銀色の面影            
         
 

石造りの彼の私室には窓が無かった。青ずんだ光の常夜灯だけが室内を照らしている。
調度類も鉄製の寝台と椅子が一つだけで飾り気も無い。ただ蔵書だけが床の上に無造作に山積みされているのが目立つ。
その時、扉が重い軋みをあげてプラチナブロンドの髪をした少年が顔を覗かせた。中に部屋の主が不在なのを確かめる。
「ふん、相変わらず、愛想のねー部屋・・・・」
少年は、少し安心したかのように呟いて、ずかずかと室内に入り込むと床の上に座り込んで大量の本の中から何かを探し始めた。
「あれえ、兄貴なら持ってると思ったのになあ・・」
髪を掻きあげながら溜息をつく。本を引っ張り出しては放り投げた。
「なにしてるんだい、キル」
不意に背後から声をかけられてキルアはびくりと顔をあげた。
この長兄はいつだって気配を感じさせない。振り向くと、イルミが扉の前に立っていた。
「だめだよ、無断で俺の部屋に入っちゃ」
咎めている割には、そうでもなさそうな普段通りの表情でイルミは言う。
「いや、ちょっと本、借りようかなって思ってさあ」
キルアは平静を装って悪気なさげに答えた。
「ふーん、何の本?」
「黒魔術のやりかたが載ってるヤツ」
イルミは寝台に寄り掛かると気だるげに頬杖を突いて訊いた。
「キルってば、誰か呪いたい訳?」
すっげー呪いたい奴なら目の前に居るんだけどなと、キルアは考えながら、
「ちょっと興味あんだよ、呪いって非科学的でなんか面白そーだしさ」
イルミは闇色の瞳でキルアをちらりと見て言った。
「俺、呪いとか関心ないな、まあ、類する本ならその辺にあると思うけど、家の書庫に行った方が早く見つかるんじゃないの?」
「イル兄なら持ってそーだと思ったんだけど、まあ、いいや」
キルアはこの兄が、かなり苦手だ。早々に部屋を出て行こうとした。
「キル」
イルミが弟を呼び止めた。そして壁の棚を指差しながら、
「あれ、取ってくれる?杯とね」
「あ?・・うん」
キルアは壁の方を見た。さっきまで気付かなかったが、薄暗い壁際の棚には琥珀色や赤い色の液体が入った瓶と銀の杯が幾つも並んでいた。
「これって酒じゃん?」
イルミと瓶を見比べてキルアが不審そうに言った。
「兄貴って酒好きだったっけ?」
「別に好きじゃないさ」
キルアに手渡された瓶を開けてイルミは杯に中身を注いだ。その杯をキルアに向ける。
「え?オレ、酒って呑めねーんだけど・・」
「いいから、呑んでごらん」
キルアは杯を受け取って飲む真似をしながら、やっとイルミが既に酔っていることに気付いた。顔色は白いままなのに近づくとひどく酒臭いのだ。
「あのさ、イル兄・・・なんか変なんじゃねえの?」
イルミはその問いを無視して瓶に唇をつけた。そのまま残った液体を一気に呑み干す。そして吐息をついた。
(兄貴って、今日、ぜってー変だ)
キルアはイルミの顔から様子を窺おうとしたが、相変わらずの無表情からはその心の動きなど読み取れもしない。
(あれ?)
キルアの視線がふと兄の黒髪に止まった。普段は鬱陶しいくらい長ったらしく感じて、でも肩から流れ落ちる様が魅惑的なその髪から艶が消えている。
いや、なにかが髪にこびりついているのだ。血液だ。黒く固まって髪に絡み付いている。
「へえ?めっずらしー、返り血でも浴びたんだ」
「まあね」
イルミは投げやりに答えて寝台に横になると目を閉じてしまった。
(そういえば、イル兄って「仕事」だったかなあ?・・・聞いてなかったけど)
 キルアは、ぼんやりと思いながらイルミの寝顔を眺めていた。自分も「仕事」の後に虚無感に襲われることがある。
だけど、この長兄が「仕事」の後で心を乱されるようなことは今迄に無かったようにも思う。
(ヘンなの、わけわかんねーや)
感情を殺すことを自分に教えたのは、この兄の方なのに。
「ねえ、誰を殺ったのさ?」
何となく聞きにくかったが、キルアは遠慮がちに、だけど思いきって訊ねてみた。
無視するかと思ったがイルミはあっさり返事を返した。
「キルと同じ髪の色の女」
イルミが目を閉じたまま続けた。
「やっぱりさ、どんな人間でも血の色は一緒だね、白く輝いててさ、綺麗な髪だったんだけどなあ・・・多分、産まれて来る子もあの女みたいな髪の色だったんじゃないかな、その女、身籠ってたんだ」
キルアは兄の饒舌の理由が少しだけ解った気がした。
「だからさ、俺、自分の髪をあの女の流した血に浸してみたんだ、あの女の髪の色が移らないかな、なんて思ってさ」
イルミは目を開いた。弟の顔を見詰めて言った。
「俺さあ、キルの髪の色、好きだよ、親父と一緒だからね・・・」

キルアは急に踵を返すと慌てて兄の部屋から飛び出した。暗く冷たい廊下を走りながら、何故だか泣きたくなっていた。

「兄の髪は新月の闇の色。その瞳も砂漠の混沌とした夜の色。
 弟の髪は白い月光の色。その瞳は夜明けよりも明るい空の色」

同じ血が流れている。
なのに宿命をかえることはできない。
きっと残酷な運命の末路が待っている。






また、だあく(笑)だなあ。なんとなく、これって愛人(?)を殺しちゃったお兄様
をイメージしてしまったような、、!?(自分で書いてて怖い、、)人様のキャラで
書いたの初めてです。いつもはこてこてな時代物しか書かないので(苦笑)現代物(? ?)
ってむづかしいです。書いたことなかったので、、。また長くなってしまいまし

た。失礼します。 える。

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ありがとうございましたv
ああ、やっぱりえるさんの書かれるイルミはツボです。
本をいっぱい持ってる兄貴vお酒に酔ってる兄貴vvちょっと悲壮感漂う兄貴vvv
どれもこれもツボで…そんなツボ要素をすっかり忘れて読みふけって
しまうくらいステキなお話でしたv
ホントにどうもありがとうです(^^)
タイムリーにも丁度イメージぴったし(?)な壁紙をゲットしたばかりだったので使ってみたり(笑)




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