「しーらとりざわ! しーらとりざわ!」 「いっけーいけいけいけいけ青城! おっせーおせおせおせおせ青城!」 ――新人戦、最終日。12月19日。 最終日は月曜ということもあり観客はいつもより少なかったものの、両チームの応援席は張り合うようにそれぞれの声をぶつけ合っていた。 それでも白鳥沢のチアリーダー部を含めた大応援団の華やかさは圧倒的で、応援に後押しされるように白鳥沢はいつも通り青葉城西を圧倒した。 白鳥沢は牛島が入部した時から牛島をスーパーエースとして牛島中心のチーム作りをしてきた。オマケに白鳥沢は来月の春の高校選抜全国大会を控え最終調整段階だ。新人戦ゆえに当然ながら白鳥沢の3年生は出場していないが、既に3年生が引退して新メンバーになったばかりの青葉城西とはチームとしての完成度が桁違いだった。 及川にとっての大本命、そして「ラストチャンス」は来年のインターハイ予選である。――そう自覚していた及川は準優勝に甘んじるといういつもの結果を普段よりは冷静に受け止めていた。 それでも悔しくないかといったらむろんそうではなく。試合後はいつもの4人で自棄食い大会と反省会に長々と時間を費やし、翌日からはいつものハードワークに戻った。 ――12月22。木曜日。その日は一年で一番夜が長い日だった。 祝日である23日と週末が重なる今年は終業式の日でもあり、及川はいつもより早めに自主練習を切り上げた。 さすがに終業式の今日はは夜までは残らなかったらしく、一人での帰宅だ。 「うー……、お腹空いた」 帰宅したら夕飯が用意してあるとはいえ、仙台駅で食べ物を購入しなかったことを及川は地下鉄に揺られながらやや後悔していた。 手持ち無沙汰で携帯を見やり、なにげなく既に読んでいた花巻からのLINEを開く。何でもローソン新作のシュークリームを痛く気に入ったらしく、写真付きでいかに美味だったかが淡々と綴られており、「んー」と及川は思案した。 いつもより早く帰ってきたし、ちょっと遠回りになるけど行ってみるか。と、最寄り駅についた足を自宅ではなくローソン側へ向けて歩き出す。 すっかり日の暮れた中、白い息を吐きながら辿り着いたローソンでは温かそうな肉まんにうっかり浮気しそうになったが予定通りシュークリームを購入してさっそく頬張ってみた。 ホイップクリームとカスタードの程良い甘さが口に広がって、100円程である程度の満足を得られるのだからやっぱりコンビニは便利だよな。と、花巻に「美味しかったよん」とスタンプ付きで送って自宅への道を歩き出す。 普段通っていない道とはいえ、一応は地元だ。迷う事はないが――とポケットに手を突っ込みながら歩く。時おりすれ違う人々も寒そうにコートを着込んでおり、今夜は冷え込むかな、と登っていく白い息をぼんやりと見ていたその時。 ふいに前方の路地から黒い影がヌッと現れて、及川は眉を寄せた。暗がりではっきり見えないが学ランの学生のようだ。 うわぁ、コートもマフラーもナシだ。と、寒そうな出で立ちにうっかり自分まで鳥肌が立ってしまったと頬を引きつらせる。 案の定、一分もしないうちに前方の学ラン少年は盛大なくしゃみをして、いっそ同情した。が――その学ランの少年が街灯に照らされた瞬間、及川は目を見開いた。 「――と、」 飛雄!? と言いそうになった口を慌てて塞ぐ。――短髪にさらりとした黒髪のその少年は紛れもない影山飛雄だ。及川は口元を引きつらせた。影山とは同じ中学出身なのだから、家もそこそこ近いはずで。別にこの界隈を影山が歩いていてもなんら不自然ではないのだが。 なんで寄りにも寄って……と眉を曲げる及川の脳裏は、このまま分かれ道まで気づかないフリをしよう、と思う心と、話しかけようか、と迷う心に二分された。 