スカーレット・ローズ 例えるなら月夜の水面のように静寂で透明な白だった。 風に乗って優しく鼻を掠めたのはバラの匂い──その白がひどく鮮明で、まるで時間さえも止まったようで。 けれども芽生えた感情は例えるならば正反対の赤。 抗えない自身の性質は、この身に流れる血のせいだとどこかで感じた──。 色とりどりのバラが香るここ神聖ブリタニア帝国の皇宮庭園で一人の青年──シュナイゼル・エル・ブリタニアはとある方角をぼんやりと眺めていた。 「オデュッセウス兄上、シュナイゼル兄上!」 ふわりと舞う風と共に明るい声が伝わり、シュナイゼルは優雅な仕草で振り返る。 「やあ、クロヴィス」 先に異母兄であるオデュッセウスがクロヴィス──異母弟に声をかけ、シュナイゼルもそれに続いた。 「嬉しそうだね、何かあったのかい?」 長年耐え殺してきた赤の感情。それをまさに目の前にいるクロヴィスがこじ開けることになるとは知らずにシュナイゼルが微笑みかければ、クロヴィスは持ち前の濃い金髪を揺らしてスケッチブックを二人の前に差し出した。 「近ごろ私室に引きこもりがちになっていたのですが、やっと構想がまとまりまして」 クロヴィスは絵画の才ある芸術肌だ。もっぱらの趣味は絵を描くことであり、この庭園のさまざまな木花や数多の兄妹達の様子を年中描いては皇宮の至る所に飾っていた。 「今度は誰かな? コーネリアやユフィかい?」 穏和さを体現したような性質だと見て取れるオデュッセウスが顎髭を湛えた穏やかな表情でクロヴィスに語りかければ、クロヴィスは少しばかり戯れの色を瞳に宿して首を横に振るった。 「実は、ライブラの離宮に一度忍び入りまして」 クロヴィスの話に耳を傾けていた二人は微かに目を見開く。わずかな沈黙の先に口を開いたのはオデュッセウスの方だ。 「ライブラ……第四后妃様の宮だね。すると、の所かい?」 「ええ、は私と一歳も違わない、最も歳の近い妹ですから思い入れもありまして。とは言え、今だ言葉を交わしたことはありませんが」 驚いたな、と息を吐くオデュッセウスにクロヴィスは上機嫌で手にしていたスケッチブックをパラパラと捲った。 「兄上はとはお話になったことが?」 「たまにだけど、様子を見に行くようにしているからね。いつも顔色が悪くて心配だけど、大人しい良い子だよ」 クロヴィスの持つスケッチブックには、ラフに描かれたスケッチ画にパステルで軽く色がつけられた一人の女性が描かれていた。 色素の薄そうな長い髪に、青い瞳。薄いパステルの色合いがどこか儚そうな印象を見るものに与える。 それに何より。 「白バラ……」 どこか色のない、抑えたような声でシュナイゼルは呟いた。 クロヴィスのイメージだったのだろうか。絵には白いバラが共に添えられ描かれており、シュナイゼルは自身に眠る記憶と衝動を呼び起こされるようで強く手を握りしめた。 酷く喉の渇きを覚えていると、そんなことは知る由もないだろうクロヴィスは満足げに自作を披露しながら誇らしげに言う。 「我が妹ながら、美しい姫でしたね。もっとも、私の姉上や妹たちはみな美しいのですが」 はは、とオデュッセウスが穏やかに笑う横で、シュナイゼルは小さく首を振るった。瞳には憂いの色を浮かべる。 「……か。月夜の水面──と第四后妃様が讃えられていたことは知っているかい?」 「ええ」 「どこか儚げで、でも大変お美しい方だったからも似たのかな。しかし……后妃様は病弱で、今の離宮に移られるほどにお加減が悪くなられたのは確か亡くなったマリアンヌ后妃が嫁がれてきたころだったか」 その言葉にクロヴィスとオデュッセウスの顔が曇った。