「お、もう7時だな」
紳一との白熱した将棋での勝負にすっかり夢中になっていた諸星がふと手を止めて言った。
もうそんな時間か、と紳一も手を止める。
「そういや流川は夕方には帰るって言ってなかったか?」
「言ってたな……」
言いつつどことなく二人で天井をチラリと見上げ、ふぅ、と紳一が息を吐いた。
「あいつらの部屋にいるんだろ? 呼んでくるか」
仕方ねえな、と立ち上がろうとした紳一をギョッとして慌てて諸星は止めた。
「待て待て、オレが行く!」
「は……?」
なんでだ? と紳一はキョトンとしたが諸星は彼の肩を押して座らせつついつも通り笑ってみせた。
「一応は世話になってる身だからな。このくらいの雑用はやってやるよ」
「まあ……そう言うなら」
紳一は特に気にした様子は見せず、諸星はホッと息を吐いてリビングの外へ向かう。そうして廊下へ出て階段を上がりつつ、うーむ、と考えた。
おそらくナイとは思いたいが。と流川はいわゆる「男女交際」をしているわけで。自分たちが下の階にいることが牽制になっているはずとはいえ、恋人の部屋で二人きりという以上は「そういうこと」になっている可能性もゼロとは言えない。
そんな場面を紳一に目撃させるわけにはいかずこの役を買ってでた諸星であったが、の部屋の前まで来てさすがに一度深呼吸をした。
そして、よし、と一度頷いてからノックをする。数度叩き、様子を見る。しかし全くの無反応で諸星は首を捻った。
悪いとは思いつつドアに耳を近づけて聞き耳を立ててみるが、全く何の声も聞こえない。
再度、諸星はノックをした。
「おーい、! 、流川!?」
声をかけてみるも何の反応もなく――さすがに諸星はゴクリと生唾を飲んだ。
「おいおい、なにしてやがんだ正月から……!」
これはやはりそういうコトの後に寝落ちしてる可能性が高い。と頭を抱えるも、ここで自分が何とかせねば紳一が部屋に踏み込んでしまうだろう。それだけは紳一のためにものためにも避けたい。
ふぅ、ともう一度深く息を吐いてから諸星はドアノブに手をかけた。
「開けるぞ!」
最後にもう一度声をかけ、反応がないのを確認してから諸星はドアをあけた。
さすがの諸星も想像していた光景はあまり見たくないものであり無意識に目を窄めていたが、予想とは裏腹に目に飛び込んできた光景は別のものだった。
寝ている。という予想だけは一致していたが、あろうことか二人はカーペットの上で寄り添うようにしてブランケットにくるまったまま寝ていたのだ。むろん服は着ており、明らかに単なる昼寝だと悟って諸星は心底安堵したと同時に漏れてきた笑みで肩を揺らした。
「昼寝かよ……」
色気ねえな、と諸星にしても思ってしまうほど微笑ましい光景に目を細める。――正直に言えばなぜが流川を選んだか分からなかったが。こうやって見ればけっこう似合ってんな。と二人の寝顔を見つつ頷いた。
そうしてに声をかけ、ようやく目をあけた彼女は「大ちゃん……?」と寝ぼけた瞳でこちらを見て呟いた。そしてどうやら状況が掴めていないは横を向いて流川を視界に入れたのだろう。「え!?」と驚いたような声をあげ、さすがに諸星は肩を竦める。
「なにやってんだお前ら……。ノックしても返事はしねえし」
「あれ……私……」
「流川、夕方には帰るとか言ってなかったか? もうすぐ7時だぞ」
すればようやく事態を飲み込めたのかが流川の肩を揺らす。
「る、流川くん……! 起きて」
「……んー……」
流川が気だるそうに眼を開け、ボーっとしながらもむくっと起き上がって諸星は苦笑いを漏らす。
「つーかなに寝てんだよお前」
「オレじゃねー」
「は……?」
「あんたが寝たから……」
そうして彼は視線をの方へ向け、話している最中にが寝てしまったためその場に寝かせて部屋にあったブランケットをかけ、自分もそのまま横になったのだと語った。
「それで仲良く昼寝かよ……」
言いつつ諸星は小さく笑みを零した。
と流川と、そして仙道の間になにがあったのかは知らない。が、あれほど流川のバスケに何の興味も示していなかったが流川を選んだということは……よほど流川本人に惹かれる何かがあったのだろう。と目の前の二人を見つつ笑った。
――それか。単にバスケができる相手として選んだか。ないとは言えないな。単純なだけに。と「明日は大ちゃんも一緒にやろう」と流川との早朝練習に誘ってきたを見てなお諸星は笑った。
いずれにしても良かった、と無表情なようでいてジッとを大事そうに見やる流川と嬉しそうに彼と話すを見て諸星は頬を緩めた。
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