――夏休み一週目。水曜日。

 早朝の仙台駅で待ち合わせをしたと及川はそのまま始発の新幹線に乗って東京を目指した。
「東京って中学の修学旅行以来、すんごい久々」
「そっか……、そういえば東京だったっけ、修学旅行」
「俺、あの時買ったSuica持ってるんだけどまだ使えるよね?」
「うん。あれば便利だと思う」
 二人とも朝食はまだで、及川は駅で仕入れた駅弁を広げ、もサンドイッチとコーヒー片手に雑談に花を咲かせた。東京までは約一時間半。あっと言う間である。
 定刻通りに東京駅に到着して、はホッと息を吐いた。
 東京はにとっては生まれ故郷であり、勝手知ったるということもあり、やはり自然と嬉しさが込み上げてしまう。
 が、及川はというと――。
「ナニコレ凄い人なんだけど!? 東京怖ッ!!」
 新幹線の改札を抜ければ平日の8時というラッシュアワーど真ん中の東京駅である。縮あがった彼が唖然としている間にも人波は無情に押し寄せてくる。
 突っ立っていては邪魔なため、は「あっち」と及川の手を取って山手線の方へ歩き始めた。すれば頭上から意外そうでいて茶化すような声が降ってくる。
「ナニ、ちゃんてば地元だとずいぶん積極的だね?」
 そういうわけではなく地理に詳しいからであったが、人の波に乗りつつは少し頬を染めた。
「ま、ココだと知ってる人はいなさそうだしね!」
 キュ、と及川が指を握り返してきてドキッと胸が脈打つも、そうかもしれない、とは胸の内で頷いた。
 東京では知り合いに会う可能性は極めてゼロに近く、少なくとも仙台よりは人の視線を感じないで済む。
 そのまま山手線のホームにあがると、手を繋いだことで上機嫌な様子だった及川から急に悲鳴が漏れてきた。
「ナ、ナニアレ!?」
 見やると及川の視線は対岸の線路に向けられており、そこには新橋方面へ向かう電車に人々が押し寄せ押し込み合うという東京名物とでも言えるような光景が広がっており、ああ、とは納得した。
「私たちの乗る電車はあそこまで混まないから大丈夫だよ」
 おぞましい光景を目の当たりにしたとでも言いたげにショックを受けている及川を宥め、列に並んでやってきた山手線内回りの電車に乗り込む。ガラガラではないがラッシュ時だとは思えないほど車両は快適で、二駅目の秋葉原で降りてそのままつくばエクスプレスに乗り換え、席に腰を下ろしてようやく一息吐いた。
「やっぱ東京って人多いんだねえ」
 及川はラッシュ時の光景がよほどショックだったのかまだ苦笑いを浮かべており、も相づちを打ちつつ自身の腕時計に視線を向けた。9時半前にはつくば駅に着けそうだ。
 父は既に用事で先に上京しており、今日も先に筑波大に行って知り合いの教授たちと会っているという。
 つくば駅に着いたら連絡してくれと言われていたため、駅に着いて大学へ向かうバスを待っている間には父親に連絡を入れた。
 及川はというと、時刻表を見やって目を白黒させている。
「大学循環バスとかある! どんだけ広いのさ!?」
「自転車とかあった方が便利かもね」
 そんな話をしつつやってきたバスに乗り、バスに揺られて大学の施設らしき中を横切りつつ父の指定したバス停で降りると、バス停には父の他にもう一人、父と同い年くらいの男性が立っていた。
「やあ、及川君。よく来たね」
「お父さん……!」
「こんにちはー!」
 父は軽くこちらに手を振って、隣にいた男性にたちを紹介した。
「こちら娘のと、及川徹君です」
 言われても挨拶をして頭を下げれば、及川は相手の男性を見知っていたのかやや緊張気味に姿勢を正して名を名乗ると握手をして挨拶を交わした。
 男性は大学の卒業生であり現在はバレー部の監督に就いているらしく、一通り及川の白鳥沢戦の感想を述べてから近くの大きな建物の方に促した。