しかしシュナイゼルは憂いた瞳のまま皇宮の庭園からライブラの離宮のある方角をそっと眺めて呟いた。 「お気の毒に……」 ライブラの離宮──、というのはブリタニア皇宮の傍近くに設けられたごく小さな宮である。 この宮にはブリタニア皇帝の第四位に位置する后妃とその一人娘である第三皇女、・ル・ブリタニアが静かに暮らしていた。 后妃がなぜ皇宮ではなく離宮に身を寄せているのか──、その理由は彼女の弱体体質にあった。皇女を産み落としてからは一層体調がすぐれず、皇女が物心つく前だというのにあわやみまかるのではないかと案じられるほどに寝たきりの生活と相成った后妃は静養のために離宮へと移ったのだ。 そんな母から生まれた皇女もまた身体虚弱で、この離宮に引き籠もりがちな生活となっている。ゆえに公の場に顔を出すこともほとんどなく、他の兄妹ともほとんど親交のないまま気づけば二十年ほどが過ぎていた。 第四后妃は儚げな印象の美しい人だった。ともすれば銀のようなプラチナ・ブロンドを讃え、まだ赤子だったを抱いていた姿を幼少の時分に見た記憶がうっすらある──と、皇宮内の私室に戻ったシュナイゼルはベッドの端に腰を下ろしてしばし考え込んだ。 ブリタニアの国是は一言で言ってしまえば、弱肉強食だ。他の国を喰らい、絶対的な支配者として君臨しブリタニア人以外は人ではないという語り尽くされたような選民主義を尾ひれも隠さず打ち出している。その争いの系譜は皇宮内においても例外ではなく、兄弟姉妹は次期王位継承を巡って争ってゆかねばならない。 妃たちもまた、同じように皇帝の寵愛を巡り争ってゆかねばならないだろう。 そんな中──例外のように現皇帝に格別愛された后妃がいた。 そして、時期を同じくして脱落した后妃もいた。──現在、ライブラの離宮に隔離され、ともすれば存在すら忘れ去られているような第四后妃だ。 そう、まるで愛にうち破れたように──と考えて眉を顰めるシュナイゼルは何もブリタニアの国是を否定しているわけではない。欲しいものを力を持って勝ち取ることはどういう形であれ自身もやってきたことであるし、これからもそうしていくだろう。 だが、手にできないものもある。 それは第四后妃が手にできず、今も、手にできずに苦しんでいるもの。 そんな彼女の落とし子である異母妹に、人知れずどれほどの激情をぶつけてきたことか。 君なら分かるだろう? 君は私と同類。そうだろう──数多の兄弟の中、たった一人、君だけが私の思いを理解できるはずだ。 実に勝手なシンパシーだ。 けれども、きっとそれだけではない──とシュナイゼルは昼間に見たクロヴィスの絵を脳裏に過ぎらせた。 白いバラ──、どこまでも透明なあの色を赤く染めたいと自身に走った衝動はどれほど時が経っても忘れられない。 しかし抑えてはきた。忘れられなくとも抑えてきたというのに、まるでこうも脆いのかと自身に呆れるほど不意打ち気味にクロヴィスによってあっさりと柵を壊されてしまった。 品行方正と名高い第二皇子。優秀で優しい兄であり弟。周囲の望みのままに理想の人間の仮面を被り続けてきたというのに。どれほど虚しくても、続けてきたというのに。結局自分は弱肉強食を国是とする皇帝の血を継ぐ者だと、流れる血が──ひどく残酷な本性をも併せ持つことを訴えかけている。 シュナイゼルはどこか自嘲気味に呟いた。 「私の本質、か……」 翌日──ぱたん、と母の寝室の扉を閉め、ブリタニアの第三皇女──・ル・ブリタニアは小さなため息を一つ零していた。 あまり陽の元に晒されたことのない、ともすれば不気味なほど青白い肌に室内用のドレスを身に纏った彼女は己のプラチナ・ブロンドの髪に手をやる。 「母上……」 相変わらず寝たきりの母。