そうして3月も半ばが近づき――、卒業式の朝を迎える。
 はいつも通り起床し、いつも通り、いやいつも以上に神妙な面もちで制服に袖を通した。こうして制服を着るのも最後かと思えば、身の引き締まる思いだ。
 無事にコンクールには出品し、やり残したことはなにもない。この3年間――あっという間だったが、とても充実していた、といつもの通学路を噛みしめるように歩いた。家の近所のテニスの森公園――もともとよく足を運ぶ場所だったが、いまでは格別の思いが宿る地となった。毎日電車に揺られて、同じ制服の群れを見つけて同じ道を歩いて。そうして今日もその道を辿ると、見えてきた校門の前には「氷帝学園中等部・卒業式」と書かれたパネルが掲げてあり、いよいよだ、と実感する。門をくぐれば、いつも通りの光景だ。校庭の至る所は、ほぼ全て自分の居場所だった。花や木を見つけては描いて、そして――と脳裏に過ぎらせつつは3年C組へと足を運んだ。
「おはよう、宍戸くん」
 自分よりも早く登校していた宍戸に、最後となる挨拶をかけると彼もいつも通り「おう」と笑って応えた。
 宍戸以外のクラスメイト達は、あまり卒業の実感がないのか普段と変わらなかったが、宍戸がどこか神妙にしていたのは――やはりこの場所からだけがいなくなってしまうと実感していたからだろう。
 しかしながら互いに他愛もない話に花を咲かせ、式の開始を待つ。やがて校内放送にて在校生のみ体育館に入るよう指示があり、その後の3年生入場の放送を待ってから皆そろって移動することとなる。
 在校生――鳳もまた、神妙な面もちで3年生に先立ち体育館へと移動していた。
 生徒数の多い氷帝では2年生全員で卒業生を送ることは叶わず、卒業式に出席するのは在校生代表メンバーとなる。委員会の委員長を含めた生徒会の面々、そして各クラスの代表1名だ。クラス代表の選出方法は特に定められておらずクラスのやり方に一任されていたが、鳳は是非にと挙手したのだ。
 やがて教師陣、来賓、保護者、在校生、そして卒業生と揃い、氷帝学園卒業式はつつがなく開始される。全員起立にて国歌斉唱をし、卒業証書授与だ。各クラス、クラス委員が代表してステージにあがり校長より証書を受け取り、在校生は拍手で見送る。そうして校長の式辞から始まり――やがて在校生である現生徒会長が送辞を述べた。そして前生徒会長である跡部が答辞を述べ、体育館は熱い拍手に包まれた。
「世に広く 範を垂たれれば 掲げるは 真の理 貫きてゆけ」
「氷帝 氷帝 その名 永久に尊し」
 榊の伴奏にて生徒達による校歌斉唱が行われ、厳かな空気のまま閉式の辞までつつがなく終わる。
 そうして退場していく卒業生を、鳳は神妙な面もちで見つめていた。A組の跡部をはじめ、多くの先輩たち。その多くが在校生代表として座っている自分に気づき――何らかのリアクションを送ってくれてその度に嬉しさと寂しさで涙腺が緩みそうになってしまう。けれども――彼らとはしばしの別れだ。また高等部では共にテニスをやれるだろう。今までありがとう、と送る拍手に寂しさは混ざるものの、それはとても前向きな音だった。
 むろん、卒業生とて感極まって涙するものも少数だが存在したものの――皆の瞳に寂しさは滲んではいない。体育館を出た彼らの口々から「ひと月経ったら高等部で入学式だぜ」などという言葉が飛び交っている。
 と宍戸もC組に戻り、最後となるHRにて自分たちの卒業証書を担任の小林から受け取った。
「卒業及び進級おめでとう、宍戸! 高等部でもテニスばかりにうつつを抜かさず、勉強も頑張るんだぞ!」
「――わーったよ。分かってますよ」