教授にもお話したんだが、いま体育学群は夏のセミナーをやっててね。興味はあるかな?」
 監督曰く、現在サマーセミナーを実施中ということで国内外問わず講師も招きスポーツに関する研究・議論をしているらしくキャンパス見学も兼ねて見ていかないかということだった。
 公用語は英語ということで及川は若干引きつつも興味を持ったらしく、案内されるままについていった建物内のレクチャールームでは外国人の講師が「スポーツビジネスマネジメント」についての講義をしていた。
 既に始まっていたため、途中から拝聴して約一時間ほどで終わり、終了して隣に座っていた及川を見ると眉間に皺を寄せて難しい顔をしていた。
「ほとんど分かんなかったんだけど……」
「な、慣れだよ、きっと」
 がそう声をかけると「けど」と及川は難しい顔を崩さないままに言った。
「こういう授業もあるんだねえ」
 それは内容を指していたのか言葉の事だったのか定かではないが、及川が講義内容に興味を持ったらしいというのは伝わり、は瞬きをしたのちに薄く笑った。
 そのまま講義の行われていた棟を出て、バレー部の監督に誘導されるままに歩いていく。
 体育学群のエリアは芸術学群も集中しており、合わせて「体育・芸術エリア」と呼ばれるらしい。体育館も複数あり、バレー部は球技体育館を使っているということだった。
「筑波大が母体となったプロチームの拠点でもあるから、学生たちはプロと一緒に練習しているんだよ」
 監督が説明してくれ、へえ、とは相づちを打って及川を見上げた。
「すごいね。及川くん、知ってた?」
「モチロン」
 笑って及川が答え、及川はそんな環境も含めて志望校を決めたのだとは理解した。
 そうしてと父は監督と共に球技体育館に向かう及川を見送り、いったん彼らとは別れた。付いていっても出来ることは皆無なためだ。
「ほんとに広い大学だね」
「そうだね。キャンパス単位だと日本でも1,2を争う広さだからね」
「都心部からはちょっと離れてるけど……」
「きっと学生は隔離されている感覚を覚えるだろうね。父さんもイギリスにいた頃はそうだったよ」
 そうして父の勉学に励む環境が整っている、という話を聞きつつは内心少しだけハラハラしていた。

 上手くいくといいけど……とが祈りつつ、一方の及川。
 球技体育館に案内された及川は、持参した運動着に着替えてアップを取り、まずはサーブを軽く打ってみるよう指示されていつものように打っていた。

「コントロールが良いですね」
「威力はまだ発展途上かな。でもスパイカーでもいけそうな選手だね」
「宮城はここ最近はずっと白鳥沢が代表ですからね。彼の世代にはユース代表の牛島若利がいますから、なかなか他校の選手は表に出る機会がないですしね」
「ビデオを観た感じだと、セッターとしてもまだまだ改善すべき点があると感じたけど……。どうかな、来年は無理でも数年後に伸びてくる可能性は」
「さあ……、全国経験がないということで、他大学は彼を取ることはないでしょうから……そうなると宮城に埋もれる形になりますね」
「うーん……、それはちょっと勿体ないかもしれないな。技術なら、身に着けさせることはできるからね」

 サーブで狙う場所を指示され、終わればまばらに体育館にいたプロチームの選手と思しき選手達と軽く合わせるように言われた及川に監督達が何を話していたかは知りようがない。
 ともかく自分の力を最大限見せられるように必死で――短い時間だったはずだというのに、終わったときには1日中動き回ったあとのようにドッと疲れが押し寄せた。
 監督・コーチ陣は自分の評価にはいっさい触れず、チームの普段の練習方法や大学のカリキュラムについて軽く説明してくれたのちに解散となる。
 の父が体育館の外で待ってくれており、及川は監督陣に礼を言った。