影山と話す事など特にないが、監督が影山に推薦を出すと言った以上は影山の進路も気になるし。それに――、と考えている先でまたも影山がくしゃみをして及川は舌打ちをした。そうして自分のマフラーに手をかけるも、どう声をかければいいのか。話をするのは2年ぶりだし……と出した答えは、やっぱり昔のままで接するという事だった。 「おやー? そこにいるのはトビオちゃんかな?」 努めて軽く後ろから声をかけると、ビクッ、と影山の背が露骨に反応したのが分かった。 何だよその反応。とイラッとするも、ゆっくりと振り返った影山は大きく目を見開き、顔を引きつらせるのが見えた。 「……及川、さん……?」 「やっほ。トビオちゃん久しぶり!」 「……ッス」 明るく手を振ってみるも、影山は心底嫌そうに目を逸らし及川はムッと唇を尖らせる。 「なにその態度。久しぶりに先輩に会った態度がソレ?」 2年前までの影山は少なくとも自分が声をかけて嫌そうにすることなどなかったというのに。いったいこの2年で何があったのか。まさかこの鈍い影山ですら自分が邪険にしていたことについに気づいてしまったのだろうか。と自分でも理不尽だと分かっていながらイライラしていると、影山は今度は2連発でくしゃみをして及川はため息を吐いた。 「お前ね、こんな寒い日にそんな格好とか東北の冬ナメてんの?」 そうして自分のしていたマフラーを首から引き抜いて、ふわ、と影山の首にかけてやった。 「……?」 「それしてな。見てるこっちが寒い」 「……。あざっす」 影山は腑に落ちないという顔をしたが、逆らっても無駄だと悟ったのだろう。何より本当に寒かったに違いない。素直に頭を下げて及川も頷くとそのまま影山の隣に並んだ。どの道、帰り道はある程度は同じだ。 無言でそのまま歩いていると、ぼそりと影山が口を開いた。 「……先週末……、新人戦観ました。日曜だけですけど」 「へえ、来てたんだ」 「及川さんのサーブ、相変わらずかっけーです」 「そう。アリガト」 「あのドライブサーブ、どうやってコントロール効かせてんですか!?」 「あのね、飛雄。お前、俺の顔見たらサーブのこと訊かなきゃ死んじゃう病気にでもかかってんの?」 2年前とまったく同じ発展性のない会話に及川は肩を竦めた。けれどもほんの少しだけ、なぜか嬉しいと感じた。なにも変わっていない……と、そう感じたせいかもしれない。 なんだ変わってないじゃん。飛雄はやっぱり飛雄のまま。「コート上の王様」なんかじゃなく「及川さん」「及川さん」ってうるさかったあの12歳の頃となにも変わってない。――と過ぎらせつつ及川は影山に視線を流す。 「飛雄、ウチから推薦来てるよね? 一応試験はあるけど、岩ちゃんでも受かったんだしお前でも受かると思うよ」 「え……」 「ま、教えてはやんないけど練習くらいなら見せてやっても――」 言いかけた及川の言葉を遮るように影山は立ち止まってキョトンとした。暗闇に紛れるような漆黒の瞳が真っ直ぐ及川を見上げてくる。 「俺、推薦断りました。青城には行きません」 え――と及川は大きく目を見開いた。まさか彼が断っているなんて完全に予想外で、直後、反射的に何故かと影山に問い質してしまう。 「俺、白鳥沢に行きます。今の県下ナンバー1は白鳥沢だし」 「なッ……なんで、お前、白鳥沢から推薦来てんの!?」 「いや、来なかったんで……試験受けようかと……」 すると影山が言いづらそうに目線をそらし、おののいていた及川は少しだけホッと息を吐いた。影山に「は」推薦は行かなかったのだと知れて少し余裕も生まれたのかもしれない。 及川は腰に手を当て、呆れたような口振りで言った。 「あのね飛雄、お前の頭で白鳥沢に受かるとでも思ってんの? 