 いつも通りながらも小林はどこか寂しそうにしており、宍戸の方もこれが最後だからと眉を寄せたもののしっかりと証書を受け取り席へと戻った。その様子を見ていたが微笑み、互いに見つめ合う視線に少しだけ寂しさが混ざる。そうして最後のHRが終わると当然のように記念撮影と相成り、勢いのままに校庭にでて更に撮影会は続く。も宍戸も撮った撮られたを繰り返しては微笑み、そうしてどちらともなく呟いた。
「卒業、か……」
 見上げた空は青く、流れる雲は穏やかだ。
「お前……、いつからあっち行くんだ?」
「来週の水曜日だから……あと10日くらいかな」
 そうか、と相づちを打った宍戸の声が空へと溶けていく。そうして少し沈黙が流れ、二人して少し肌寒い春風に髪を靡かせた。
「なんか、実感沸かないな。入学したのがつい最近のことみたいなのに……」
「アホ、辛気くせぇツラしてんじゃねぇよ」
「宍戸くんこそ……」
「バッ――! べ、別に俺は……ッ!!」
 そうして二人笑い合い、ふ、と息を吐いてからはそっと宍戸に手を差し出した。
「3年間、本当にありがとう」
 宍戸は少し目を丸め、少し寂しげに息を吐いたのちに「ああ」と頷いてその手を取る。
「こっちこそ、な」
「テニス、頑張ってね」
「お前も……。しっかりやれよ」
 そうして名残惜しげに手を離し――は特別教室棟の方を見やった。
「私、美術室に寄ってから帰ろうかな。本当に最後、だし」
 そう、これで宍戸ともお別れ――けれども、二人の間に寂しさはあれども後ろ向きな感情は一つもなかった。例えこれが今生の別れとなったとしても、互いに、変わらぬ親友でいられると互いが信じていた。
「ああ。――またな、
「うん。――さよなら、宍戸くん」
 ゆっくりと互いに背を向け、そうして歩き出す。
 歩き慣れた校庭を一歩一歩、は自身がもっとも多くの時間を費やした特別教室棟へ向かった。毎日毎日、籠もりきりで絵を描き続けた美術室。そして――と思い巡らせたの耳に、不意打ちのように弾けるような音が飛び込んできた。
「え……!?」
 叩き付けるような和音。まるで激情の渦のような、訴えかけるようなシンコペーションだ。
「な、に……?」
 それこそが、鳳が音楽室のグランドピアノで弾いているシューマンのピアノソナタ第2番だったがには分からず、いや鳳が弾いているのだとは分かったがあまりの迫力に圧倒されて特別教室棟に入る前に足を止めてしまった。見ると、周りの生徒達もその音に少なからずざわついている。
 怒濤の音はいったん収まったかと思えば甘やかに変わってまるでカノンのように流れ、ホッとしたのもつかの間で、またうねるように音の波が暴れ出す。執拗に繰り返されるシンコペーションに――は無意識のうちに胸の前でギュッと手を握りしめていた。
「鳳くん……」
 来い、と言っているのだろうか、彼は。あのバレンタインの日に、納得いかない、と訴えて去ったまま――。
 特別教室棟に足を踏み入れて、は階段の上から降ってくる音を辿るように見上げた。何度も何度もこんな音に誘われるようにしてあがった階段。それが当然のように流れていた日々。けれども――。
 荒れ狂う波のように流れてくる音の渦から、は後退も前進もできずにその場に立ちすくんだ。この音を無視して前には進めない。かといって、このまま去ることもできずに――そしてやはり、もう一度向き合ってお別れしなければという思いに駆られて恐る恐る階段を上っていく。すると聞こえる音は益々激しさを増し、扉の近くまでくれば音の迫力に気圧されるほどだった。そうしてはハッとする。――音楽室のドアは開きっぱなしとなっていた。彼がわざと、音が学園に響くようにそうしたのだろう。はおそるおそるドアから中を覗き込む。