 そうして監督陣との父親が挨拶を交わしているのを観て、及川は今日のことはの父の顔を立てた事も大きかったのだろうと悟った。
 が。が言っていたとおり、ここから先は自分次第。だが関東一部リーグのチームに自分がどう映ったかなど分からないし――と無意識に難しい顔をしているとが訝しげにこちらを覗き込んできた。
「大丈夫……?」
「へ!? う、うん。ぜんぜん大丈夫! バッチリ!!」
 取り繕いつつ、及川は自身を落ち着かせるように息を吐いた。
 の父が昼食をとっていこうというのでつくば駅界隈で昼食を済ませてから筑波エクスプレスに乗った。秋葉原に着いたのは15時過ぎだ。

「それじゃ及川君。良い結果になることを祈ってるよ」
「ありがとうごございます!」

 昼食前までは緊張が抜けきっておらず気もそぞろな様子だった及川だが、いまは落ち着いたようではホッと胸を撫で下ろした。
 父にはまだ行くところがあるらしくJRの改札にて別れを告げる。
 そのままぼんやり立っていると、及川が切り替えたようにの方を見て笑った。
「さ、行こっか」
「え?」
ちゃんの地元」
 言われてはハッとした。そういえばそんな約束だっけ、と頷いて及川を伴い、山手線で有楽町まで出てメトロに乗り換え、豊洲を目指した。
 そして豊洲にてゆりかもめに乗れば、最前列に陣取った及川は興奮気味に目を丸めてはしゃいだ。
「なにこれスッゴイ! オートマチック!?」
 ゆりかもめはコンピューター制御にて無人で動いており、無人の運転席から視界良好で周囲を見渡せるのはきっと心くすぐるものがあるのだろう。
 も相づちを打ちつつ笑う。
「私が住んでた頃は、まだ豊洲まで繋がってなかったんだけど……」
 が有明に住んでいた頃は、ゆりかもめは延伸工事中であり完成には至っていなかった。と懐かしく思いつつ「有明テニスの森」で下車する。
「この駅も住んでた頃はなかったんだけど……、やっぱり何年も経つと変わっちゃうね」
 言いつつ道案内をしていると、テニスの森競技場が見えてきて、は今はタワーマンションになっている場所を指した。
「あの辺りに家があったの」
 今はマンションが建ってしまっているが、と説明すると「へえ」と及川が興味深そうに見やり、も懐かしく昔を思い出した。海にほど近いこの場所は今でもお気に入りの場所だ。
 そのまま小さい頃に毎日のように通っていたテニスの森競技場に入り、聞こえてくるテニスボールの打撃音に耳を傾けながらは周囲を見渡した。
「小さい頃、よくこの辺りでスケッチしてたの」
「ああ、だからちゃんテニス部の練習はよく見学に行ってるんだね」
「そういうわけじゃないんだけど……。やっぱり馴染みはあるかな」
 歩きつつ、「あ」とは及川を見上げた。
「でも、バレーってテニスが元になってるんだよね?」
「え……」
「バレーって、テニスのボレーのことだよね?」
 単語が一緒だし、と付け加えれば及川はしかめっ面をし「そうだっけ」と呟いては少々苦笑いを漏らした。
 記憶が正しければバレーボールという競技はテニスのボレーにヒントを得て作られたはずだ。
「及川くん、テニスできる? バレーを応用したりできるのかな」
「わかんない……、テニスやったことないし。でも無理じゃないかな。逆はできそうだけどさ」
 そうして、でも、と及川は薄く笑う。
「テニスだと一緒にできそうだよね。バレーだとチーム集めなきゃだけど」
「あ、そうだね」
「じゃあそのうち2人でやろ!」
 周囲のテニスを楽しむ人々に目線を送りつつ及川は上機嫌そうに笑った。
 としても懐かしい空間で、木漏れ日さえ懐かしくて、口元を緩めて小さく頷く。
 そのままテニスの森公園を抜ければ国際展示場が見えてきた。
「やっぱ何かオシャレだね!」
