キャンバスに向かって作業がしたい、とがいったん取手のマンションに帰ったのが一昨日。
 今日はまたこちらに来るという。
 今日の午前中は雨模様だったことも相まって、及川はバスにて大学に赴いていた。ゆえに部活帰りにつくば駅でと待ち合わせて、そのまま駅直結の大型ショッピングモールで買い物をして帰ろうと昼食の合間ににメールを送った。
 返事はOKで、パッと笑った及川は部活を終えてワクワクしつつ駅に向かった。と一緒に生活用品ショッピングは思いの外楽しいものだ。
「及川くん……!」
 改札付近で待っているとしばらくしてが現れて、及川も手を振って並んでショッピングモールへと向かう。
「今日の夕飯なんにしよっか」
「んー、なにか買って帰ってもいいけど……」
「ハイでた! もー、ちゃん俺がいないと不健康一直線だよ!?」
 そんな雑談をしつつモール内のスーパーに行こうとしていた及川の目にドラッグストアが留まり「あ」と足を止める。
「あー、そろそろ抑汗剤切れるんだった。ちょっとドラッグストア寄って良い?」
「うん」
 そのまま行き先をドラッグストアに変え、店内に足を踏み入れて及川は「んー」と唸る。
「俺も大学生になるんだし、そろそろ今のデオドラントウォーター卒業しなきゃかな?」
 なんか中高生ってイメージあるし。と零すとは首を傾げた。
「でも私、あのニオイ好きだな……。及川くんのニオイって気がするもん」
 慣れてるだけかもしれないけど。とちょっとはにかみながら言われ、ぐ、と言葉に詰まった及川はやはりいつものデオドラントウォーターを買おうとすぐさま前言撤回し、商品棚を探そうと店内を見渡す。その目にふと衛生用品の棚が飛び込んできて及川はハッとした。――そういえば、”アレ”のストックも心許ない。
 チラリと及川は違う棚を見ているらしきの方に目線を送った。
 こういう時、どうするのが正解なのだろうか? サッと気づかれないよう購入して補填するのがスマートなのか?
 けど。でも。こういう部分をなあなあにしてすれ違ってしまい、何でも話し合おうと言ったばかりだし。と、及川はゴクリと息を呑んだ。幸い近くに他の客はいないし……とのところまで歩いていく。
「あの、さ……ちゃん」
「ん……?」
「ええ、と……。ゴム、買わなきゃなんだけど」
 そうして耳打ち気味に言ってみると、ぴく、との頬が反応して少しだけ目元が泳いだもののこちらを見上げてきた。
「そ、そっか……。あの、次は私が買えばいい?」
 が。はどうやらそれを違う意味での催促だと受け取ったようで及川は慌てて首を振るう。
「違う違う違うの! それはヤメテお願いそこはいいからそういうんじゃなくて!」
 精一杯声を殺して訴え、さすがに気恥ずかしくて片手で顔を覆ってしまう。
「こういうの、ちゃんと二人で……って思ったんだけど……」
 そして懸命に訴えればも理解したのか、小さく頷いてくれた。
 そして目的の棚に移動しつつ及川は微かなデジャブを覚えた。――あれはいつのことだっただろうか。確か部活後に岩泉とドラッグストアに寄ったときの事だ。制服の高校生と思しきカップルがイチャつきながら衛生用品棚の商品を手に取る様を見てしまい、生まれて初めてリア充を呪ったり脳内で突っ込んだりした事があった。
 でも――。
 今でも制服でソレはどうなのかという気持ちはあるが、ある意味彼らは正しかったのかもしれない……、とあの日に「とあんな場面を見たら気まずくなっちゃう」と感じた自分を及川はどこか懐かしく思った。懐かしいと思うほどにはと自分の関係は同じようでいて変わったんだな、と感慨深い。
 一方のはというと、棚を前にして物珍しかったのだろうか。気恥ずかしいよりも好奇心が勝ったように「わあ」と感嘆している。
「い、いっぱいあるね……」
 及川は少しだけ苦く笑った。この中のどれを選んでもOKならばさぞ楽しかっただろうが。――自分の涙ぐましい事前セルフ研究により、とそういう関係になる前までにどれが合っているかは試しておおよそ知っている。とは説明せずに及川は目的の商品が棚に並んでいたことにホッとしつつ手に取った。
「俺はコレがイイんだよね」
「そ、そっか……」
ちゃんが試したいなら別のも買ってイイけどさ」
 さすがにサイズは同タイプでね。と言うとはカッと頬を染めてふるふると首を振るった。
「だ、大丈夫……!」
 その様子に及川は苦笑いを漏らし、当初の目的でもあったデオドラントウォーターも一緒に持ってレジへと向かう。
 そして購入した商品をカバンに仕舞い、今度こそカートを転がしながらスーパーへと足を向けた。
 そうして食材を一緒に選びつつ及川は頬を緩ませる。――あの高校生カップルを見たあと。どうしてもに会いたくてたまらなくて、仙台駅で偶然彼女に会ったときはたまらずに駆け寄って抱きしめたんだっけか、とふと思い出したのだ。
「? どうかした……?」
 不審に思ったのかが小首を傾げて、なんでもなーい、と及川は茶化すように笑った。
 でも、家に帰ったらあの日の出来事を話してみてもいいかもしれない。今日もずっと二人きりでいられるんだし、と抑えきれない笑みを零す及川の視界にがますます首をかしげるのが映った。

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