 すると、いつものように楽譜と睨み合う鳳がいて……しかしながら彼はやはりが来る事を想定していたのだろう。一瞬、と鳳は目が合い、鳳はシンコペーションの波に合わせるように目を見開くと辛いのか嬉しいのか読めない表情をし、なお強く鍵盤を打ち鳴らした。そうして激情のままに第一楽章が終わる。ふ、と鳳は息を吐いて流れるように楽譜を捲りそのまま鍵盤に指を滑らせた。途端に甘い旋律が広がって――は驚きも相まって数度瞬きをした。迷うような不安から高まる昂揚の旋律。幻想的な音色は、まるで先ほどまでの怒濤の流れが嘘のようだ。合わせるように鳳が時おりこちらに笑みを向けては甘い音色を響かせ、が少し鼓動を速めていると彼は再び険しい顔をして鍵盤を叩いた。怒り狂ったように始まる第3楽章だ。思わずは身体を撓らせてしまう。かと思うとシンコペーションが詩的なカノンを奏で、でもそれも一瞬、また絶叫の旋律が音楽室を包み込む。息つく間もないまま第4楽章に移り、落ち着いたかと思えば再び音が疾走し始めて、鳳は汗を飛び散らせながら大きな手を鍵盤に走らせ続けた。静まり、叫び、音が踊る。まるで狂ったかのような音の渦だ。まるでそれは、普段の穏やかな鳳と、テニスに向ける彼の戦いの瞳を垣間見るような音のうねりだった。弾き終わりと共に倒れてしまうのではないかと息を呑むほどに――走り続けて走り続けて、最後の和音を押さえ――そして鍵盤から指を離した鳳は、止めていた息を吐くようにして、ふ、と肩を落とした。
 はなにも反応できずに――楽譜を見つめる鳳の横顔を見つめて、ゴク、と息を呑む。
「……すごい……演奏、だった」
 もはやそう告げるだけで精一杯だった。鳳は楽譜から目をそらさないまま、少しだけ瞼を撓らせた。
「来て、くれると……信じてました……先輩」
 そうして鳳は眉を寄せ、息を吐いてからの方を向く。ぴく、との身体が僅かに強ばったが――鳳は微笑んでいた。
「先輩、ぜったいこの曲好きだろうと思って」
「え……?」
「シューマンのピアノソナタ2番です。知ってました?」
 ううん、と首を振るうと、そっか、と呟いて鳳は広げていた楽譜に手をやった。
「シューマンって、ロマンチックで型破りな曲ばかりなんですけど……、彼のソナタでこの2番だけはとてもクラシカルで……型通りに理知的なんです。でもそこかしこに夢想家っぽいロマンチシズムが見え隠れして、ぜったい、先輩の好みだって思ってました」
 言って鳳は楽譜を畳み、椅子から立ち上がる。
「鳳くん……」
「言いましたよね? 俺、先輩の好きそうな曲はなんとなく分かるって。でも最近、連戦連敗だったから……今日だけは外したくなくて。だから、俺の勝ちですね」
 あはは、と笑う顔に少しだけ疲れが滲んでいた。20分近くも狂うように弾き続けていたのだから無理もあるまい。
 つい今の演奏が、あの音色一つ一つが自分のため――と言われたようなもので、いつもの笑みにどこか憂いと硬さが見え隠れする鳳には返事をすることが叶わずに、早鐘を打つ心音を押さえるようにしてギュッと胸の前で手を握りしめているしかなかった。――自惚れだ、と思ってしまうことさえ彼に失礼だろう。だって、今の演奏で、今の音で、鳳の抱える感情は否応なく分かってしまったのだから。
 すると鳳は、なにやらピアノ脇に置いていたらしき包みに手をやって開け――すっとの方へ詰めてふわりと両手をの首に回し、反応が遅れたはされるがままに鳳を見上げる。鳳は、カチ、との首の後ろで何かを留めると緩く笑って、そっと手を離した。
 開いた窓から少し肌寒い風が入り込んで互いの髪を揺らし、は解せないままそっと首筋に手をやると、確かに金属の感触があり驚いて目を見開いた。