 イーストプロムナードを手を繋いで歩いていると及川がそう言って、は小さく笑った。
ちゃんが小さい頃もこんな感じだった?」
「うん。ここはあんまり変わってない」
「俺なんて岩ちゃんが虫取りやってる横でバレーばっかやってる日々だったけど……、都会っ子は違うよね。こんなオシャレっぽいところが日常とかさ」
「そ、そこまで仙台と変わらないと思うけど……」
「はいウソ! 絶対そんなこと思ってないよね!?」
 これだから都会っ子は、とどうあっても絡んでくる及川に苦笑いを浮かべつつも、キョロキョロと楽しそうな及川を見て胸が温かくなる。自分の故郷を及川が楽しんでくれているのはやはり嬉しい。
「及川くん、どこか行きたいところある?」
 買い物とか、と訊いてみれば及川は「んー」と逡巡する様子を見せつつ携帯を取りだして時間を確認していた。
「7時前の新幹線に乗りたいから、あんま時間ないし……」
 呟きつつ及川は何か閃いたのか「あ!」とパッと明るい顔をした。
「そうだ観覧車乗りたい、観覧車乗ろ!」
 お台場って言ったらソレだよね、と屈託なく笑った及川には頷いた。パレットタウンの大観覧車の事を言っているのだろう。お台場のトレードマークでもある。
 そのまま眼前の国際展示場正門駅からゆりかもめに乗って一駅。パレットタウンへと向かう。
 及川はカップルっぽいイベントで機嫌が良いのか並んでいる間にさえ鼻歌を漏らしており、も知り合いに会わないだろう安心感から周囲の目線を忘れて笑った。
 搭乗前の記念撮影を終え、案内されるままにゴンドラに乗って席に着く。円形シートなためそのまま並んで腰をおろして、登っていくゴンドラから外の風景を眺めた。
 及川が遠くを見つめながら目を細める。
「夜だったら夜景が観れたんだろうけどねー」
「日の入りが遅いから、夕焼けが観られないのはちょっと残念だね」
「じゃあ今度は夜に来ようね!」
「え……、う、うん」
 頷きつつは思った。及川も自分も志望校に受かれば、こうして東京でデートを楽しむ事もあるだろう。それは楽しみかな、と外の風景に目をやる及川の横顔を見つめた。
 ゴンドラ内に流れる放送を聞きながら、自然と肩を寄せ合う。少し気恥ずかしい気もしたが、やっぱり心地よくて嬉しい。と頬を緩めていると、ゴンドラ内に流れるアナウンスがもうじき頂上だと知らせてくれた。
 すると及川が重ねていた手に指をキュッと絡めてきて、ドキッとの胸が騒ぐ。
ちゃん……」
 もう片方の及川の大きな手が耳元を掬って、は自然と瞳を閉じた。同時に及川の薄めの唇が自身の唇に触れて、キュ、と絡めた指に力を込める。
 風でゴンドラが少しだけ揺れているのがやけにダイレクトに伝った。温かい心地よさをそのまま静かに堪能していると、ふ、と唇が離れて薄く目を開ければ間近で及川の綺麗な目とかち合う。
 互いに小さく笑って、じゃれるように額を合わせあってからは及川の肩に顔を埋めた。離れがたくてそのまま瞳を閉じる。
「頂上過ぎちゃったね」
「うん……」
「景色、観ないの?」
「もうちょっと、このままがいい」
 キュッと及川のシャツを掴むと、少し及川の身体が撓ったのが伝った。
「ここでデレなの……!?」
 少々狼狽えた声が聞こえて、微かに肩を揺らしたはそのまま及川に身体を預けた。
 二人っきりのゴンドラで及川の体温が心地よくて……、けれども地上まであと数分のアナウンスをきっかけには名残惜しく及川から身体を離す。
ちゃん、せっかくの故郷の景色なのにぜんぜん観てないよね」
「わ、私は見慣れてるからいいの……!」
「まあ及川さんの逞しい身体に抱きついてたい気持ちも分かるけどさ」
 ケラケラ笑う及川に多少の気恥ずかしさも覚えつつ、やはりこうして故郷に2人でいることが嬉しくて勝手に頬が緩んでしまう。
