して、宮城が「でも」と口を挟む。
「諸星サン含めて愛知のガード陣は明らかに森重にボールを集めてますよ。仙道もよくやってはいるが、そもそも諸星が攻めてねえ」
「それだけ諸星も仙道を警戒してるってことだろ? 森重で行った方が確実だと考えてやがんだ」
「実際、高砂さん花形さんとは体格差がありますからね。ま、逆に言えば体格差だけっすけど」
 バスケットにおいて、身体能力はこれ以上はないプラスポイントだ。2メートルの重量級、スピードもパワーもあるというのはもはや生まれ持った資質から差があるとしか言いようがない。そこは覆らない。が、そういう相手に真っ向勝負は無駄。おまけに素人なら絶対に穴がある。――と神奈川が自信を持っているのは、他でもないこの場にいない桜木との対戦経験があるからだ。彼もまた、まだまだ発展途上の身体能力重視の選手であり、神奈川はこの手の「バケモノ」の対処にアドバンテージがあるのだ。

 前半、32-39の7点ビハインドで愛知を追う形となった神奈川は、引き続き作戦変更はナシで森重を自滅に追い込む策を続けるよう高頭は指示した。

 一方の愛知は、監督もろとも再三に渡る注意を森重に飛ばしている。
「森重! 何度言ったら分かるんだ。ゴール下で相手は確実にファウルをもらいに来ている。普通にやってればお前は絶対勝てる。強引なプレイはするな!」
 森重のこのクセは、森重自身の名朋の監督が再三注意しているにもかかわらず全く変化が見られないものだ。愛和の監督がいくら口を酸っぱくしたところで暖簾に腕押しだろう。センターとしての存在感は愛和のスタメンを遙かに凌ぐが、やはり、愛和にとっては彼は一緒のチームで仲良くやれる相手ではない。
「神奈川はガードが強い。神をいくら封じても藤真自らどんどん点をとってくるのが今日の神奈川のパターンだ。フォワード二人は下がって藤真・神には常にプレッシャーをかけろ」
「はい!」
「そして、諸星。これからはボールを外と中で分散して点をとっていく。仙道はまだ2年、お前に勝てはしない、自信もっていけ!」
「はい」
 諸星としては仙道とやり合うのを避けているわけではない。単にゴール下の方が確実であるがゆえにボールを森重に集めていたに過ぎない。が。既に森重は2ファウル。これまでの戦いでも格下相手に2試合も自爆で退場している。
 チッ、と諸星は内心舌を打った。――夏のインターハイ予選で愛和は名朋に惜敗した。負けたこと自体も屈辱であったが、未だに愛和と名朋が仲違いしているのにはワケがある。他でもない、森重のラフプレーだ。
 諸星自身、自身のシュートを不当なファイルで叩き落とされ、腰を強打して担架で退場させられるという屈辱の極みを味わっている。いや、当たり負けたのは体格の差だから仕方がないとはいえ――、あれは「バスケット選手」の動きではなかった。
 結局のところ、パワーで負けはしたが技術ではまだまだ諸星自身の敵になれるほどではなく――負けはしたが、自身が怪我で戦列を離れていなければ名朋には勝っていただろう。
 つまるところ、森重の上から点をとるのは自分には容易いということで、神奈川で言えば仙道・流川クラスなら慣れれば容易いだろう。ゆえに、やはり仙道は自身が封じ続けなければならない。
 ハァ、と諸星はため息を吐いた。森重に対して予選の恨みがあるかと問われれば、もう気にしていない。とはいえ、当の森重はあの調子であるし、愛和のメンバーはあの試合を屈辱的な一戦だと位置づけている。国体の間だけでもとずいぶんと歩み寄ろうとしたつもりだが、上手くいっていない。

「そろそろ時間です」

 控え室にノックが響いてスタッフが知らせてくれ、「行くぞ」との監督の声に愛知のメンバーは立ち上がった。
「大丈夫か?」
 諸星は休憩を経ても随分と息の上がっているポイントガードに声をかけた。
「ああ」
「周りにどんどんパス回していけ。オレも下がってボール運ぶ」
「おう」
 藤真というポイントガードは、紳一以上とは思わないものの紳一からパワーを引いて視野を広げたような能力を持っているらしい。単純な能力比較だったらポイントガードは神奈川が上だな、と諸星は口をへの字に曲げた。
 ――ガード陣、そしてフォワードに強力な布陣が敷けたチームは間違いなく強い。
 ゴール下ももちろん大事ではあるが。今でもそう思っている。ガードが支え、フォワードがチームの中心にいる。
「…………」
 自分の原点であり、自分のバスケットの原点は。いつだってが前を走り、それを紳一と自分が支えていた。今も、最高のポイントガードは紳一であり、最高のフォワードはだと思っている。そして自分は――。自分は。

『沢北くんにだって、大ちゃんなら勝てるよ!』
『ごめんね、大ちゃん』
『神奈川に、すごい選手がいるの。きっと今に大ちゃん以上になる』

 負けられない。の前で、負けるわけにはいかない。
 例えが、仙道を自分以上の選手だと思っていたとしても。もしもが、あの晩夏の日のことを、恨んでいたとしても。

『ごめんね、大ちゃん』

 負けるわけにはいかない。にバスケットを諦めさせたあの日、誓ったのだ。もう誰にも負けるわけにはいかない、と。が負けたのは、日本一の男だった。例えが男として生まれていても、勝てなかったのだと。自分を負かしたのはそんな男だったと、いつか納得して欲しくて――自身に誓った。負けるわけにはいかない、と。
 もう二度と、元の3人には戻れないことは分かっている。これはただの自分の意地だ。
 負けない、と拳を握りしめた諸星を会場の喝采が迎えてくれた。

「出てきた、愛知代表! このまま頼むぞー!」
「負けるな神奈川ーー!!」

 そうして出てきた愛知代表を見やって、紳一はもう一度スコアボードを確認した。神奈川は7点ビハインド。しかし流れ次第ではこのくらいならひっくり返せるだろう。
 だが、と仙道に声をかける。
「気合い入れていけよ。おそらく愛知は後半、諸星でくるはずだ」
「――はい」
 一見すると涼しい顔で仙道は頷いた。
 紳一をもってしても仙道の考えはいまいち読めない。が、夏の決勝リーグにおいて自ら神奈川ナンバー1である自分に挑み、勝つ気でいた仙道だ。相手が誰であろうとひるむようなタマではなし。むしろ彼は十二分に自分の能力の高さを信じて、自覚しているはずだ。
 ただ、やはりまだ二年――。諸星は、あれで強靱な精神力と覚悟を持っている。例え能力が仙道の方が勝っていたとしても――と紳一は思う。
 もしも、もしも決勝リーグの相手が愛和で、もしも同点延長戦であったら。陵南のエースが仙道ではなく、諸星であったら。おそらく、諸星は魚住のいない陵南を率いてなお諦めはしなかっただろう、と。
 土壇場で、その「違い」は必ず活きてくる。それに、くぐった修羅場の数は圧倒的に諸星が勝っているのだ。親友を贔屓目で見ているわけではないが、やはり諸星は選手として高い地位にいることは間違いない。
 後半――厳しい戦いになるぞ、と紳一は仙道の背中を見送った。


BACK TOP NEXT