なんてったって今日はクリスマスイブだし。ようやく念願のベニーランドデートも叶ったし。

 ていうかデートできただけでも良かった。これで何とか年越せそう。

 と、上機嫌でカップルひしめくイルミネーションの通りを抜けてカノジョを家に送っていく。
 そうして予想外に真っ暗な家を前にしてカノジョが言った一言はなかなかに強烈だった。

「お父さんとお母さん、クリスマスディナーに出かけてるの」

 なんでも両親揃ってクリスマスデートで家をあけていたらしく。仲が良いんだなぁなんて感想よりも何よりも真っ先に脳裏に浮かんだ感情は死んでも告げるわけにはいかない。
 けどとっさにリアクションできないでいると、案の定カノジョは首を傾げてこっちのヨコシマな気持ちなんて一ミリも分かりませんて顔浮かべてて、どうにか邪念を振り払って抱きしめて額にキスしてみる。
 そうして別れて帰路につけば、やっぱりイロイロ考えてしまう。不可抗力だから仕方ない。
 ――高校生で、お互い部活が第一で。もちろんお互いの家になんてあがったことないし、そういうチャンスは漫画のように都合良く巡ってはこない。
 ていうか高校生だし。そうそうアニメや映画みたいなチャンスが降って湧いてくるかっての。って半ば悟ってたってのに、まさにその「チャンス」があったなんて知りたくなかった!
「あああコレ罰ゲームかなんか!? 俺試されてる!?」
 いまこの場に岩ちゃんがいなくて本当に良かった。コレあれだ。「お前、マジで最低だな……」とガチで引かれるアレだ。
 でもさ、俺高校生男子だし! 岩ちゃんみたいにモテなさすぎて枯れてないし!? って頭を抱えて脳内岩ちゃんに八つ当たりしたら脳内岩ちゃんに叩かれる所まで想像できて思わず後頭部をさすってしまった。

 ――ベニーランドデート、夢だったし。
 でもカノジョの家でまったりデートもできたよな。
 ――楽しかったんだからそれでいいじゃん。
 交際5ヶ月目にしてついにキスまでの関係に終止符打てたかもしれないのに?

 あああ及川徹の中で及川徹が言い争ってる!
 ああもう認める、認めるよ。カノジョの部屋に入ってみたかったしカノジョのベッドで――と一人悶々としていた所でブルッと携帯が震えてハッとする。メールだ。

 ――今日はすっごく楽しかった! 会えてほんとに嬉しかった。ちょっと早いけどまた来年もよろしくね!

 開いてみるとカノジョからのそんなメッセージで、うぐ、と思わず言葉に詰まってしまう。
 ――ゴメンナサイ。
 と、こんな可愛いメールを送ってくれたカノジョと煩悩に支配されまくった自分のあまりの差に呟き、ふ、と肩で息をする。
「ま、いいもんね」
 今日、楽しかったのは事実だし。また「来年」も一緒なんだし。
 まあもうちょっとだけ今のままの関係でもいっか。上手くいってるんだし、焦る必要なんてないよね。

 ――俺も! 初詣一緒に行けないのはサビシイけど、新年一番にメール送るからちゃんと起きててよね!

 気持ちを切り替えて返信を送り、ハァ、と息を吐くと白い靄が闇に溶けていった。
 うん、やっぱり今日は人生で一番のクリスマス・イブだ。

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