永遠の孤独に            
         
 

雲の流れが速い空には冷たい欠けた月。その屋敷は、暗黒の森の中に・・・。
イルミは薄暗い私室の石の壁に背もたれ、ぼんやりとしていた。
彼の周りには、蔵書が積み上げられている。その内の何冊かは引きちぎられ、投
げ捨てられている。
イルミの漆黒の眼は何故か、虚ろだった。
それは、家族にさえ見せた事のない瞳だ。宙を見ているようで、実は何もその瞳
には映されてはいないのだ。
兄弟の事を憶っていた。自己愛の強いミルキ、いつも寂し気なカルト、そして自
分勝手なキルア・・・。
この中で、イルミが一番、手を掛けて育てたのはキルアだ。
キルアのまだ磨かれてはいないが飛び抜けた資質。父と同じ白い銀の髪と空色の
透明な瞳。
どんなに焦がれても、それは生まれ持ったもので、闇の色をした髪と目の自分に
は、決して手に入ることはない。
キルアが生まれるまで、この家の後継者は長男のイルミのはずであった。だが、
まだ幼いキルアの才能を見抜いて、祖父と父は即座に弟を次代の跡継ぎに決めた。
それは、いい。しかたないのだから。
「お兄様。入ってもよろしいかしら、、?」
鉄の扉が重い軋みを上げて、顔を覗かせたのは、妹のカルトだった。彼女がいつ
も着ている黒い振り袖、それは妹の白い顔と漆黒の髪に似合っている。
「・・ああ、自由にしなよ」
イルミは、カルトに答えた。相変わらず、瞳は空を彷徨わせたままで・・。
カルトは、行儀良く長兄の隣に座った。兄と同じ黒い瞳でイルミを見詰める。
「お兄様・・・・どうなさったの」
妹の眸は潤んでいた。イルミが、やっとカルトの方に視線を向けた。
「・・何がだい・・・?」
イルミが訊ねた。
カルトは黙っている。
カルトは、立ち上がって壁棚の酒瓶を手にすると、床に投げ付け始めた。静寂な
室内に硝子の瓶の砕け散る音だけが響いた。
イルミは何も言わず、それを眺めている。
カルトは全ての瓶を割ってしまうと、兄の胸に抱きついた。妹は、微かに嗚咽し
ていた。
「どうしたの?カルト」
イルミが訊いた。
「近頃のお兄様は飲まれ過ぎよ。・・キル兄様が出て行ったことも、お兄様のせ
いじゃない・・・・」
イルミはカルトの髪を撫でた。妹は、自分と同じ闇色の髪、そしてその瞳。
末弟のキルアが家族の期待に反発して家を出てから、もう、どれくらい経っただ
ろうか。

イルミは思い出していた。
もう何年か昔のことだ。
広い庭内の中にある渓谷の小川で兄弟たちが遊んでいたのを眺めていたことを。
余り外に出たがらない次弟のミルキは木陰で眠っていて、水が嫌いな末っ子の
カルトは小川に入るのを嫌がって泣いて・・・・。
三男のキルアだけが楽しそうに川の中で魚を追い回していて・・。
鮮烈な太陽の光が唯一、プラチナブロンドのキルアの髪を輝かせていたのが印象
に残っている。
イルミを含め、ミルキもカルトも黒髪なのに、この弟だけは父譲りの銀髪であった。
それが、かつてのイルミには、ひどく羨ましかったことを覚えている。
(この弟には、負けたくない・・・・)
そう、思っていた。だけど逆に愛しくもあった。
しかし裏返せばそれは父に容姿や才能さえも似ているキルアへの複雑な感情であった
かも知れないけど。

「ねえ、カルト、訊いてもいいかい?」
イルミの不意の問いかけに妹が顔を上げた。
「オレとキルと、どっちが好きかな」
イルミの問いにカルトはその表情を僅かに歪ませた。
イルミは、口元だけで少し微笑んだ。
「やっぱり、キルなんだね・・」
カルトの漆黒の大きな瞳から、一粒の涙が零れ落ちた。
「どうして、そんなことを聞かれるの・・・・?」
イルミは無表情な顔をしているだけだった。
「わたくしには、キル兄様もお兄様も、どちらも大切なんですもの。比べたりな
ど出来るものではありませんわ」
イルミが溜息をついた。
「ごめん、オレが悪かったね」
カルトが自分の帯にはさんでいた懐剣を取り出す。それをすらりと抜いた。
青白い刃の輝き。それは、誰かを思い起させる。
カルトが言った。
「そんなに苦しいならば、わたくしがお兄様を殺してあげるわ」
「どうせなら、兄弟の手に掛かって死ぬのもいいなあ」
イルミは、いつもの感情の無い顔で言葉だけ自虐的に答えた。
カルトは、その美麗な顔をまた歪ませる。そして、言った。
「お兄様が、一番、可哀想だわ・・。キル兄様よりも・・・・」
カルトは立ち上がると、振り袖を翻して部屋から出て行った。
イルミは、傍らにあった本を手に取る。それをまた引き裂いた。
カルトの割った瓶の欠片、それから流れ出た液体と、イルミの引きちぎった本の
残骸。
暗い部屋は、なお暗く・・・窓の無い石造りの彼の私室はそのままで牢獄のよう
で。
月は、既に昏い。
血の呪縛は束縛の鎖、それは永遠に解放されることはなく。星の光さえもこの夜
を守ることはできない。あらゆる自由は奪われて久しくて、それは、死に至りつくその
日まで全ての不安をも呑み込んでいく。

 「逃れられない宿命と血塗られた運命。彼にはただそれだけしか与えられていない」







悩めるお兄様はアル中か?てか、アクションがないわ、、。ショートショートなので、
どうか勘弁して下さい、、(涙)ちと納得がいかないところもあるのですが、、、。
あ、謎の5人目の兄弟は無視しております(苦笑)


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ありがとうございましたv
もう、いつもいつもステキな小説を貰ってばかりで申し訳ないです(><)
ボキャ貧な私にはとてもこの感動を言葉に表せそうにないのが悔しいです…。
ああ、カルトになりたひ(笑)
でも私なら間違いなく「イル兄の方が好きv」って言いそうだな。
何だか…今すぐイルミの所に飛んでいって抱きしめてずっと側に居てあげたい
衝動にかられました(病気)


ホントにありがとうございましたv


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