この離宮で静養生活を送っていても一向に病状はよくならない。何度もこの地を離れ、実家に下がってはと進言してみた。それほど自分は皇族というものに執着心もないし、いっそ皇位継承権を返上してただ人になったていい。なのに──母は首を縦に振ろうとはしない。 理由は、分かっている。そして母がこうも弱り切った理由も分かっている──、と碧眼を伏せたの耳に、この静かな宮には滅多に起こることのない騒がしい音が届いた。 警備の兵の声。そして、やたらエコーを伴った複数の足音だ。 「何ごと……?」 は顔を顰めるも、物音のする方にゆっくり足を進めた。こんな短い距離でさえ走る体力もない。響くエコーとは裏腹にゆったりなの歩みが止んだのは、突き当たりから姿を現した人物を目に留めてからだった。 「あ……」 思わず手を口元に持っていって目を瞠ってしまう。と鉢合わせする形で姿を現したのは、長身に煌びやかな上着を纏った、どこか憂いを帯びたような表情をした青年だった。 「あ……シュナイゼル……兄、さま……?」 紛れもない、眼前にいたのは帝国の第二皇子であり、にとっては異母兄にあたるシュナイゼル・エル・ブリタニアだった。 だが、生まれてこのかたこの兄に目通りするなどなかったというのに。何なのか──、身構えるように一歩後ずさったとは反対に、シュナイゼルはふ、と柔らかい笑みを浮かべた。 「私を見知っていてくれたとは光栄だね。こうして話をするのは初めてだというのに」 笑みそのままに穏やかさと柔らかさを湛えた、心地の良い声だった。 「あ、はい……あの……」 はなおも構えて固い声を出したが、シュナイゼルはあくまで穏やかに微笑んでいる。それがどこか不気味で、皇帝からの勅でも言い渡しに来たのかと勘ぐってしまったはか細い声で何か用かと訊いた。すればシュナイゼルは心外そうに苦笑いしてに歩み寄る。 「兄が妹の機嫌を伺いにくるのに、理由なんているのかい?」 「……いえ」 あまりに突然で、とは目を伏せた。 本当に、一体何の用だというのだろう? ここへ自分の身を案じて機嫌を伺いに来てくれるのは長兄のオデュッセウス・ウ・ブリタニアくらいのものだった。ゆえに、オデュッセウス以外の人間は兄妹という気さえしない。 もっとも母があの状態で面会を断ることも多かったのも理由の一つではあるが──と目を伏せるの耳にシュナイゼルの柔らかな声が響いた。 「后妃様に謁見は叶うかな?」 「とても、お話できるような状態ではありませんけども……」 言葉を濁すにせめて見舞いだけでもとシュナイゼルは促した。は目を伏せながらも少し間を置いたのち小さく頷く。そして母の寝室へとシュナイゼルを誘導するとそっと寝室の扉を開いた。 奥のベッドには后妃が横になっており、シュナイゼルはそっとベッドの方へ近付くと片膝をついて臣下の礼をとる。 「お久しぶりです、后妃様。おかげんはいかがですか?」 すると天井に向けられていた后妃の視線がゆっくりとシュナイゼルの方へ向けられ、彼女はこんな言葉を口にした。 「陛下……? まあ、来てくださいましたの……?」 妙に上擦った嬉しさの混じったような声にシュナイゼルの眉が反応する。傍で苦い顔をしていたはいたたまれないように自身の母にそっと告げた。 「違います、母上。陛下ではありません、シュナイゼル兄さまですよ」 焦点の定まっていなかった后妃の瞳がどこか落ち着きを取り戻し、ああ、と力なく息が吐かれる。 「殿下……、お身大きくなられたこと」 そうして弱く言うと、后妃の瞳は再び天井に向けられ、そっと閉じられた。 はそんな母親の様子を見て、そっと眉を寄せた。 「お立ち下さい、兄上」 言ってが母の寝台に背を向けると、シュナイゼルも立ち上がっての後に続く。 