ぽろんっ・・
ぽろろんっ。
なんか、聞いたことある気がするメロディ。
なんだろう・・・。
俺の足は、自然とその音のする音楽室へと向かっていた。
-SOKUBAKU-
音楽室にはいると、ぴたりっと音が止む。 俺はおそるおそるピアノの方を観てみる・・・。 と。 「あれ・・・観月サン・・・。」 意外なヒトが座っていた。 それも、良く知ってるヒト。 「裕太クン、珍しいですね。」 観月サンは、にこりと微笑んだ。 珍しく。 裏のない笑顔。 「・・・今日って、スクールの日じゃ?」 「たまには息抜きも必要ですよ。」 意外な答え。 観月サンが息抜きを必要とするなんて。 いつでも気高く俺達を導いてる姿からはそんなの微塵にも感じられないのに。 何故か。 心の奥で少し嬉しい気がしたのは気のせい? 「それ・・・なんていう曲ッスか?」 観月さんの細い指先が鍵盤を流れ出すと、 またあの耳に懐かしい旋律がよみがえってくる。 懐かしい。 そう形容するしかないほどに遥か昔に聞いたきりの気もするけれど。 「わかりませんか?第9ですよ。」 「・・・・ぇえ?!だって・・・。」 「かなりアレンジしてますけどね。」 |
第9・・・ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーベン作曲の交響曲第九番『合唱付』・・・。
毎年学院の年始祭には講堂で歌わされている。
けど、それといま観月サンが弾いている曲はどう聞いても同じとは思えなかった。
それに、もっと違うところで聞き覚えがあると思う。
はっきりと、コレと同じ曲を。
「これって、観月サンがアレンジしたんですか?」
「いや、僕が小さい頃にピアノを習っていた先生から教わったんですよ。」
「ピアノの先生・・・・・。」
あ。
...もしかしたら。
「ねぇ観月サン、そのセンセって、茶髪で目つきがちょっとキツいヒト?」
「そうそう。よくわかりましたねぇ・・・。」
「それ、兄貴もピアノ教わってたセンセッスよ。」
「・・・周助クンが?」
「ど〜っかで聞いたことあると思ったら、そっか、兄貴か〜。」
「・・・。」
俺が、今まで悩んでいたコトが解消して晴れ晴れした顔をしていると。
観月サンが今度は妙に神妙な面持ちになる。
「周助クンも・・・これが弾けるんですか?」
「【弾けた】カナ。今は・・・さぁ?」
心なしか、観月サンの手が震えている気がするのは、気のせい?
「そう。」
「そうですか。」
観月サンはガタンッとピアノのふたを閉めて立ち上がる。
その表情には、さっきまでの柔和さは消えて。
「そろそろ、スクールに行かなくてはね。
裕太クンも、油売ってないでちゃんと来るんですよ。」
「待って。観月サン。」
「なんです?」
俺が腕を掴んで引き止めると、鋭い視線が突き刺さってくる。
怒ってるときの目。
何かが思い通りにいかないときの目。
兄貴に勝てなかったことを、まだ悔やんでる。
「らしくないッスよ。」
「なんのコトですか。」
「いつまでも、兄貴に負けたことを悔やんでちゃダメッスよ。」
「ふん、そんなコトをキミに言われるとはね。キミの方が、『兄貴』に執着しているじゃないですか。」
「ま・・・そーなんすけど。観月サンは、んなコトで動揺してるんじゃなんか違う気がするんスよ。」
「観月サンは、俺らを引っ張ってくれてるヒトですから。
このルドルフ学院男子テニス部の、中心にあるべきヒトですから。
だから・・・はやく気を取りなおして、いつもの観月サンに戻ってください。」
「裕太く・・・・。」
俺は、何か言いかけた観月サンの唇を自らので塞いで。
んで、呆気に取られている前でなんとか慣れないけど
笑顔をつくってみせた。
「俺,いつもの観月サンが好きなんで!
だから、早く戻ってくださいね。」
呆然とした表情の。
観月さんの視線をそれ以上浴びるのが恐くて。
俺は、ささっと音楽室を退散した。
ちょっとばかり大胆過ぎた行動に反省しながら。
ハジメテノアイノコクハク・・・・?
end
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転載を快く承諾してくれてありがとうございましたv
挿し絵まで描かせてもらって…友香さんのステキな小説の品位を
限りなく落としているような気がします、申し訳ないです(苦笑)
これからもこれに懲りずに(笑)宜しくお願いしますね♪