――8月16日、早朝。 昨夜に愛知から戻ったは懸命にいつもの公園へ向かって駆けていた。 もう2週間は流川に会っていない。これほど長く流川と会っていないのは交際を始めて以来、初めてである。それになによりも、流川に「会いたい」と強く思ったあの仙道と話した日から既に10日近くが経っている。 気持ちがはやっているせいか足元がおぼつかない気がする。と走る事しばらく。見知った公園が見えてきての駆けるスピードが無意識にあがった。入り口脇に流川のロードバイクが停めてあるのが見え、パッとの顔が華やぐ。通常通りとはいえ、もう流川が公園にいる証左だからだ。 「流川くん……!」 公園に入って流川の姿が見えた瞬間には彼の名を呼んでいた。手を止めて振り返った流川のそばまで駆け、そのまま勢いで流川の大きな胸に飛び込むようにして抱き着く。 「会いたかった……!」 すれば腕の中で流川が驚いたような気配が確かに伝った。 「……なに……」 「会いたかったの、すごく」 「なんで……」 「なんで、って……好きだから」 「――!」 少しだけ流川が驚いたような顔を見せ、へへ、とははにかむ。そうして流川が手から零したバスケットボールを拾い上げるとなお笑った。 「流川くんにも会いたかったけど、ずっとバスケ不足だったの。身体、なまっちゃってるかも」 そしてバスケをしようと促すと、ややあっけに取られていたらしき流川も表情を引き締めて頷いた。 いつも通りバスケをしているといつもの感覚が戻ってくる。やはり流川とバスケをするのは楽しい、と汗を流すことどれくらい経っただろうか。ゆうに一時間は過ぎた気がする。と二人して芝生に座って水分補給を兼ねた休息をとる。 久々だからか話したいことがいっぱいである。ひとしきり喉を潤してからは流川を見上げた。 「お盆休み、流川くんなにしてたの?」 「べつに、フツー……、バスケして寝てた」 すれば案の定な答えに笑みが零れてしまう。特に親戚巡りなどはしなかったらしい。 「あんたがいれば……デートできた、と思う」 「そっか……残念。じゃあ来年は――」 言っては言葉を噤む。来年はここにいるかすら分からないんだった、と過らせていると流川が首を捻り、なんでもない、と首を振るう。 「もう結果は知ってると思うけど、インターハイすごかったよ。……うちは準優勝だったけど」 陵南のことには触れずに言うと、やや流川の顔が曇った。 流川が陵南や仙道を連想させるような話題の時にするいつもの反応とは違っており、は首を捻る。 「……どうかした?」 「……いや……」 彼は口籠ったが、やや様子がおかしい。――まさか仙道となにかあった、とか。いやまさか……と少し不安に思っていると、すっと流川が大きな両手での頬を包んできた。 「べつに……なんでもねー」 「え……」 「あんたがオレを好きなら、もうそれでいい」 「え――ッ」 どういう意味だ、と発する前に言葉が流川の唇で遮られてはギュッと瞳を閉じた。 この感触、久々だ……。なんだか涙が滲みそう。こうしてずっと触れたかった、ともすぐ流川の首に両手を回して応じた。 「ん……ッ、ん」 互いに夢中で互いを欲しているのがいやというほど分かった。流川もきっと会いたいと思ってくれていたのだろう。それが嬉しい、としばらく夢中で互いの熱を堪能してから唇を離す。 荒い息を吐きながらはくたりと流川の肩に額を預けてもたれ掛かった。流川の息も少しあがっているのが身体から伝わってくる。互いにまだ足りないと互いを欲しているのが痛いほどに伝って、の芯がじんわりと熱くなってくる。 「……今日……部活、2時には終わる」 「ん……?」 「どーする?」 ゆるゆると髪を指で遊ばせながら言われて少しだけは笑った。なにが言いたいのかすぐに分かったからだ。なにせ夏休みで平日なぶん、流川の家には誰もいないのだ。 「流川くんの家に行きたい」 キュッと流川の腕に触れつつ言うと、流川が微笑んだような息を漏らしたのが伝った。 「じゃー駅までむかえにいく」 ん、とは頷いた。そうして思う。改めてとても流川が好きだ、と。 なぜこれほど好きになったのか不思議だったが……たぶん自分には彼が合っていたのだと思う。きっと自分とは合わないと思っていたというのにだ。その感覚を信じたままでいたらこんな幸せな気持ちを知ることもなかったのだろう。 こうなってほんとうに良かった……とは朝日を浴びながら満ち足りた気持ちのまま緩く笑った。 |
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色んな感情が絡み合っての朝、という……。
ちょうど20話で話もいい区切りになりました。→ Web拍手