白鳥沢って県最難関だよ知ってんの?」 「う、受けてみなきゃ分からないじゃないですか」 「分かるよ。俺、お前がおバカなの知ってるし。で、どうすんのさ。お前どっちみち白鳥沢は落ちるからウチしか選択肢ないじゃん」 口籠もる影山の額を指で弾けば、ぐ、と影山は言葉に詰まって唇を噛んだ。当然だろう。白鳥沢に行きたいという理想はともかく、現実的に彼が試験を突破するのはほぼ無理だ。そんな悪あがきをしたあげくに結局は青葉城西に来る羽目になるのだから最初からそうしとけばいいのに。と肩を竦めていると、影山は背負っていたビニールバッグの持ち手を掴み直しながらこう言った。 「白鳥沢に受かんなかったら……、俺、公立受けるからヘーキです」 「――は? 公立? なにバレー辞めんの?」 「? いや辞めないですし、烏野ってとこですけど」 「烏野……」 言われて及川は眉を寄せた。確かにそんな名前の公立高校が県内にあった気がする。対戦した覚えはないが、確か5年以上前は県内屈指の強豪で強かったという話は聞いたことがある。 「思い出した。今じゃせいぜい県ベスト8ってトコじゃん。お前……そんなにウチが嫌なワケ?」 「? 嫌とかじゃなく、フツーに白鳥沢行きたいです。烏野は……強豪時代の監督が復帰するって聞いたんで、白鳥沢が無理ならそっちで指導受けようと思ったんですけど」 「お前ね、分かってんの? タダでさえ白鳥沢倒さなきゃ上に行けないこの県内で、ベスト4のウチ蹴って公立校って……。意味わかんない」 「けど及川さん、言いましたよね。俺に白鳥沢に行けって」 「言ったよ。お前とウシワカが一緒なら倒す手間省けてちょうどいいじゃん。でもお前は――」 ”及川さんいるなら、俺も青城考えます”って言っただろ。とは及川は言い返せなかった。 あんなに及川さん及川さんって追いかけてきてたくせに。あれは嘘だったのかよ。との言葉を飲み込んで及川は影山を見下ろす。 「お前、ウチに来るのが怖いの? 金田一たちとまた一緒にやる自信ないんだろ、”王様”だもんねお前」 そうして言った言葉は及川の予想を遙かに超えた力を持っていたのか、影山の顔が強ばった。そこで及川は悟る。あの夏の「最悪の試合」が影山の心に今なおトゲとなって残っていることを、だ。少しだけ及川は口の端を上げた。 「それとも、王様にとっては青葉城西程度じゃあ不足だとお思いなのかな?」 「それ……、関係ねーです。青城を不足とも思ってねーし、別にアイツらとまた同じチームになったって……俺はやれる」 「へぇ……たったらウチに来なよ。公立受験なんて逃げに走んないでサ」 「逃げてねーです」 「ウソだね」 「ウソじゃないです。及川さんを越えて県一番のセッターになるのは俺ですから」 「――は?」 「アンタがいるから……、俺は青城には行かない」 ピク、と及川の頬が撓り、及川は今度は本気で眉を釣り上げコメカミに青筋を立てた。 「あいっかわらずクソ生意気だねお前! あんなみっともない試合したセッターが俺を越える? 冗談だろ、面白くもない」 「――ッ」 「まあやりたいならやってみれば? 無理に決まってるけどね。だいたいお前が言ったんだろうが、俺がいるから青城に来るってサ。100%違うよね言ってること」 「じゃあ俺が青城行けば及川さんサーブ教えてくれるんですか?」 「教えねーよクソガキ!」 「なら意味ないです」 「ああそう。お前が白鳥沢に受かったら、怪童・ウシワカも天才セッターも俺がまとめてぶっ潰してやるからせいぜい受験勉強に励むんだね!」 「及か――」 「じゃあ俺あっちだから!」 売り言葉に買い言葉とはいえ、これ以上話していると自分を制御できなくなる気がして及川は無理やり路地を曲がろうとした。