「それ、ずっと渡しそびれてたんですけど……夏にパリで買ったものです。先輩に、と思って」
 言われて胸元のチェーンを手で掬うと、視界にピンクゴールドのトップが映る。小さめで上品なそれは確かに桜の花びらを形取っていて――少しだけ鳳が笑った。
「好みじゃなかったらすみません。でもフランスで桜なんて面白いと思っちゃって……、なのに今度は先輩があっちに行くんですから、あまりお土産の意味がなかったですね」
 つ、と息を詰めて返事の叶わなかったが眉尻を下げていると、鳳は緩く優しく囁くように呟いた。
「ね、先輩……」
「え……?」
「パリと日本って……思っているより遠くないですよね。そりゃ、同じ学園にいるのとは違いますけど……」
 しかし鳳の腕は微かに震えていて――鳳の言いたい意味をは理解して僅かに俯いた。確かに鳳の言う通り、なにも日本とフランスは絶望を生むほど遠い距離ではない。もしも彼が「後輩」や「友人」としてそう言ってくれているのであれば笑って肯定しただろう。そうだね、また会おう、と。しかし――そうではないと知っては小さく首を振るう。
「鳳くんは、今年……氷帝を率いて全国制覇して、それから高等部にあがってまた宍戸くんたちとテニスをやるんだよね?」
 見上げた鳳の頬が、つ、と撓ったのが映り、なおは続けた。
「私も……頑張るから……鳳くんも、頑張って……」
 鳳の表情が歪む。の言葉に抗うように鳳はへ向けて腕を伸ばした。しかし――その手が自身の身体に触れる前に、は今よりもしっかりした口調で懸命に鳳を見据えた。
「初めて……、私たちが初めて会った時のこと、覚えてる?」
「先、輩……」
「私は鳳くんに初めて会った時の、あのエチュードの音……今でもはっきり覚えてる。歌い出しそうなくらい弾んだ音だった。期待と昂揚に気持ちを抑えられないような……。私は、あの時の鳳くんと同じ気持ちでパリに行くの。だから――」
 それは自分の気持ちを告げることさえも拒否するということか。――と鳳はに触れる前に握りしめた手を無意識に震わせていた。
「先輩……ッ」
「鳳くんに会えて、良かった。鳳くんといられて……私……ッ」
 の瞳がじんわりと涙を湛えて揺れる。――しかし懸命に懸命に唇で笑みを作ろうとするを見て、鳳は今度こそやり直しの効かない、別れの時なのだと悟った。けれどもとてものように笑みを作ることはできずに、小さく首を振るうのみだ。それを見ては悲しげに眉を寄せてから目を伏せ、そっと首元のチェーンに触れる。
「ペンダント、ありがとう。大切にするね」
 そうして数秒のあいだ目を伏せていたは、次に顔をあげた時は少し潤んだ目はそのままに微笑みを湛えて鳳の瞳を見つめた。
「春になったら……、私の絵を見てくれる?」
「え……?」
「鳳くんに見て欲しいの。まだ結果は出てないけど……きっと一番良い位置に飾ってあるはずだから」
 言われた鳳の脳裏に浮かんだのは、あの幸せだった春の日の光景だ。諭すような声と、らしい自信も湛えた言葉に――鳳はやはり返事をすることが叶わない。
 は少し寂しそうに微笑む。
「テニス……、頑張ってね……」
 肯定も否定もできずに、鳳はただ震えているしかなかった。――身体が、笑って見送ることを拒否して返事すら叶わない。けれどもの方も、それを仕方ないと受け取ったのだろう。彼女は小さく眉を寄せ寂しげに息を零した。
 互いにこの2年間で変化していった全てのものを内包したこの空間の中で、いっそ漂っていられるなら救われたかもしれない。けれども、進み行く時間の中で互いに立ち止まることは許されずに――互いに歩み寄りたい感情を抑えて、の方から少しだけ後退した。
「元気で、ね……」
