「うっわ、いい眺め!」

 思わず立ち止まって呟いてしまう。
 荒い息は澄んだ景色の中に消えちゃって、心地イイ疲労感の中で見下ろす緑いっぱいの仙台は別格だ。

 写真でも撮っちゃおっかな、といそいそとポケットからスマホを取り出す。
 けれどもいま一番この景色を見せたい相手は生憎とガラケーユーザーでLINEは使えない。
 月曜の朝。オフの日も早朝からロードワークを爽やかにこなしてしまう俺と、たぶん朝はそう強そうにないカノジョ。
 起きてる確率は半々ってトコかな、と思いつつも写メを送ってみる。

 ――おっはよー! 爽やかな朝に相応しい風景をお届けだよ!

 岩ちゃんなら登校一番に「鬱陶しいメール朝から送ってくんな鬱陶しい!」なんて酷いこと言ってくる姿が容易に浮かぶほど浮かれたメッセージを送って、フェンスに身を寄せる。
 吹き上げてくる風がキモチイイ。
 携帯はあまり使わない、なんて言うカノジョだけど岩ちゃんと違って割と返事はちゃんとくれる。こっちが鬼メール送ってる時以外はだけど。
 それにぜったい「この景色」には釣られるって俺知ってんだから。と、伸びをしているとブルッと携帯が震えた。

 ――おはよう。すっごく良い景色! どこまでロードワークに行ったの?

 反射的に顔が緩んだのが自分でも分かった。
 我ながら巧妙な布石だ。さすが俺。なんて自画自賛しつつ新たなメールを打つ。

 ――ヒミツー! でもどうしても知りたいって言うなら今日の放課後連れてったげる。どう?

 今日は月曜。部活は貴重な貴重なオフ。絶好のデート日和だというのに絵バカを通り越して絵狂いのカノジョを連れ出すのはそれほど容易ではない。
 だからこういう「仕掛け」は必須だ。甘い物が好きな女の子とかマッキーを釣るのにスイーツが必須なように、カノジョを誘い出す一番の手はコレ。

 ――スケッチブック持っていってもいい?
 ――モッチロン。けどその後、駅そばのクレープ屋に付き合ってもらうからね?
 ――うん。

 すぐにOKの返事が来て思わず声を漏らして笑ってしまう。
 んー、やっぱり早起きは三文の徳ってホントだったね。なんてヘラッと笑ったまま携帯を仕舞ってロードワークを再開した。

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