が。 「及川さん! あの、マフラー……」 「やるよ! ソレもういらないし! 優しい及川さんに感謝して風邪ひく前にさっさと帰れ、バーカ!」 呼び止められて捨て台詞を吐き、影山に背を向ける。律儀に彼が頭を下げた気配が伝って、チッ、と舌打ちをしながら及川は路地を駆けた。 ――ああ、バカだ。と思う。やり直しなんて出来るはずがなかったのに。 ――今度こそ良い先輩に、なんて一瞬でも思った自分が心底バカらしい。 分かっていたことではないか。影山は所詮はただのバレーバカ。心の底から自分を追って、なんて殊勝なわけがないのだ。彼にとって最もプラスになるだろう白鳥沢という進路を何のためらいもなく選ぶし、サーブも教えてくれない自分には価値がないとあっさり切り捨てる。最初からバレー以外のなにも見えていないのだ。 そんなんだから、あんな結果になったのに――。と、あの胸の悪くなるような試合を思い出して拳を握りしめる。 ああもう。と及川は勢い任せでポケットから携帯を取りだした。そうしてしばし躊躇する。岩泉にこんなことを話せるわけがないし――と思う脳裏に過ぎったのは相も変わらずの姿で、グ、と眉を寄せた。 影山が白鳥沢を受けると言っている、なんてに告げたところで「さすが影山くんだね。白鳥沢って強豪だもんね」等々こちらの期待とは100%違う言葉をくれるに違いない。 ――分かっているのに。ああもう、本当に厄介。と及川はそのまま携帯を耳元にあてた。 「ちゃん? ごめん、今から少し時間ある……?」 突然の自分からの電話に、は酷く驚いた様子を見せた。けれども、話があるから少し会って欲しい、と訴えれば自分の様子がおかしいと悟ったのだろう。頷いてくれ、及川はそのまま真っ直ぐの家を目指した。 何度も通った住宅街を抜け、見えてきた一戸建てに逸る気持ちで駆け寄る。すればこちらの姿が見えていたのか、コートを着込んだが門を開けたのが目に映った。 「及川くん……」 「ごめん、ちゃん。急に来ちゃって」 「ううん……大丈夫だけど……。なにかあった?」 うっすら家の明かりに照らされたの表情はやけに心配げだ。けれども及川には笑いかける力はなく、一度キュッと唇を結んでから少し瞳に影を落とした。 「飛雄にさ、会ったんだ」 「え……」 「あいつ、白鳥沢受けるんだって。無理に決まってんのに……」 そうして喋れば勝手に顔が歪んでくる。胸までじんわり熱くなってきて、及川は絶えきれずに腕を伸ばしてそばに歩み寄ってくれたの身体を強く抱きしめた。 「仮に白鳥沢に落ちても、青城には来ないんだってさ。なに言ってんだろうねアイツ。ちゃん覚えてる? 飛雄のヤツ、2年前は俺がいるなら青城に来るって言ったのに……!」 声が震えるのを止められない。の身体が少し撓った。きっと彼女は覚えているだろう。 2年前の冬――確かに彼は自分を見据えて言ったのだ。無邪気に、無神経にも、白鳥沢に行かないんですか? と訊いてきた。そして行くわけがないと答えた自分に告げた。自分がいるなら青城に行くことも考える、と。 覚えてるけど……、とは少しこちらの胸を押し返しながら戸惑いつつも言った。 「白鳥沢は強豪だから……、影山くんが白鳥沢を目指すのはごく自然なことなんじゃないかな」 案の定な言葉に「そうだけどさ!」と及川は声を強める。 「てか、そう言うと思ってたけどさ。ああもう、なんで天才ってああなんだろう。こっちの気持ちなんてお構いなし……! いつもいつも、勝手に真っ直ぐ進んで行ってさぁ……!」 「及川くん……」 飛来する感情がゴチャゴチャで、及川は自分自身でも自分の気持ちが上手く制御できていないのを痛いほど感じていた。 ただ、改めて感じたのだ。