 それでも「さよなら」と言い合えなかったのは互いのワガママだったのかもしれない。永遠のような一瞬の中で見つめ合い、はそっと鳳に背を向ける。そして、彼女はこの出会いの場所から再び一歩を踏み出し歩き始めた。
 その背を見据え、鳳は愕然としたままふらりと後ずさって力無くピアノ椅子に腰を下ろし、無意識に両手を鍵盤へと乗せていた。
 そして廊下に出たが階段に差し掛かった頃――後ろから聞き覚えのある旋律がゆっくりと流れ始めた。
 ――フレデリック・ショパン作曲、エチュード10−3ホ短調。
 あまりに有名で、あまりに美しいその旋律はが初めて鳳のピアノを聴いた時のようなウキウキと弾む音ではなく、本来の哀しみと憂いを湛えていて、気丈に前を向いていたは耐えきれずに口元を押さえた。
 溢れた涙に顔を歪ませ――、それでも後ろは振り返らずに歩いていく。
 鳳の奏でる、楽譜通りの――それにも増して感情の乗った旋律。その音は学園中に響き渡り、今日を最後にこの場を去る誰もが足を止めて聴き入った。別れを惜しむような、懐かしさを誘発されるような音の囁きに、誰もがみな感嘆の息を漏らす。その源では、奏者がぼやける視界で自身の叫びを音に変えて鳴らしているのも知らずに――。

 この国で「別れの曲」と呼ばれるその曲は、まさに旅立つ卒業生たちの心を打ち――そして、始まる前に終わった一つの小さな恋の哀切を淡々と歌い上げた。

***

 桜の舞う季節が巡り――新緑が萌えいずる春。
 三年への進級を間近に控えた鳳は、の希望通り、今度は一人で上野の美術館に佇んでいた。まだ消化できない気持ちを抱えたまま、一番高い位置に飾られていた絵――大賞の絵を見上げる。
「先輩……」
 そうして初めて――、鳳は彼女の筆が人に向けられたことを知った。そしてなぜ、自分に見て欲しいと彼女が言ったのか。一瞬にして理解した。
 人物画を描かないのか? と訊いた自分への答え。それは――。
「"Human Touch"、か……」
 出会えてよかった、と、自分と一緒にいられて幸せだったと彼女が感じてくれていたことが嘘ではないことが確信できる絵だった。この絵を描けた――それが、なによりの彼女の答えだったに違いない。驚くほどに、自分でもハッと確かな感覚が降りてくるのが分かった。
 そうだ。自分とが出会い、共に過ごした時間は少なくとも無意味ではなかったはずだ。微笑み合い、共に暖かな気持ちを育んできた。今は別れることとなってしまったが、二人、出会ったことで互いに確かに成長できたのだ。そして――互いにやるべきことのために、はパリへ行き、自分はここに残った。
 彼女は――、彼女の言う通りとても前向きな気持ちで日本を去ったのだ。こうして、成長の証をここに残して――。

 美術館を出て、鳳は人波の中を歩きながらそっと舞い散る桜を見上げた。
「先輩、俺……」
 始まらないままに終わった関係――そうだ、まだ芽吹いてもいない。もしもまた彼女を見つけることができたら――またどこかで交わることができたら。その時はもう少し大人になって、また新しく始められるかもしれない。
 この世界のどこかで、また出会って、また手を取り合って。
「俺、テニス頑張りますから。だから……どうかお元気で……」
 うっすらと飛行機雲の滲む空へ、鳳は卒業式には叶わなかったへの返事を口にした。
 その顔には既に涙はなく、少し大人びた晴れやかな表情があるのみだ。

 今日もまた、同じように時が流れていく。
 この道を振り返らず、自分も歩いていこう――。

 鳳はすっと前を見据えて、花びらの舞う道を微笑みながらゆっくりと一人歩いていった。



   - THE END -season 1



BACK TOP
良かったらぜひ!