□ night mare / 渋沢克朗編 □
世の中に不思議なことはたくさんあるけれど。




なんとなく「そうなのかな」って、思ってはいた。
初めは、彼の声をただぼんやりと遠くで聞いていただけで。
そのうちに、そっとそれに耳をすますようになって。
いつしか、語る言葉のひとつひとつを拾い集めていた。
あなたは、たくさんのことを私に語る。
そして、ただひとつのことを私に刻む。
明確なカタチを持たない、不確かで、でも揺るがない感情。

いつもくれるその気持ちの名前、あなたは知ってる?



■  祭 文  ■


いくつかある校舎のうち、北棟と呼ばれるここは主に特別教室から成る。
そのため、放課後は文科系のクラブの部室が点在するだけとなり、
部外者の侵入をたやすく受け入れないような空気を作り上げる。
そのためか、廊下で友人を待ったり、話し込んだりしている生徒を
ほとんど北棟では見かけない。
誰もいなくなったような妙な静けさに支配される。 ・・・いつも。

グラウンドで練習する運動部の声だけが、わずかに聞こえる。


。 それが、私の名前。
武蔵森学園中等部 3年、15歳。 演劇部に所属。
部活の日誌は部長ではなく、副部長の私がつけることになっているため、
こうやって一人残り、どーでも良いようなミーティングで終始した
本日の部活動の内容を、いかに小難しく長ったらしく表現できるか、
あーでもない、こーでもない、と、アタマを悩ませつつ綴っているのだ。
やっと書き終えて腕時計を見ると、思いの外、遅い時間。
そろそろ帰らないとやばいかも。
そう思って、立ち上がろうとしたその時。


突然、声をかけられて、びっくりした。
「あ・・・
彼は渋沢克朗。 我が武蔵森学園の有名人の一人。
クラスメイトでもないし、接点もないのに不思議と話す機会があり、親しくなった。
私の方は、かなり不純な動機から、そのことを単純に喜んでいる。
「もう遅いよ。 送るから、一緒に帰ろう」
「う、うん。  、部活・・・じゃないよね・・・?」

ホントは知ってる、なぜ残ってたか。
でも本人の口から聞きたい。 確かめたい。

「うん、部活は引退したからね。 今日はちょっと先生に呼ばれて・・・」
「進路のこと?」
途中で言葉を遮った私を、少し驚いた顔で見た。
それで、本当のことだとわかる。
、外部進学するんでしょう?」
少し声が小さくなる。
武蔵森じゃない、私とは違う高校へ、行く。

今、私はどんな顔をしてる?


その声をいつまで聞くことができるの。

その声でいつまで私の名前を呼んでくれるの。

そんなこと、言える間柄であるわけでもないのにね。

「ゴメン、余計なこと聞いちゃったね」
声が震えないように、あの人に気づかれないように。
・・・言える訳ないから。
『あなたから目が離せない』、なんて。


に隠していた訳じゃないんだ」
ちょっと困った顔をして笑う。


豆大福が好きで、サバの煮込みが好きで、ゴハンには日本茶じゃなくちゃダメで。
でも、そんなことはたいしたことじゃない。


「まだちゃんと決めてないんだ」


私は知っているから。


「確かに、最初は外部進学するつもりだった」


例えば、あなたが菊地桃子のファンだってこと。


「自分のためには、それが一番良いと思ったんだ」


自転車のことを「じでんしゃ」って言うこと。


「でも、迷ってる」


CDアルバムを貸してくれた時、無意識に「LP」って口走ってしまったこと。


「『余計なこと』じゃないんだよ?」


ハンガーのことを「えもんかけ」って言いかけたこと。





ずっと、あなたのことを考えているから。

この気持ちに、あなたが名前をつけて。


、教えて・・・」


あなたはいつものように優しく笑う。
でも、それは他の誰にも向けられない、今までとは違う笑顔。



いの一番 に教えるよ」



・・・そんなあなたのこと、ずっと側で見ていたいの、私。





−−end−−2001.05.07.−−


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ありがとうございましたvv

「reasonless」のアマネさまから強奪頂きましたv
あぁぁ渋キャプ!ラブ!!
ええ、もうそんな貴方をずっと見ていますとも私!一生ついていきますvv(迷惑)
シンプルな文章の中にギュッとつまったキャプらしさに脱帽です(><)
こんな文章書けて羨ましいです〜(敬)見習え、私(^^;

ホントにありがとうございました〜v



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