そのまま二人は午後の日差しが少しばかり厳しいベランダへと出て話をした。 「申し訳ありません、母はずっとあの調子で……。ですから、今まで目通りをやんわりと拒んでいたのですが」 「いや、気にしてないよ。しかし、なぜ私を陛下だと思ったのだろうね、后妃様は」 陽に透けるシュナイゼルの金髪は透き通るほどに滑らかで、その兄の憂いたような顔を見上げながらは胸に手をあてた。 「兄上は、おそらく父上のお若い時分に似ておられるのだと思います。それで……母もあんなことを」 「私が父上に? そうかな、そんな風に思ったことはないんだけどね」 シュナイゼルは首を傾げるもは複雑そうな表情を崩さない。そのの心情はシュナイゼルには読めなかったが、それより、と切り返しながら持ち前の気品を湛えた柔和な笑みを浮かべた。 「君こそ后妃様のお若かった頃にそっくりだ。いやそれ以上に……これほど美しくなっていたとは、驚いたよ」 それはあくまで僅かばかり冗談まじりに、妹用に言った言葉であった。現にこのような甘言を吐けば妹たちは恥じらいながらも笑ってくれた。しかしは心底不審そうな顔を浮かべ、一瞬の後には瞳を逸らして目を伏せていた。 「そんなことよりも、兄上はなぜここにいらしたのですか?」 そんなことよりも、と切り捨てられたことでシュナイゼルは自身の想定していた彼女の反応予想から大幅に外れ、目を見開いた。 「あ、ああ……さっきも言ったけど、妹の機嫌を伺いに来るのに理由なんて──」 「先日、クロヴィス兄さまがこの宮に忍び入られたそうですね。私たちの身辺調査でもされているのですか……宰相閣下?」 シュナイゼルが取り繕うよりも先に、は更にシュナイゼルの予想外の言葉を口にした。 宰相──、このブリタニアにおけるシュナイゼルの公務肩書きである。 兄ではなく宰相と呼んだということは、は私的な訪問ではなく公的なものだと考えているのだろう──とシュナイゼルは思った。 おまけに自身の趣味のためにライブラの離宮に妹監察に行ったクロヴィスの行動を大いに勘違いしている。 しかしながら、彼女にはこちらを疑うだけの理由があるのだろう。それもそうだ。普段は訪れない兄が時期を置かずに二人も訪れれば何かあったのかと思うのは無理もない。自分たちは決して仲が良いだけの兄弟ではないのだ。血で血を洗い、皇位継承権を奪う合う敵同士でもある。 しばしシュナイゼルが考え込んでいると、ふとの足元がふらついた。そのまま彼女はベランダの縁に手をついて身体を支え、驚いたシュナイゼルは手を引いての身体を支えてやった。 「大丈夫かい?」 「へ、平気です。ちょっと日差しにやられただけで……もう、大丈夫なんです、身体は」 俯いていたは顔を上げ、か細い声で必死に訴えた。シュナイゼルが間近で見た彼女の肌はやはり病的なまでに白く、支えた肩も折れそうなほどにか細く、シュナイゼルの背にぞくりと悪寒にも似た寒気が走った。 月夜の水面──と称された彼女の母に本当によく似ている。例えようのない透明感と儚さが、シュナイゼルの庇護欲をそそるより先に劣情を煽ってごくりを喉を鳴らした。遠く、遙か昔に覚えた懐かしい感情だ。 なかなか手を離さないシュナイゼルを不信に思ったのかは身をよじる。しかしシュナイゼルはを支えていた腕に力を込めた。 「兄上……?」 「安心したよ、。君はもう外に出ても平気なんだね?」 耳に唇を寄せて囁けば、ピクリとの身体が反応したのがシュナイゼルに伝った。そのままそっとを解放したシュナイゼルは緩やかに微笑む。 頭の回転は速いほうだと自負しているシュナイゼルは、必死に彼女が「身体はもう大丈夫」と強調した意味を悟ってしまったのだ。 