――天才、っていつもこうだよな、と何度も何度も確認したことを改めて思い知らされた。 『及川さん』 『及川さん』 こっちのことを鬱陶しいくらい気にかけるのに、その実、本当はこっちの事なんてお構いなしに突き進んでいく。 こちらを苛立たせるだけ苛立たせて、引っかき回すだけの存在。――だって、と及川はの頬を包み込むようにして両手で触れた。 「飛雄になんか、負けてやんない……! 及川さんのところに来ればよかった、ってあとで後悔すればいいんだよ飛雄なんか」 「及川くん……」 「ほんっと、かわいくない……」 ――言いたいことがいっぱいあったのに。と言葉を飲み込んで及川は無理やりに考えた。これで良かったではないか、と。これでもう影山は本当に自分の手を離れて別の場所へ行く。後輩ではなく敵としていずれ自分の前に立つだろう。 それで良いのだ。あの才能を持てあまして、勝手に潰れればいい。天才なんて大嫌いだ。あの神に愛された手から放たれるトスを持てあまして……そして絶望すればいい。 「……残念、だね……」 「残念じゃない!」 「でも……」 「でも?」 案ずるような顔をしたは逡巡するそぶりを見せ、小さく首を振るった。 「この先……影山くんと同じチームになることだってあるかもしれないし」 「ぜったいないしぜったいヤダ」 「影山くん、強くなってるだろうし、この先影山くんと試合するのだって楽しいよきっと」 「そりゃ楽しいよ俺がぶっ潰すからね!」 そうしてそんなやりとりを繰り返しているとはやや呆れたようにほんの少しだけ肩を竦めた。――及川はどこかホッとした。 岩泉だったらこちらをボロクソにけなしつつも100%自分の味方でいてくれるという確信がある。 大多数の女の子だったらきっと無条件に優しく慰めてくれる。 けれどもはそうではない。――影山の味方、とは思っていないが、はこうだ。大キライな天才でちっとも自分の思うような答えなんてくれないのに。そんな彼女が好きでたまらないのだからどうしようもない、と及川は自嘲しつつもう一度ギュッとを抱きしめた。 ありがと。と少しは気が晴れたらしい及川を見送って、は空を仰いだ。錯覚だろうか。冬至の今日はいつもより夜の闇が深い気がして、ブルッと身震いした。 及川と影山がどんな会話を交わしたかは知りようもない。が、及川が昔から影山の才能に畏怖して惹きつけられていたのは知っている。及川が何より欲しがっていた神に愛された手を持つ少年・影山飛雄。 その彼は及川を慕って、追って――噛み合わない思いは2人をきっと普通の先輩と後輩という関係に留めなかっただろう。それでも及川は影山をずっと気にかけていたし、「コート上の王様」と異名を付けられた影山の試合を見て、「後輩達にあんな試合は二度とさせない」と言っていた。 そう、及川は影山のことをいつも頭から離せない。けれども影山はそうではなかったのだろうか……? ――なんで天才ってああなんだろう ――いつもいつも、勝手に真っ直ぐ進んで言ってさぁ あの言葉、少しだけドキリとした。 不意にとあるフレーズが過ぎった。ちょうど一年前の冬、及川と初めて2人で出かけたときに及川が踊った曲。 華やかで、なんて華やかな場所が似合う人なのだろうと思った。でも。 ――この世には二種類の人間しかいない。 ――そっちで見てないで、ついてきて、ちゃんと力を見せてよ。 舞台に立っていたのは及川ではなく――と考えてしまっては眉を寄せた。「天才」は望んでいるのだ。彼にこちら側に来て欲しい、と。 覚悟を決めて欲しい、とそう望んでいるのは自分もそうなのかもしれない。及川には及川の心から望む道を行って欲しい。 だって誰よりも何よりも及川がバレーだけに生きてきたのを知っているのだから。とはそっと瞳を閉じた。 |