 地上に降りて、何とか新幹線の時間には間に合うかな。と時間を確認していると、及川があろう事か搭乗前に撮られた写真を購入すると言い始めた。
「だって、ちゃんちっとも一緒に撮ってくれないんだもん!」
 写真ならいくらでも自分が撮ると言えばそんな返答が来て、ぐうの音も出なかったは上機嫌で記念フォトを購入した及川と一緒に再びゆりかもめに乗った。
 そうして東京駅に向かう。7時前には余裕を持って着けそうだ。
 はそのまま東京に残るため帰るのは及川のみであるが、は及川を見送るために新幹線乗り場まで共に行った。
ちゃん、いつ帰ってくるの?」
「始業式の一週間前には戻るつもりだけど……」
「そっか、去年と同じだね。――ていうか記念日だよね!」
「え……?」
 急に声を張った及川に、何のだ、と訊こうとする前に彼は拳を握りしめて力強く言った。
「お付き合い一周年! 決まってんじゃん!」
 そういえばそうだっけか、と頭を巡らせる。ああ、そういえば夏の課題を見て欲しいと及川に頼まれて美術室で待ち合わせして、そして色々あったんだっけ。とにわかに頬を染めていると、及川は気にするそぶりもなく笑った。
「どっちみち一日時間があるのって月曜だけだし、どこか行きたいところある?」
 及川の中では8月の最終月曜日、イコール、デートと決定しているらしく、は「んー」と唸った。及川お気に入りのベニーランドは回避したいし、動物園は休館日。
「もうちょっと早かったら海とか行きたかったんだけど……」
 さすがに9月間近の東北の海で海水浴は無理だろうな、と含ませると及川はハッとしたように目を瞬かせた。
「イイね、それ。海は無理だろうけどプール行こ!」
「え……」
「どっちにしても及川さんの肉体美、見放題だよ?」
 二、と笑いながら顔を覗き込まれてはカッと頬を染めた。
「そ、そういうことじゃ……」
 そもそも海水浴は無理でも海なら眺めているだけでも十分だし。と思うも及川はすっかりその気らしく、結局、市内のアミューズメントタイプのプールに行くこととなった。
 そうこうしているうちに及川が乗る予定の新幹線がホームに入るというアナウンスが流れ、二人ともハッとする。
「じゃ、じゃあ、及川くん。部活、頑張ってね」
「うん、ていうか一ヶ月会えないって長いんだけど……」
 言いながら及川はため息を吐きつつそっとの身体を抱き寄せて、は目を見開いたものの「うん」と頷いた。
 付き合う前まではごく普通だったが、いざ付き合ってみると一日会えないだけでとてつもなく長い間会っていないような錯覚を覚えた事もまた事実で。確かに一ヶ月は長いのかもしれない。
「俺、毎日メールするから!」
「う、うん」
「シティボーイにフラつかないでよね!」
「う……うん」
 が、すぐさま面倒なことを言い始めた及川に感傷は一気に吹き飛んでしまう。取りあえず相づちを打てば、彼はこちらが頷いた事に満足したのかそっと身体を離して笑った。
「じゃあ、今日はありがとねちゃん」
「ううん。いい結果になるといいね」
「うん。けど俺、ダメでも頑張って受験する」
 及川にとって今日の大学訪問は確実にプラスになったようでも笑って頷き、手を振って新幹線内に向かう及川をそのまま見送った。
 そうして定刻通りに発車していく新幹線を待ってから踵を返し、祖父母宅へ向かう。
 これから一ヶ月は受験対策漬けである。おそらく他の同級生たちも夏休みはほとんどの時間を受験勉強に充てることになるだろう。
 裏腹にほとんどの時間を部活に取られる及川はやはり一般受験では不利である事に変わらず。できれば推薦で上手くいきますように……と祈りながらは夜の東京で一人電車に揺られた。



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