「ならば次の金曜の夜に、私の部屋へ来てもらえるかな?」 瞬間、は目を瞠った。何を言っているんだと言い返される前にシュナイゼルは更に畳みかける。 「ああ、これはお願いじゃないよ。命令でもないけれど……拒むのなら、君の一番大事な物を替わりにもらおうかな」 シュナイゼルの言葉に、ただでさえ白いの顔は更にサーッと青ざめていった。 あくまでシュナイゼルはカマをかけただけだ。先程から宰相として公的に自分たちに不利な言い分を告げに来たのかと警戒していたの誤解を上手く利用したにすぎない。あとはもう、上手くが乗ってくればシュナイゼルの勝ちは決まったも同然だった。 「私の一番大事な物……」 胸の前で握りしめられたの手は小刻みに震えている。 「私の皇位継承権ですか、兄上。こんな……役に立たない皇女は要らないと」 瞳を伏せたの長い睫毛を見下ろしながら、ふ、とシュナイゼルは笑みを零した。おおよその予想はできていたが、彼女が警戒していた理由はそれだったのだろう。 「そうだね、残念だけど──」 「待ってください! 皇籍の返上だけはできません」 シュナイゼルの言葉を掻き消すように言い放ったはシュナイゼルを見上げ、頬を震わせていた。 「──交渉成立、ということかな?」 シュナイゼルの薄い金髪に日差しがかかり、陽だまりの中で微笑む彼の姿はまるで絵画から抜け出てきたように優美で、こんな状況でなければ誰もが見惚れただろう。 だが、は今も眼前の兄に突きつけられた要求が信じられずにしばし唇を結んでその場に立ちつくすしかなかった。 皇位継承権を失うということは、皇籍を剥奪されるということ。つまり、ただ人になり臣下に下るということだ。 そうすればもう、このブリタニア皇宮にはいられなくなる。 個人として臣下に下ることにさしたる抵抗もなかったが、問題は母だ。皇女を生んだ事実に縋り、皇女を生んだからこそそれなりに高い位の后妃であり続け離宮を与えられている母は、がただ人となれば絶望するだろう。 今でも皇帝を愛し、もう一度皇帝の寵愛を受ける日が来ることだけを夢見てこの地にしがみついている母親に追い打ちをかけるようなことだけはにはできなかった。 自分たちが他の皇族から疎まれていることは知っている。歴史上、多々例のあるようにいつ廃嫡されるとも限らないと怯え暮らしてもきた。 母は寝たきり、自分の身体も決して丈夫とは言えない身。廃するに値する理由はいくらでも作れる。ゆえに今日こそ宰相である兄自ら終わりを告げに来たのかと思った。 兄に、あのシュナイゼルに出来ないことはないに等しい。 いくら離宮暮らしをしているとは言え、第二皇子であるシュナイゼルがどんな立場かはにも分かっている。実質、彼にできないことといえば玉座に座ることくらいであり、ほぼ全てのことは彼の意のままになるだろう。こちらの皇位を奪うなど脅しでも何でもなく容易いことだ。 しかし──まさかそれを脅しにあのような要求をされるとは、夢にも思わなかったことだ。 兄が──シュナイゼルがどういう人間かは、よくは知らない。賢く人当たりの良い人物だと人伝に聞いてはいたしメディアを通じて観ることはしていたが、まともに話したのは今日が初めてだ。 兄、というほど彼を身近に感じる生活を送ってきたわけではない。 けれども、それでもシュナイゼルは自分の兄であり、自分は彼にとっては妹なのだ。 なのに──、部屋に来い、という要求は、どう考えてみても妹にすべきものではないはず。最悪の想像のみが脳裏を駆け巡る。 既にシュナイゼルの手に堕ちている自分をどこかで悟りながら、はこれから起こりうることへの恐怖で震える自身の身体をきつく抱きしめた。 |